春野ことり
More プロフィール

Search

Calendar

<< 2009/07 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

トップページ

Doctors Blog

ブログの購読

新着コメント

  • 我が子の死を乗り越えて
    • チャオ (04.30 18:09)
  • 傲慢
    • 春野ことり (02.17 07:20)
    • マリス (02.16 23:16)
    • 風はば (02.10 14:28)
    • 春野ことり (02.09 12:22)
    • 春野ことり (02.09 12:10)
    • 春野ことり (02.09 12:03)
    • ya98 (02.08 21:04)
    • SkyTeam (02.08 16:46)
    • おかだ (02.08 14:19)
< 医療の評価  ああ、勘違い | メイン | 理不尽なクレーム >
2008.08.08 01:00 |  診療  |  開業 / 病院経営  |  連載  |  春野ことり  | 推薦数 : 4

十年の歳月

 先日、92歳、一人暮らしの良雄さん(仮名)が、娘さんに連れられて受診した。一週間前から食事が摂れなくなり、薬も飲めていないと言う。

 特発性血小板減少性紫斑病でステロイドをずっと内服している良雄さん。ステロイドの減量を試みて、血小板が突然5千を切り、緊急入院したのは十年以上前のことだ。以来、減量をあきらめ、プレドニン10mgをずっと飲み続けてきた。この年齢まで感染症や骨折、胃潰瘍など、副作用の発現もなくお元気に過ごされてきた。

 長年飲んできたステロイドの突然の中止は危険である。良雄さんもそれを承知のはずだった。

 

 余程しんどかったのだろう。入院嫌いな良雄さんが、自分から入院がしたいと言った。

「先生、もうだめや・・」

息も絶え絶えだった。

私は良雄さんの家族に厳しい話をせねばならなかった。

 

 

 しかし、そんな話はまるで必要がなかったかのように、輸液とステロイド投与で、良雄さんは見る見るうちにお元気になられた。

 数日後に病室を訪ねると、ベッドの上に正座をしていた良雄さんは、私の顔を見るなりこう言った。

「先生は神様のようだ」

恐れ多いやら、気恥ずかしいやら・・・。

 

 そのまた後日、良雄さんの部屋に回診に行くと、すっかり元通りに回復した良雄さんから、こう尋ねられた。

「先生のお子さんはおいくつになられましたか?」

「上の子は十歳です」

「ほう、そんなに。

いやね、私、先生のお子さんが生まれた日に、たまたま外来にかかりましてね、看護婦さんから『今日生まれましたよ』って聞いたものですから。

おいくつになられたのか一度聞いてみたいと思っていたのです」

「まあ、そうですか。もう十年もたったなんて、早いですね」

「先生は全然変わりませんねえ」

「あら、良雄さんも全然変わりませんよ」

互いに褒め合い、二人して、わははと笑った。

ほんの十日ほど前に、ご家族に覚悟をしてくださいとお話したことが、嘘のようだ。

 

 ありがとう、良雄さん。

 

 患者さんがよくなることは、医療者にとってかけがえのない喜びである。患者さんが医療者に感謝すれば、医療者もまた患者さんに感謝をする。喜びを与えてくれてありがとうと。

 

 

 

 思い返せばこの十年、あっという間だった。次の十年も、あっという間に過ぎるのだろう。

 患者も私も、歳を取る。すべての人は平等に一年ずつ歳を重ねる。ただし、老いの速度は人それぞれに違うようだ。

 良雄さんと、さらに十年後も、こんな風に笑いながらお話しできたらいいと思う。

「お子さんはもう二十歳ですか。あれから二十年も経ったなんて、早いもんですね」などという会話を想像すると楽しくなる。

しかし十年後、良雄さんは102歳である。

そこまで求めるのは、ちょっと酷であろう。

 

なかのひと

 

人気blogランキングへ←ランキング参加中。ここをポチッとクリックしてネ。応援よろしくお願いします。

 

天国へのビザ Amazon在庫あり

 

 

固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)

トラックバック

この記事のトラックバック URL

http://blog.m3.com/Visa/20080808/1/trackback

コメント

コメント一覧

残暑お見舞い申し上げます。

ブログの復活、心待ちにしていました。
良雄さん、体調が良くなられて良かったですね。
良雄さんは、先生のご出産を気にかけて祈っていてくださったのでしょうね。
患者さんやご家族から、「あの時にこんなことがありましたね」とか、「こんなことを言っていましたね。ずっと覚えていました」なんて共通の思い出が増えることも、この仕事の醍醐味かなと思います。

患者さんとともに医療の専門職としての自分も成長し、年をとり、その中で築いてきた人間関係は、「評価」という見方からは一番遠いものかなと思います。ここ最近、医療の中に「評価」があふれてきましたが、ちょっと辟易しています。

酷暑のなか、先生もどうぞご自愛ください。
written by フィッシュ / 2008.08.09 13:50
フィッシュさん、残暑お見舞い申し上げます。
心のこもったコメントありがとうございます。
患者さんやご家族との共通の思い出が増えていくことも、医療職の醍醐味ですよね。
死の淵から甦った良雄さんから、ふいに子供のことを気にかけていただいて、感慨深いものを感じ、記事にしました。
先日、変てこな接遇講師がやってきて、医療の評価っていったい何?と不快な気分になった矢先だったので、特に嬉しかったのです。
患者さんとの信頼関係を機能評価委員がどうやって評価できるというのでしょう。自己紹介しているかだとか、立って挨拶しているかだとか、そんなことで評価するのはお門違いもいいところですね。

フィッシュさんもどうぞお体にお気をつけてください

written by 春野ことり / 2008.08.10 18:42
18歳の少年が28歳の青年になるのは大変化ですが、75歳にとっての10年前は、昨日みたいなものです。同じ10年でも、若い人ほど大きな部分になるのでしょう。
 現在年齢を分母にして、経過年数を分子にしたら、実感に近くならないでしょうか。90歳にとっての10年間は0.11ですが、40歳にとっての10年は0.25になります。
志村建世



~志村さん、コメントありがとうございます。
同じ10年でも若者と老人では大きな違いがありますね。
外来で高齢の患者さんからよく言われます。「もう一年経ってしまった。年を取るごとに月日が過ぎるのが速く感じる」と。
計算式、大変参考になりました。良雄さんの実感としてのこの十年は、私の実感の半分以下ということですね。
春野ことり

written by 志村建世 / 2008.08.10 22:45
人生の時間
時の流れ方は
人により
また同じ人でも時により
異なりますね

そんな違いに
先生ならば
穏やかに
やわらかく
そっと寄り添っていかれるのだろうなぁ

と感じます
hanamegane




~hanamegane先生、コメントありがとうございます。

先生からそんな風に言われると
大変恐縮です。
時の流れ方は同じ人でも時により違いますね。
そんな違いにそっと寄り添っていけたら、いいですね。
春野ことり
written by hanamegane / 2008.08.11 15:46

コメントを書く

ニックネーム*
メールアドレス*
URL
内容*
※「利用規約」をお読みのうえ、適切な投稿をお願いします。