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その夜、日付も変わりそうな頃、おいらと、たくちゃん、ジャンボ先生は、ファミレスで、遅い夕食を食べていました。
「とにかくだ、もう人間を練習台に使うのは無理だ!!」
たーんとアイスコーヒーのグラスをテーブルにたたきつけて、たくちゃんは叫びました。
周りのお客さんがびっくりして、ぎょっとした顔で、おいらたちのテーブルを覗きます。
「でもさあ、ジャンボ先生の翼状針は、うー先生の血管には、ちゃんとはいったんだよね」
おいらは、ジャンボ先生が自信をなくしちゃうと困るのでフォローしました。
「すみません、失敗したときのことを考えたら、指が震えちゃって、それに、うー先生の声に過敏に反応してしまいました」
「まあ、要するに、自信が出来ればいいんだよね」
おいらは、夕食のフランクフルトにフォークをブスリと突き刺しました。
その時です。おいらの頭に、ちょっとひらめくことがありました。
ジャンボ先生は、とても繊細な性格の人なのです、周りからプレッシャーをかけられると、自分の持ってる力の半分も出せない人のようです。
それなら、周りからプレッシャーをかけられても、動じないぐらいの度胸をつけてもらうことが大事だと思いました。
やっぱり、練習しかないなと。それも、楽な気持ちで練習できないとだめだよな、と。
でも、たくちゃんは相変わらず、ご機嫌斜めです。
「おい、あかがま。どだい、この子に点滴は無理だよ。今度、へんなことをやらかして、えらいおひとから、お叱りをうけるのは、おれはもうまっぴらごめんだぜ」
たくちゃんは、もうたくさんだといいたげに、ぐいっと一飲み、アイスコーヒーのグラスを空っぽにしました。
そのあともいまいましそうに、グラスを振ります、氷がカラカラカラッと不愉快な音をたてました。
ジャンボ先生は悲しそうな眼でおいらの方を見ています。
おいらは、黙って、気にしなくていいからいいからというように、ジャンボ先生に笑って手を振りました。
その後、二人と別れたおいらは、帰りがけに深夜スーパーに立ち寄りました。
買ったのは、フランクフルトソーセージと、ストロー。
実は、おいらの部屋は、この深夜スーパーの二階に間借りしている1Kです。
おいらは、部屋に帰ると早速、ソーセージとストローのパッケージを開けました。
ソーセージの長軸にそって、ストローを突き刺します。
一本のソーセージに、三本ぐらいなら突き刺せそうです。
次に、突き刺したストローの内腔に入り込んだ、ソーセージの中を丁寧にほじくりだします。
病棟から無断拝借してきたゾンデを使って、丁寧に丁寧に、ほじくりだします。
これで、ストローのトンネルを中にもったソーセージの出来上がりです。
それを、何本も、何本もおいらは夜鍋をして作りました。
しめて十本、これを使って、ジャンボ先生を特訓です。
これなら、実際の患者さんに針を刺すときのプレッシャーもないはずです。
病院によっては、人の腕の形をした、点滴のトレーニング備品があると聞きましたが、荒川医大には、そんな気の利いたトレーニング備品なんてありません。
おいらの先輩は、肝生検の練習をするために、ハムを買って、それを人の肝臓に見立てて練習してました。
おいらは、先輩が当直室の冷蔵庫に練習用に隠してたのを知らずに、こっそり食べてしまい、先輩にこっぴどく怒られたことがあります。
フランクフルトにフォークを突き刺したとき、その先輩のことを思い出したのです。
ジャンボ先生、これで、点滴になれてくれるかなあ。これで、点滴がうまくなってくれるといいなあ。
そう思いながら、作った十本のフランクフルトソーセージを、レジ袋にいれて、壁の時計をみると、もう朝の六時になっていました。
二時間ほどゆっくりしたら、また今日も、病棟係の仕事が待っています。
おいらは、服をきたままベッドに転がり込みました。
次回完結・つづきます。