相手から情緒的に激しく追及されたり、とりわけ強い怒りをぶつけられた際に、依存型ジャイアンは「フリーズ」する。思考などの認知活動が一時停止し、無表情で何も感じない、何も考えないという「お地蔵さん」のようになる。
私はジャイアン型ADHDを6つに分類し、その中の3つが依存型ジャイアンであるが、特に私が「情緒障害型依存型ジャイアン」と名づけている一群にこの「フリーズ」が決まって見られる。
http://www.geocities.jp/yanbaru5555/jaianprosess.mht
このタイプはもともと非言語的な状況察知能力が比較的高いジャイアンが、合理的な説明が乏しく(あるいは不合理な支配の下)非言語的に威圧されて育ち、支配する大人の顔色だけを見ることに特化して「虐待されないため、責められないため」のスタイルとなったと私は想定している。
依存型ジャイアンの本質は「超場当たり的な思考」と「依存する相手との表面的な関係だけを 大事にする」という行動原則だ。
超場当たり的でその一瞬だけに生きるので、時間的に継続した他者との関わりは認知されず(実際合理的思考があっても奏功することは無い環境の中で捨てられ)、「その場の空気、依存相手の感情だけを読み取る」ことがコミュニケーションの全てなのだ。
その結果、「本質が見えていないから、表面上切れられたから終わり」という意味になる。相手が怒ったらもうどうしようもない。宥めたり点数稼ぎをしたりしようとする以外に方法が浮かばない。
だから依存型ジャイアンには 「本当に理解しあうためにはぶつかり合う必要もある」「ぶつかり合ったことにより、 結果として理解や信頼関係がより深まる」という可能性は想像も出来ない。
ところで見た目は重症であるのだが、このタイプ(情緒障害型依存型ジャイアン)は認知療法で意外に改善する。「時間的継続性」「責任」「意味」「他者」について基本的に説明し、「相手の過去3日間の発言をメモして見ながら考える訓練」などの実習で意外に簡単に改善する。
回復してくると合理的思考が停止しなくなるので、「フリーズ」する代わりに、冷静に反論したり出来るようになる。ADHDらしい「突っ込み」の回復だ。
以前にも少し触れたと思うが、ジャイアンには良く言えば特有の「前向きさ」がある。逆境にあっても生き抜く生命力を持ち、実際「どんなことをしてでも生き抜く」根性がある人が多い。
これはあくまでも「良く言えば」であって、実情は「異常な楽観主義」とも言うべきものである。 これもまたファンタジーのなせるわざだ。
治療者としての私自身の場合で言えば、「一番良くなった経過のことから考える」ということになり、 「良くならなかった場合のことは考えないのか?」と突っ込まれて考え込んだことがある。
私は一番最初の赴任地である福岡県立太宰府病院(センターになる前)の時から重症・難治性の ケースばかり担当してきた。3つくらいの病院でいろいろな治療を試みられて良くなっていない 重症のケースばかりに最初から取り組んで来た。
その悪戦苦闘の中から全ケースオーダーメイド で「本人の治療意欲を最大限に活用する」という今の治療スタイルにたどり着いてきた。
その中でも、「人格障害」というおよそ一番良くなりそうに無いケースに取り組み、結果としては ADHD的な「本当のことを言う」というケアが非常に有効であるということを発見して、心理士たちと カウンセリングの手法を研究してきた。
冷静に考えれば、「良くなる前提で考える」というのは誇大的も良いところで、自分に治せない ケースを想定していないことはプロとしてもとんでもない欠陥とも言うべきである。
そういう意味では最近は「自分には出来ません」ということが多くなってきているように思う。特に依存的になった場合は実際に回復が困難になるので、早々に「私には治せません」と言ったほうがケア上も望ましいと私は考えている。
いずれにしても、非常に困難な状況にあって、それでも「何とかなる」と想定し続けるジャイアンのファンタジーは、うまく行った場合には「不屈の前向きさ」ということになるが、一つ間違えば、「懲りずに悪事を止めない」ことにもなり、また依存型ジャイアンのように超場当たり的になると「ギャンブルで勝ったときしか想定しない」、「月末に金策をすれば何とかなると考えて浪費する」という異常な「現実をなめている」発想にもつながる。
どちらに向かっても、ファンタジーはジャイアン独特のやむなき現世へのエネルギー、根性の源となるのだ。
ジャイアンACにも言えるのだが、ちょっとKYなジャイアンには「病的な思い込みの激しさ」という現象があり、その結果として「ファンタジーの内容に反応して現実の行動化が起こる」という非常に救いようのない事態がしばしば起こる。
例えば自分は「嫌われている」、「いじめられている」と思い込み、結果としてサポートしてくれていた人との関係まで相手にショックを与える形で自分から断ち切り、孤立への道をたどる。
通院を勝手に中断したり、治療の枠踏み自体も突然破壊したりするので、継続的なケア自体が難しい。
私も何度もトライしても結局本人のこの種の反応で治療の枠組み自体がキープできないで治療者としてギブアップしたケースが実際あった。
