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前々回、たくさんのコメントいただきましたが、個別にお返事していなくてすみません。とりあえず更新を優先させていただきます。
前回、救急隊から「吐き気」という主訴だけを伝えられて応需した救急患者が、実は「転倒して後頭部を打撲した後の吐き気」を訴えており、到着後、胸痛、背部痛を訴え、大動脈解離かと思いきや、胸椎圧迫骨折だった、という症例を提示した。結果的には命に別状はなかったわけだが、診断がつくまでの間、冷や汗ものだったことは、臨床医の皆さんにはご理解いただけることと思う。
この事例で最初に「転倒」「頭部打撲」というキーワードが伝えられなかったことは問題だったと感じ、前々回の記事に、「救急隊からはめられたような気持ちになった」と記載した。その件に関し、ある救命士の方がコメントをくださり、私の地域の救急隊に代わってお詫びの言葉を述べて下さった。こちらこそ救急隊の方に対して失礼な記載をしたこと、お詫び申し上げたい。
救急隊も搬送先を探すのに苦労していることはよく分かる。早く搬送先を確保したいという一心で、状態を簡潔に伝えようとするために大切な情報が漏れてしまうこともあるかも知れない。また、状態が搬送中に変化することもあるだろう。救急車が到着してみると、患者の状態が電話で聞いていた状態と全然違っていることも多くの医師は経験している。
もしも、「頭部を打撲した後の吐き気」とわかっていたら、私は受け入れを断っっていた。もとより、その情報があれば、内科の私ではなく、外科医が呼ばれた筈である。失礼を承知で言えば、救急隊は患者を病院へ運びこんでしまえばそれで仕事は終わりだが、受けた医師にはそのあと結果次第で訴訟が待っているのだ。
一般の方たちはご存じないことだろうが、たとえ救急指定病院と名がついていても、ほとんどの病院では救急患者に備えて医師が待機しているわけではない。ましてや今どき、どこの病院でも医師は欠員状態である。通常、医師は外来患者や入院患者の診察、検査の合間に救急車に対応しているため、重症患者を受ければたちまち病院の機能がストップしてしまうのだ。
この場合も「吐き気」だけであれば、診察にはそれほど時間を要しないとの算段で受けたのだが、実は「意識消失」にて転倒し「頭部打撲」していることが判明し、「胸痛、背部痛」の訴えも加わり、診断をつけるための検査に1時間以上を要した。もしも大動脈解離や急性心筋梗塞などと診断されれば、高次医療機関に転送しなければならず、転送先を探し救急車に同乗するのに更に1時間以上はかかるであろう。その間、入院患者に急変があったりしたら、どうすればいいのだ。医師が不足している病院で救急を受けること自体無謀である。
しかし、救急患者はこちらの事情などお構いなしにやってくる。救急車に限らず、歩いて地雷患者がやってくることだってある。受けたら全責任を持たなければならない。
マスコミはそんな事情を考慮することなく、「受け入れ拒否」「たらいまわし」と書き立てる。「恥を知れ」「それでも医者か」「また義務を忘れた医師たち」など、これまで医師は痛烈なペンの暴力を受けてきた。
最近は「日本医療政策機構」のお偉い様が「医師は応召義務を果たしていない」「医師は被害者意識を捨てよ」などと書いた。http://s03.megalodon.jp/2009-0116-1648-02/www.cabrain.net/news/article/newsId/20127.html
自分は安全な場所にいながら、前線にいる兵士に向かって「体を張って戦死しろ」と言っているようなものだ。そんな考えに誰が付いていくだろう。
救急医療を行うとき、どうしても頭に浮かぶのが、加古川心筋梗塞訴訟事件http://www.geocities.jp/vin_suzu/iryou4.htmや、奈良心タンポナーデ事件http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061108
である。
最近は重症患者を高次医療機関へ転送しようとしても、断られることが多くなった。転送先を探すのに時間がかかる。もたもたしていて患者が亡くなったりすれば、加古川訴訟の二の舞になってしまう。
かかりつけの患者ならともかく、背景の分からない患者を救急で受けるなんて恐ろしくてできない。
もう救急なんていやだと、小さな声でつぶやいてみる。
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コメント
コメント一覧
初めて、コメントさせていただきます。
今、その加古川で輪番の日直の最中です。
もう救急なんていやだと、小さな声でつぶやいてみる。
同感です。やめられるものであればやめたいです。
トウバンジャン
~トウバンジャン先生、はじめまして。
