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厚生労働省は昨年夏、「チーム医療の推進に関する検討会」を設置し、看護師の業務範囲を拡大すべきかの検討に入った。医療機器の使用や薬の投与など、看護師の「診療の補助」について、保健師助産師看護師法(保助看法)では、医師の指示がなければ行ってはならないと定めており、同検討会では法改正の是非をめぐって激しい議論が繰り広げられている。そんな中、初期症状の診断や処方を行う米国の「ナースプラクティショナー(NP、診療看護師)」に注目が集まっている。大分県立看護科学大の大学院は一昨年春、日本初のNP養成課程を設置。現在、国内の3大学で養成しているが、今年春には東京医療保健大や北海道医療大でも始まり、全国にすそ野を広げている。医療の日進月歩とともに高度化する看護の現場―。胎動する新時代の看護の現状を探った。

【 「いわゆる『3分診療』の解消。そして、無医地区で活躍できるような看護職を育てたい」―。日本NP協議会会長で大分県立看護科学大の草間朋子学長は、NP養成課程の設置に至った経緯をこう説明する。急増する看護系大学院で高度な技術や知識を持つ人材を養成し、深刻化する地方の医療崩壊に歯止めを掛けたい考えだ。
 同大では5年前、学内にプロジェクトチームを設置し、指導教員やカリキュラムなど教育体制の準備を開始。教員12人を米国に送り込み、NPを養成する大学や実際の現場を視察した。また年2回、米国の姉妹大学からNPを招いて国際会議を開き、NP養成の歴史や教育内容などの情報収集にも努めたという。

 NPの定義について、草間学長は「ケアだけでなく、医療行為の一部も提供できる看護師」としているが、日本の医師法などでは、医師・歯科医師以外の診断や処方は認められていない。このため、同大では一昨年の秋以降、NP養成課程の修了者の診療行為を一定の範囲内で認めるよう、国に特区提案を出している。しかし、これまで2回の申請で厚労省側は、医師法を理由に「特区として対応不可」と回答。これについて政府の規制改革会議は、同省に再検討を求めている。同大では既に3度目の申請を終えており、今春早々に結果が発表される。

 日本でNPを制度化するため、草間学長は、▽国民の理解▽看護界の合意形成▽他の医療職の理解▽行政の理解―の4つの必要性を示しているが、医療界の意見は割れている。日本医師会がNPの導入に反対の意向を表明しているのに対し、日本外科学会など外科系5学会は昨年11月、外科医の過重労働を解消するため、NPの早期導入を求める要望書を厚労省に提出している。
 また、病院側も制度化に前向きだ。昨年夏に日本病院会が実施した調査では、NPが安定期の糖尿病や高血圧症の外来診療を行うことについて、会員病院の半数以上が賛成と回答。全国自治体病院協議会もNPの養成に賛成の意向を示している。
 民主党は政策集インデックスで、専門的な臨床教育を受けた看護師の業務範囲を拡大し、医療行為の一部を分担させる方針を示しており、厚労省の足立信也政務官もNPの活用に前向きだ。さらに、規制改革会議は昨年末の仙谷由人行政刷新担当相への提言で、「医師の負担を軽減するため、『診療看護師』資格を新設し、一部の医療行為を診療看護師が担うことができるようにする」ことを医療分野の重点課題の一つに挙げている。

■ケアかキュアか、制度化を阻む「看護観」の壁

 一方、当事者となる看護界の意見は割れており、日本看護協会(日看協)もまだ明確な見解を明らかにしていない。こうした背景には、二つの問題が複雑に絡んでいる。一つ目は、日看協が認定している専門看護師(CNS)と認定看護師(CN)の存在だ。
 CNSの認定を受けるには、実務経験5年以上の看護職(保健師、助産師、看護師免許のいずれかを所持)が、看護系大学院で指定された単位を取得しなければならない。また、CNでは実務経験5年以上の看護職が半年(600時間以上)の教育課程を修了する必要がある。昨年度までに認定されたCNSは全国で302人。一方、CNは現在5794人に上り、いずれも急増している。こうした現状から、新職種の創設ではなく、CNSとCNのさらなる活用を求める声もある。これについて草間学長は、「ケアをより深めた専門看護師と認定看護師ももちろん必要だが、診療看護師は看護の業務範囲を広げることでチーム医療に貢献する。目指す方向が違う」と指摘する。

