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< 襤褸を纏う聖者(9) | メイン | うー先生の至福の当直 >
それにしてもなんと、おっさんが殺めたのは、押桐さんのお父さんでした。
これは単なる偶然だったのでしょうか?
おいらにはそうは思えません。
警察に追われていたおっさんは、車の中や、夜の病院を転々としながら、罪滅ぼしをしようとしていたのでしょうか。
実はさらに深い事情があったらしいのです。
真偽の程は定かではありません。
とても信じがたい話ですが。
実は、おっさんの死んだ次の日のことでした。
医局に、おっさんからおいら宛に手紙が届いていました。
しばらく、封を切る暇もなく、仕事にあけくれていたおいらは、数日後に、やっと時間が取れるようになりました。
おいらは、大学院棟の自分の机でゆっくりと手紙を広げて読みました。
「あんちゃん、この手紙をあんたが読んでるころはもう、おれは、三途の川を渡っていることだろう。
実はあんちゃんには、隠していたのだが、おれは昔、ひとを殺したことがある。
だから、地獄で償いをしないといけない。
おれは、もうその覚悟はもう出来ている。
この手紙を書いたのは地獄におちる前に、あんちゃんにだけは、本当のことを言っておきたかったからだ。
あんちゃんの病院に、女の子が入院しているはずだ。
おれが、殺したのはその娘の父親だ。
昔、おれは、腕のいい鳶職人だった。
女房は、息子が生まれた後、産後のひだちがわるく、すぐになくなったので、おれは、男手一人で息子を育てたんだ。
だが、神様は残酷なもんだ。
息子が高校に上がった年、病気が見つかった。
治療には、ものすごい大金が必要だと聞いて途方にくれたおれは、治療費ほしさに包丁を持って、銀行を襲ったんだ。
その時は誰も殺すつもりはなかったが、あの娘の父親に飛びかかられたので、無我夢中で包丁を振り回したら、やっちまってた。
でも、結局、悪いことをしてお金を盗んだばちがあたったのかねえ、治療を受ける前に息子は逝っちまった。
それからだよ、殺したあの娘の父親がおれの夢に出るようになってうなされるようになったのは。
おれは気が狂ったように、酒で幻を吹っ切ろうと思ったが無駄だった。
ときどき忘れたころに、血だらけの姿で、おれの夢にでてきやがるんだ。
そして、そしてある日、ぐでんぐでんに酔っ払ってぶっ倒れたとき、おれの前についに死神が現れやがった。
「おまえには、罪の無い一家の柱の命を奪った罪を償ってもらう。だが、今はその時ではない、十年後の二月、満月の夜、北斗七星のもとで、おまえは一つの命と引き換えに果てるのだ。それを、現世での償いとして、そして、三途の川を渡ったらあの世で、裁きを改めて受けてもらおう」
そういうと、死神は消えていったんだ。
夢の中で死神が示した建物を、おれは、十年間探し続けた。
そして、ついに、最近この大学病院がまさにその建物であるところに気づいたんだ。
おれは病院の中を、ひまを見つけては歩き回った。
あんちゃんに初めてあったのもその時さ。
死神の北斗七星のもとという謎を解くためだ。
でも、謎はすぐに解けた。
北の、七階病棟。
あんちゃんの仕事場だ。
そこには、おれが殺めた男の娘が入院していた。
そこで、死神がおれに何をやらせようとしているのかが、わかった。
これで、ひとまず現世で罪を贖えると、おれは死神に感謝したよ。
あとは、満月の夜になり、おれの命を男の娘にくれてやるだけだ。
もっとも、それまで、娘の命が持ちそうになかったので、奪った金をそっくり入院費として差し出したと、こういうわけさ。
おれは、これから、たぶん地獄におちることになるだろう。
そのあと、地獄で罪をつぐなったら、おれも天国の女房と息子のところにいけるのかな。
そうだ、もし、空に飛んでいく、一羽の蝶をみかけたら、罪をつぐなったおれが天国の女房と息子に会いにいったと思ってくれ。
あんちゃん、元気でな。
あんた、きっといいお医者さんになれるよ。
でも正直者だから、ばくちは、するなよ。
ぜったいするなよ。
死んでも天国にいけなくなるよ。
地獄におちるおっさんより」
手紙を読み終えて、ふっと、窓に目をやると、サッシの外枠に一羽の季節はずれのアゲハチョウが、おいらをじっと見つめるかのようにとまっていました。
そして、おいらが、それに気づくと、すうっと、そのアゲハチョウは、羽を広げ、空にすいこまれていくように、飛びたって行きました。
「ああ、おっさんは、地獄じゃなくて、天国の奥さんと息子さんのところに行けることになったんだ。それにしても、神様も死神も、人を病気にしたり、命をかけて償わせたりとか、勝手なやつらだなぁ。でも、おっさん、天国で幸せにね」
おいらは、そうつぶやいて、いつまでも、どこまでも、空高く舞い上がって行くアゲハチョウをみつめていました。
(了)
2007-1-31
~Themes for this story~
A Question Of Honour(Radio Edit) (Sarah Brightman/A WHITER SHADE OF PALE・A QUESTION OF HONOUR)
Climbing The Walls (Backstreet Boys/Backstreet Boys)
Songs of the Evergreems(Chicago/ChicagoVII)
おつかれさまです。
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コメント
コメント一覧
先生は、病院生活で、奇跡的に助かった患者さんをご覧になったことありますか?きっと、ありますね。
殆どの家族が、奇跡を信じて看病しますが滅多なことでは起こりません。そうすると、人間の寿命って決められているのかな?とも思ったりします。
人間の人生には、たくさんの紐が絡んでて、一本を引くと、それが連鎖反応を起こして、また思わぬ結果をひきおこしたり…、だから人生って面白いのかもしれません。
実は今2本お話を考えてます。一つは、おなじみうー先生と亜樹子先生のどたばた「死闘!ゴージャス女医日本一決定戦!」もう一つは、末期がん治療に題材をもとめた、おもたいねた「生きた・守った・闘った!」さて、どちらを先にうぷしますか?まだ、ストーリーエディターでブレインストーミングして、遊んでる段階なので、アレなんですけど…。
次々とアイデアが浮かぶようで、うらやましい限りです。
ぜひ書籍化を。ゲーム化までしちゃったらすごいですねー。
病気は全て神や死神の仕業によるもので結末が最初から決まっているとしたら、医師はそれに翻弄されているだけではないのか・・人の生死を扱っていると、たまにそんなことを考えたりしそうですね。
次回はアクセス数UPのエッセンスなし。
直球勝負でどうですか?
決めました、次の中篇は「生きた・守った・闘った!」です。
生きた・守った・闘ったってどこかで聞いたような。
今度は、看護師さんに人肌?脱いでもらう所存です。
全く同じ話はないですけど。
奇跡としか思えない事って、ありますよねー。
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