あの加古川で日直中ですか。お疲れ様です。
小さな心のつぶやきですが、多くの医師が思っていることではないでしょうか。
春野ことり
安全地帯から、現状を把握せずに批判をする人たちに「ならば貴方はそれをできるのか?」といつも聞きたくなります。
まさか自分にできないことを他者に強制しているなんて事は無いと思いたいですが...。
医療崩壊問題は国民全員に責任があると私は思っています。なのに、まるで他人事というか「自分達にも責任がある」と言う、当事者意識が全く無い人たちに対して歯痒い想いを抱きます。
SIRO
~SIROさん、いつもありがとうございます。
現状を知らずに机上の空論を述べる人たち、多いですね。
やはり、トンデモ裁判が医療を委縮させているというのが、現場で働く一個人としての感想です。
春野ことり
長々とコメントしてしまい反省しております。
>故意にその情報を伝えなかったということはないだろうか。
前回「そんな事はない!」と豪語いたしましたが、正直自信がありません。
私自身、搬送先が決まらず現場滞在が長くなると(1時間近く決まらない事もあります)焦りから、そういった思いに駆られる事もあります。
それでも、やってはいけない事です。やりません。
誰の利益にもならない事だからです。
不都合な事実を隠して収容してもらって、その結果、先生方にリスクを与え、心を折ってしまう。地域の貴重な医療資源を自ら消耗させる様な事はとてもできません。(観察不足で叱られる事もありますが)
救急隊は二次医療機関(ことり先生の所も勝手に二次と思っています)の多くが医師一人で当直している事を、医師達がどんなに無茶な勤務をしているかを知っています。それでも我々の電話に「どうぞ」と答えてくれる先生方を本当に頼もしく、そして有り難く思っています。
また先生の所に前回のような患者が搬送されたなら遠慮なく救急隊を叱って下さい。もしくは搬送確認書の「医師意見欄」に記入してやって下さい。
ふぇろす
~ふぇろす様
まずは、本文中に、真面目に職務に当たっている救急隊員の方に対し失礼な記載があったことをお詫び申し上げます。
1時間以上も搬送先が決まらないと焦りますよね。本当に大変だと思います。
この場合、患者は体を動かす時に激痛を訴えていて、救急車に乗せる時にかなり痛かったはずなのに?と疑問は残ります。
うちの病院では看護師が救急隊からのコールに出て、医師は間接的に看護師から情報を聞いて受け入れるかどうか返答するのですが、こういうことがあると自分が直接電話に出て状態を根掘り葉掘り聞いた方がよいのかなと思いました。でも、それをやると搬送先を探すのにますます時間がかかりますよね。今後、悩むところです。
本文、書き直しましたので、お許しくださいませ。
春野ことり
お願いなのですが、このエントリーの文章、お借りして宜しいでしょうか。こちらでも紹介したいと思います。またお返事くだされば幸いです。
鴛泊愁
~鴛泊愁さま、いつもありがとうございます。
こんな文章でよければ、引用いただいて構いません。
建設的な意見ではないので、多少気は引けますが・・。
春野ことり
救急をやっている病院は、建設費(含改築)を各自治体に補助して貰っていることが多いのです。
「救急ヤーメタ」と言うと、金を返さねばなりません。
それでは病院は持ちません。
医師が辞めてしまえばやっぱり潰れますので、どっちが早いかという問題なのですが。
bamboo
~bamboo先生、お久しぶりです。コメントありがとうございました。
救急をやめて病院潰すか、医者がいなくなって病院が潰れるか、二者択一というわけですね・・・。
「ヤーメタ」と言ってみたいですが、そういうわけにもいかないようですねえ。
春野ことり
そうですね。多くの病院は先生のところ同様、看護師さん経由で伝えてもらっています。仰る通り、直接お話出来れば前々回のような事は減るでしょうし、収容不能でも先生の助言・指導が期待出来ますので収容先が結果的に早く決まるという場合もあると考えます。
ウチの管内の直近二次の当直の先生にはウチで用意した連絡用携帯電話を所持していただいてますが、「話が早くて良い」と好感触です。
ふぇろす
~ふぇろすさん、コメントありがとうございます。
直結の携帯電話があったほうが便利ですよね。ただ、当直時間帯は当直医一人が持てばいいのだけれど、平日の日中はどうするか?院内PHSと救急車用二つ持つのもちょっと・・・という問題はあると思います。
春野ことり
この地域は、循環器救急病院がこの病院だけですので有無を言わさず心肺停止患者は昼夜を問わず運ばれてきます。ある意味、拒否することの出来ないことは精神衛生上・・・人道的なストレスが一つ減ります。
常勤の当直医は、いつもたまたま外科系で・・(人手不足なのです)・・心肺停止は循環器の当直ヨロシク〜!と当人は医局で寝ています。orz....