 二つ目の問題は、看護師はケアをすべきで、キュア(治療)の領域に足を踏み入れるべきではないとする「看護観」の壁だ。しかし、米国でNPとして活躍する緒方さやかさんによると、1960年代の米国でもこうした議論が沸き起こったという。「それが、NPができる前も、実は患者のニーズに応じて、優秀な看護師は既に診療行為に近いことをしていました。ケアとキュアの融合というNPは、次第に看護界に受け入れられていくようになりました」。

■保助看法の「診療の補助」でよいとの意見も

 保助看法上の「診療の補助」のままでよいとする意見もある。医療現場では医師の指示の下、法律を拡大解釈する「グレーゾーン」でやらざるを得ないため、明確な線引きがかえって邪魔になるとの見方からだ。草間学長はこれについて、「今やっていること、社会が求めていること、そして行うべきことは分けて考える必要がある」と指摘。「系統的な教育を受け、それが制度化されていることが、安心、安全な医療の提供につながる」と強調している。 

大分県立看護科学大の大学院が、国内初のNP養成課程を設置してもうすぐ2年。4月には東京医療保健大と北海道医療大の大学院も新設するほか、福岡県の聖マリア学院大もNP関連の科目をカリキュラムに組み込む。東京医療保健大が開設する急性期医療のNP養成コースは国内初。全国に145病院を持つ独立行政法人・国立病院機構との連携で強力な実習体制を可能にした。一方、北海道医療大では、専門看護師(CNS)の専門科目にNP科目を上乗せするという新たな試みを始める。NPが制度化されていない現状を踏まえ、CNSの資格も取れる二本立てのカリキュラムを作成し、学生の不安解消を図った形だ。養成大学の増加に伴い、多様化する教育の現場―。先行する2大学の現状を取材した。

【■実体験を学問で裏付け、目からうろこ

 昨年12月、都内港区にある国際医療福祉大の東京青山キャンパス。5階の教室では、NP養成課程の1年生8人が「疾病管理学Ⅱ」の講義を受けていた。この日のテーマは「急変時の対応」。人体モデルの心臓部に聴診器を当て、さまざまな異常音に耳を傾ける。「実際は、聞こえた音をカルテに書くことになります」と講師の重政朝彦さんが説明した。
 看護基礎教育では、異常音について深く学ぶことはないが、多くの看護師は現場でそれを体感している。これまでの実体験が講義で学問的に裏付けられる瞬間、「あの音はこういう意味だったのか」と、まさに目からうろこの状態だという。
 学生の一人で、大阪市内の病院で看護師として働く中山法子さんは、週2回の講義のため、大阪から高速バスで通っている。「机上の勉強がつながっていくのが分かり、楽しかった」と、その充実ぶりが伝わってくる。糖尿病看護の認定看護師(CN)だが、「たとえ制度化されなくても、疾病管理を学んで無駄になることはありません」と意欲的だ。

 国際医療福祉大がNP養成課程を設置したのは昨年春。代謝性障害と循環器障害を中心に、慢性疾患の管理を外来で行える診療看護師を育成している。教員側のモチベーションも高く、医師21人と看護職3人が学生を全面的にサポートする。立ち上げから携わっている湯沢八江教授は、「医療の安全を考えると、医師が診察し、ある程度の治療方針が出ている患者の疾患管理はNPで十分です」と強調した。

■多様な人材、薬剤師免許の学生も

 一方、国内初のNP養成課程を設置した大分県立看護科学大は、慢性期医療に重点を置いた「老年NP」と、小児外来で活躍できる人材を養成する「小児NP」の2つのコースを開いている。学生は現在、1年生5人と2年生3人の計8人。介護老人保健施設や訪問看護ステーションなどで慢性期医療に携わった経験のある看護師が大半だが、中には薬剤師の免許を持つ学生もいるという。「限定的な処方も目指しているので、大変心強い」と、同大の草間朋子学長の期待も大きい。

■3分野の単位履修、試験合格でNP協議会が認定

 NP養成教育の平準化を目指している日本NP協議会は、米国などの例を参考に履修要件を設定。それを満たした学生への認定証の発行を予定している。看護職(看護師、保健師、助産師など)として5年以上の臨床経験を入学要件とし、診察診断学、薬理学、疾病病態論の3分野に関する講義、演習、実習(14単位以上)を主な履修科目として43単位以上を取得した上で、同協議会が実施する試験に合格しなければならない。