起こっていることは、ちょっとした不安や不信感から相手への攻撃的な思い込み、攻撃的なファンタジーが本人の中でエスカレートし、それを現実と完全に混同して「反撃」する形で関係をぶち切る、という何とも不幸な現象であることは分かっているのだが、情報のやり取りの場自体などの治療関係自体を何度も破壊されると実際上ケアを継続させることは難しくなる。
ファンタジーの中だけに引きこもり別世界の人となって生きて行くのは、現実の世界に二次的に迷惑さえかけなければ、害が少ないとも言える。
ファンタジーと混同して現実に反応して行動化するタイプはジャイアン、ジャイアンACの中でも最もケアが難しいタイプであると言えるだろう。
リーマス、エビリファイなどの認知が情動に左右されることを予防する薬剤はある程度有効ではある。(薬剤自体も安定して服用していただくことは非常に困難であるのだが)。
前項で述べたようにジャイアンのファンタジーには「本人に現実逃避や代償満足などの利得がある」という特徴がある。その結果として、「ファンタジーに引きこもる」という経過がたびたび見られ、表面上は「難治性の妄想」という見かけとなる。
「妄想性障害」という病気がある。中年以降のどちらかと言えば活発で知能程度も高い人で、妄想以外には全く問題なく日常生活を送れる。パートナーへの嫉妬妄想や誇大妄想など、妄想内容はいろいろあるが、「抗精神病薬が効かない」という風に一般には言われている。
50代以降の女性では「退行期妄想症」という呼び方をされる一群もあり、この場合はスルピリド150mg程度の少量が著効することがある。
この妄想性障害は、もともと知能程度の高い強迫的な性格の人が多く、また自分が病気と考えていないので、当然治療は容易ではない。そのまま妄想だと言えば主治医と患者の関係も成り立たない場合が多い。結果多くの精神科医はこういう患者を敬遠する。
上記の諸特徴は、前項のジャイアンのファンタジーと実は非常に共通する。最近私は、「妄想性障害はジャイアンがファンタジーに引きこもってしまった状態」なのではないかと考えている。
難治性であることは、「このファンタジーが実はもっと大変なストレスを伴う現実から目を逸らす機能を持っている」と考えれば説明は可能だ。
「中心志向型のジャイアンが、加齢とともにそれまでキープしてきた表面的な社会的ステータスを保ちきれなくなったとき」や、「依存型ジャイアンが依存対象を失ったとき」、現実的な借金などの経済的な失敗などがある場合、ファンタジーの世界に引きこもって、自分でも信じ込み、周囲からの助言に耳を貸さなければ、現実否認を続けることが出来る。
こういう推論で病態が説明できそうな中高年の妄想の人は実はたくさんいる。実際には単純に統合失調症と診断して抗精神病薬を処方しても良くならないという経過になっていることが多いだろう。
上記のような病態であったとして、「どうやって治すか」となるとなかなか難しい。若い人なら厳しい環境調整で依存対象を断ち切り、自立する中で現実否認を根本的に乗り越えることを治療目標とするが、高齢のケースでは厳しい直面化をするとうつ病になったりその後本当の認知症に移行することもありそうなので、家族とじっくり相談することになる。
現世的な宗教に依存する「宗教ジャイアン」もこの仲間に近いだろう。またこのファンタジーの住人は、ファンタジーに近い内容の詐欺に簡単に騙されるのも悲しい現実である。
ジャイアン型ADHDに特有の現象として「ファンタジー」と私が呼んでいる現象がある。空想、想像、時に妄想に近い非現実の「思い込み」というべき現象だが、実はこれでいろいろなこれまで解明困難だった精神疾患の一部が分かる可能性があると最近思えてきた。現段階のイメージを少し描いておこうと思う。
①ファンタジーは「思い込み」である。
時に統合失調症の被害妄想に非常に似た様相を呈し、誤診されることも多いと私は考える。
②合目的的な意味がある。
内容は一見被害的でも、よくよく見ると別の自分の醜い面を直視することを回避できていたり、結果として自分が悲劇のヒロイン的立場に立ったりして、総合的に見ると統合失調症の被害妄想のように完全に本人に不利なストーリーになっていない部分がある。その意味で認知症の「作話」に近いニュアンスを持つ。
③時に現実と混同するほどに鮮明で一部現実感がある。
実際にファンタジー内の特定人物と交流したり、「想像の上」ではあるのだがほぼ実体験に近い実感を感じることが出来る。
④抗精神病薬が効かない。リスパダールなどは逆にひどい(流涎や筋強剛などの)副作用が出て大変なことが多い。
エビリファイは部分的に有効である。私はリーマスを基本に使い、適宜エビリファイを追加して本人にコントロールしてもらう。
⑤冷静な説明で非現実性を自覚することが可能である。リーマスやエビリファイの力を借りて、それがファンタジーであることをきちんと理解すると、非現実性を自分で自覚できる。その意味でも統合失調症の病的な妄想とはかなり異なる。
ざっとこんな特徴がある。最終的には「妄想性障害」を説明することも可能になると思うが、今考え中である。
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