私は非常勤なので、深夜でもその全科当直と言われている外科医が熟睡して院内PHSに出ない場合も呼ばれます。(・・・ちなみに私も循環器系の外科医なのですが、その病院の外科系の医師を見ていると心の中で「だから外科医はその昔から外道って言われるんだな〜」と実感したりもします)
さて、年間1500例上の心カテをやりその半分はPCIというある意味アクティブなこの病院で・・・DOAの患者さんが搬入されると、凄いなあ〜と思うのは救急隊の方々が私と看護師2人でCPRして検査している間交代で心マして下さることです。(都会では患者さんを搬入したらお終いです。自治体によっては、同行した医師もその病院に残されて、白衣のまま深夜にタクシーで元の当直病院に戻りタクシー代を精算する所もあります。)
地域の救急医療の中で、数時間前まで元気だった家族が心肺停止でERに運ばれると・・・その方のご家族が全員揃うまでは救急隊の方々に心マをお願いしながら挿管・ルート確保にマニュアル通りの投薬にカルテ記載と家族への説明をします。行きつけの主治医と連絡がつけば、心マしながらの採血結果とCXPで再開しない心拍の患者の突然死の原因を推測して・・・説明がついて家族も揃い身内の死を受け入れる心の準備が整った時点で死亡確認します。そうでない場合は異常死として届けなければなりません。(都心の病院音ERの研修医は、すべて異常死の届け出をすべしと指導されている現実も小耳に挟んで驚いたりもします。)稀に心拍が再開して・・・PCIで血行再建しても残念ながら意識が戻らぬままに長期のHCU生活になることもあります。
いずれにしても、この地域の救急隊の方々はその一部始終をERの中でチームの一員として協力して下さって、そしていい意味でERで行われる医療の中で自分たちの役割を判断して協力して下さっているのだと感謝しています。
(ちなみに、その間も全科当直の常勤外科医は高イビキで寝ています!)
日本の都心から100kmの医療過疎地でもその様な現状です。今もその病院の当直室でこのコメントを書いております。
長々となりましたが・・・私は救急隊の方々の苦労も人道的な協力にも助けられながら、尊い一つの命の最期を看取ることも救急医の仕事ではないかを思ったりもします。今もICUではPCPSにIABP・CHDFのついた重症患者が数名生死を彷徨っております。
私は決して救急の専門医ではありませんが、20年間の救急医療に関わってきた経験からは、ご家族や老人施設の方とのコミュニケーションを短時間の内に築くことの大切さや、マスコミ他の理不尽な攻撃や訴訟への不安で医師としての冷静な判断も難しく、現場も上述のような院内でのマンパワーの偏在を非常勤医師や救急隊が支えているという現状に疑問を感じております。
とりとめもない文章で恐縮ですが、どんな時代もどんな場所でも・・・ひとつの命の尊さは変わらず、医師は神様に与えられたミッションを行う仕事なのだと思います。
大変なご事情をお話いただき、ありがとうございます。
>院内でのマンパワーの偏在を非常勤医師や救急隊が支えているという現状に疑問を感じております。
まったく同感です。とりあえず、「あるもので何とかしている」状況ですね・・・。
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