 大分県立看護科学大では、2年次の6月までに実習以外の全科目の履修を終える。講義・演習では80点以上を合格点とし、9月の実習前には「客観的臨床能力試験」(OSCE=オスキー)も受けなければならない。実習(14単位)は14週間で、このうち8週間を総合病院の外来で行う。大学の関連病院を持っていないため、県内にある大分岡病院に協力を要請し、医師の指導の下、さまざまな患者の診断について実践的に学ぶ。実習を無事に終え、翌年2月に修了時試験、3月に日本NP協議会の試験を受け、これらに合格すると、修士号と同協議会の認定証の両方を取得できる。

 今年春に1期生が卒業する予定だったが、学生側から「もう少し学びたい」との要望があったため、学内の長期履修制度で卒業時期を1年延ばす運びとなった。来年に1期生と2期生の両方が卒業することから、草間学長は「それまでに何とか制度化してほしい」と願っている。

 米国では、1960年代にナースプラクティショナー(NP、診療看護師)の養成がスタートした。当初は米国看護協会や医師会からの反発も強かったが、90年代に入ってその役割が広く評価されるようになり、98年を境にNPの診療行為に対する診療報酬上の評価が全州にまで拡大。州政府のNP資格の取得者は2004年時点で、急性期や成人、ファミリーなど11領域で計14万人に達した。また、日本人NPの数も増加傾向にあり、言葉や文化の壁を乗り越えながら、全米各地に活躍の場を広げている。現地で働く2人の診療看護師と麻酔看護師(CRNA)に、米国のNP制度の現状や日本での制度創設に向けた課題について聞いた。
 コネティカット州の内科医院に勤務する緒方さやかさんは一昨年秋、NPなどに関する情報を発信するウェブサイト「チーム医療維新」を開設した。同年春、大分県立看護科学大の大学院が国内初の養成講座を開いたことから、制度創設に向けた議論を活性化する手助けをしたかったという。開設から既に1年が過ぎたが、読者からの反応も上々だ。「留学を目指している看護師の方、将来、看護職に就くことを考えている方、米国のNP課程にいる日本人学生などからメールを頂きました」と緒方さん。

 緒方さんは東京都出身。父親の転勤で米国に渡り、高校時代から在住している。イェール大大学院で看護師(RN)とNP資格を取得後、現在は同州のクリニックで、成人・婦人科NPとして月―木曜の朝から夕方まで、外来患者の診療を行っている。
 米国では、NPの裁量権が州によって大きく異なる。定期的なカルテのチェックなどで医師による一定の監視が必要な州もあれば、NPの開業が許されている州もあり、米国NP学会の調査では、NP全体の4%は開業しているか、開業したNPの下で働いていることが分かっている。一方、薬の処方は基本的にすべての州で可能だ。約半数の州が医師との何らかの連携を求めているが、モルヒネなど中毒性の高い薬の処方についても、ほぼすべての州で許されている。
 こうした州の取り決めが存在する一方、法律上の細かい規定はそれほど多くないという。切開なども各自が十分な訓練を受けた上で、最終的に自己判断で行っているのが現状だ。この点について緒方さんは、「よい意味での“適当さ”が裁量権を広げた」と話す。

■米国のまねでなく、日本独自の制度を

 日本でのNP制度化に向け、緒方さんは、▽患者の声を聞く▽職種間の「縄張り争い」をやめる▽米国のまねではなく、日本独自の制度を考える▽周術期、介護施設、訪問看護など、医師不足の影響が大きい分野のニーズを確かめる―の4点の必要性を強調する。日本独自の制度に関しては、認定看護師(CN)を診療報酬上でより評価するとともに、その教育を厳格化した上で、限られた分野での処方や検査の権限を与えることも議論されているという。

■妊婦以外の女性の基本的な健康サービスも必要

 ペンシルベニア州でウィメンズヘルスNP(WHNP)として活躍する儀宝由希子さんは阪大在学中、著名なWHNPのスーザン・ワイソッキさん(現・全米WHNP協会会長)の講演をたまたま聞いたことがきっかけで、その道を志したという。「当時、関心を持っていた看護学と女性学の両方を見事に結び付けられる仕事だと思った」と儀宝さんは振り返る。
 02年に阪大を卒業し、保健師、助産師、看護師の3つの免許を取得。日本では助産師がWHNPに最も近いと考えた儀宝さんは、都内の愛育病院で助産師としてのキャリアの第一歩を踏み出す。しかし病棟勤務だったこともあり、「妊婦以外の方や妊娠を望んでいない女性のケアにかかわることができず、どこかで学ぶ必要があると感じた」という。同院で4年間勤務した後、ワイソッキさんのアドバイスもあり、米国留学を決意。エモリー大大学院で一昨年、NPの資格を取得した。

 WHNPは思春期から老年期まで、幅広い年代の女性の健康をサポートするのが仕事だ。儀宝さんはこうした経験から、妊婦以外の女性についても、子宮がん検診や月経トラブルの相談など、基本的な健康サービスが必要だと訴える。日本でNP制度を導入する際も、「日本の医療者がまだ十分に対応できていない女性の基本的なニーズを満たす担い手として、WHNPのような専門職の担う役割は非常に大きい」と強調する。

■「寄り添う」から「自分で判断し責任を取る」へ

 CRNAとは、術前麻酔診察、麻酔計画の作成、麻酔の導入・維持・離脱、麻酔回復室でのケアなどを行う看護師のこと。それらを麻酔科医の監督下で行うかどうかは州や病院によって異なるのが実情だが、現在、カリフォルニア州でCRNAとして働く岩田恵里子さんによると、麻酔科医と同等の麻酔業務が行えるよう訓練されているという。

 岩田さんは看護師として都内の聖路加国際病院に勤務していた20歳代の時、米国帰りの先輩の影響で留学を考え始める。日本にいながら独学で米国のRNの免許を取得し、1995年に渡米。しかし当時は、看護学士(1年)と看護学修士(2年)の学位を取った後、すぐに帰国する予定だったという。それでもCRNAを目指したのは、米国で急性期看護の世界に「魅了された」ことに加え、上級実践看護師(APN)の中で最も自律度が高いといわれているからだ。岩田さんは、「自分の判断で治療し、その治療の結果を診る。そこにやりがいがある」と言い切る。

 日本人看護師が米国で働くことについて、岩田さんは「言葉の壁がなければ、頭脳的には全く問題ない」とする一方、日本での制度創設に関しては、次のようにアドバイスした。「米国では、看護の目指すものが日本とかなり異なる。米国の現場では、医師と対等に話ができなければ駄目。『寄り添う』や『医師の補助』ではなく、『自分で判断し責任を取ること』が求められている」。

                 ■               ■               ■

 看護師の業務範囲拡大などについて議論するため、昨年夏に厚生労働省が設置した「チーム医療の推進に関する検討会」。年内に8回の会合を開き、予定していた関係者からのヒアリングをすべて終了したが、NP制度化に関するこれまでの議論を振り返ると、不毛な話し合いと映る場面も多かった。「看護とは」といった職業観をめぐる論議もその一つだ。「看護師はキュアの領域に入るべきではない」と、自ら門戸を閉ざす発言もあった。
 しかし、歴史をひもとけば、60年代の米国でも同様の議論があったことが分かる。「縄張り争い」が米国のNPの発展を妨げたと言う緒方さんは、「(日本で)そんなことをしている時間はない」と警鐘を鳴らす。

 一方、NP教育の平準化を進める日本NP協議会も一枚岩ではない。その背景には、やはり「看護観」の壁がある。取材した大学の中には、キュアを連想させる「NP」という言葉に過度な“アレルギー反応”を示すところもあった。こうした現状について、昨年春にNP養成課程を設置した国際医療福祉大大学院の湯沢八江教授は、「(NPが)医師に対して、『違う立場にある』ということを主張したがっている」と厳しく指摘する。「(医療の質を担保できるのであれば)医師を助ける役割でもいいのではないか」と湯沢教授。

 医師・看護師不足、病院勤務医の疲弊、地域医療の崩壊…。今、医療界には問題が山積している。同検討会では今後、3月の報告書作成に向けた詰めの協議に入るが、医療事故の防止、地域医療の再生、医療資源の効率的な活用など、より幅広い視点で制度化の是非を論じる必要がある。
(この連載は敦賀陽平と妹尾ゆかりが担当しました)

キャリアブレイン

良い人材が良い制度で働ける行政の仕事です!頑張ってください!

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