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「先生!」
床上の彼女はうつろだった瞳をぱっと開いて、叫んだ。
「しばらく側にいて。寂しいから」
老女の乾いた口から発せられる言葉は、ねっとりと湿り気を帯びていた。
彼女がもっと元気だったころ、頻繁に見舞いに来て車椅子を押していた娘さんは、いよいよ母親が末期の床に伏せると何故か病院への足が遠のいた。回診に行っても娘の姿を見かけることはない。
「そばにいて」
老婆は看護師や介護スタッフに懇願する。しかし、スタッフには彼女に付き添ってあげる時間的な余裕がない。
ある年配の看護師が娘さんに「側にいてあげるとご本人も落ち着かれるようなので、なるべくついていてあげてください」と言ったのだそうだ。すると娘は「付き添いはできません」ときっぱりと答えたそうだ。
「痛くはない?苦しくはない?」
「痛くもないし、苦しくもない」
誰が持ってきたのか、病室には美しい花が飾ってあった。しかし、老女の視界には入らない。横を向くことさえしんどい。
壁にかけられた青い麻のジャケットは、もうすぐ主人を失うことを知っているだろうか。入院するときに着てきたジャケットに、彼女が袖を通すことは二度とない。
「あの人は口調がきついの」以前は病室を訪れると、よくスタッフの態度をこぼしていたが、いよいよそれもなくなった。
もうひと月以上、食事を口にしていない。抹消からの点滴が命綱。
痛みは麻薬の貼付製剤でコントロールされ、表情から苦痛は感じ取れない。
「足の浮腫みが退きましたね」
「そう?」
腹水でパンパンになったお腹がじゃまして、自分の足を見ることはできない。
「でも、もうだめだわ」
絶望とは程遠い穏やかな顔で言う。
「もうだめだと思うの?」
「そう」
そのとき、病室の窓からふわりと心地よい風が吹き込んだ。
「窓からいい風が入ってきますね」
「ええ、本当に」
老女の手首の脈を取った。何日後かはわからないが、近いうちにこの脈は打つことをやめる。その時が来るまで、心臓は全身に血液を送り続ける。懸命に。
「気持ちいい風ね」
風が気持ちいいと、末期の床で彼女は言った。その脈を取りながら、しばしの間、共に風を感じた。
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点滴作り置き事件について医師ブログとして言及しなければいけないと思う。
最初にこのニュースを聞いたときは、いったい何があったのか?と思ったのだが、だんだん真相が見えてきた。
点滴を作り置きして、余った点滴を翌日に回して使っていた。しかも常温で保存。土曜日に作った点滴を月曜日に使っていたという。それが真実であれば許されないことだ。
この問題に関しては、Dr.Iさまが口火を切っている。
私はこの院長を擁護しようという気は全く起こらない。
院長は「点滴の作り置きをするなと言ったが徹底できなかった」と話しているようだが、看護師が勝手にやったことだと言いたいのだろうか。知っていて黙認していたのであれば、その責任は重大である。厳しく追及するべきだと思う。
こういう事件は真面目に診療している医療機関にとって非常に迷惑である。
点滴をした患者がその後に気分が悪くなるということは実際に経験することだが、そのとき患者から「作り置きした点滴を打たれたんじゃないか?」という疑いの目で見られることは免れないであろう。
私は第3次試案に反対の表明をしているのだが、こういうケースまで免責にしろといっているわけではない。
akagama先生のところに、拙ブログにもいつもコメントをくださる鶴亀松五郎先生から紹介のイギリスでのガイドラインが載っているので、ここでも紹介したい。
英国の予期せぬ診療関連死への警察介入ガイドライン
診療中の「予期せぬ死亡」と「重大な障害」に関して警察介入のイギリス厚生省ガイドライン(2006年作成)
Guidelines for the NHS - Investigating patient safety incidents involving unexpected death or serious untoward harm
公式の医慮安全報告機関にあった医療機関からのリポートのうち、予期せぬ死亡による診療関連死あるいは予期せぬ重大な障害があった場合、(1)故意に患者に有害事象(死亡)を起こそうとした、(2)故意に患者の体に重大な障害を起こそうとした、(3)故意に安全な診療手技に従わずに無謀な治療をした、のいずれか3通りが強く疑われる場合は第三者の医療機関の代表と、公的な医療安全専門機関、警察の第三者が集まる調査チームが症例ごとに作られる。
ただし、はじめから警察が介入して証拠部件を全て押収することはない。
この場合も第三者の医療機関代表、医療安全の専門機関、警察の3者合同で症例ごとに調査委員会を開き、解剖の結果や、カルテ(医療記録)、を基に故意または悪意による診療関連死かどうかを判定していく。
その結果、故意あるいは悪意である証拠があれば、警察の介入が起きる。
故意または悪意であると疑われても、調査の結果、そうでない診療関連死と判明すれば、警察が手を引く。
イギリスでは、第三者の医療機関の臨床の専門医と公的な医療安全の専門機関、と警察が、全ての資料を共有して合同で議論して、事件性があれば警察の介入となる。
解剖も全例行われ、この結果もチーム内で共有される。
つまり、医療従事者側にも、患者側にも公平で公正な方法を取っている。
WHOの医療安全の部局も、イギリスのやり方が良いと認識している(その後の、WHOの医療安全フォーラムでモデルのシステムとして紹介されている)。
日本の異常点を指摘すると。
日本の場合は、(1)はじめから警察が介入し、証拠物件を全て押収し、(2)警察(検察)の知り合いの医者にだけ意見を聞き、(3)検察独自で臨床の現場からかけ離れた診断基準で診療関連死が刑罰相当かを決める。
結論:
日本のようなやり方は、イギリスでも欧米でも間違った方式とされており、日本のような方式は先進国では異常である。
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院長が「作り置き」を黙認していたのであれば、(3)故意に安全な診療手技に従わずに無謀な治療をした
に相当するのだろう。そうであれば警察が介入するべきである。
この事件では点滴作り置き以外にも、なぜメチコバールとノイロトロピンの入った点滴を1日百人もの患者に?
という疑問が浮かぶ。(報道が真実であれば)
Dr.Iさまがご指摘のように、薄利多売で、たくさん点滴をしないと利益がでないような診療報酬にも問題があるのかも知れない。それにしてもこの院長に私は同情できない。
また、点滴が大好きな患者さんがいるのも事実である。
恵比寿ガーデンプレイスには、↓こんな点滴専門店があるらしい。ぶったまげてしまう。
日々真面目に医療を行っている者にとっては、腹立たしい限りである。
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生まれて初めて、「女性自身」を買いました。
6月24日号です!!
シリーズ人間 p.76-82
福島県立大野病院事件が取り上げられています。
産科医療のこれから↓に、記事の全文が載っていますが( 注:削除されたようです 6/13)
ぜひ、買いましょう。そして、このページに付箋を貼って、病院やクリニックの待合室に置きましょう!
都会の産科医さまより、コメント
雑誌掲載記事の量が膨大ですので、
買うだけではどの記事が良かったかのフィードバックに
ならないそうです。
ですから、できればきちんと感想を送る、メールする等の処置も必要なようですので、よろしくお願いいたしますね。
女性自身
2008年6月24日号
2006年2月、福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦医師(40)が、帝王切開手術で患者女性が出血死した件で逮捕された。『医療ミス』が原因と疑われた事件だったが全国の医師は『医師側に落度はない』と、抗議の声明を次々に発表。また逮捕後、産婦人科を廃止する病院が急増した。この事件がもたらしたものとは何だったのか、検証する。
「大野病院事件」は
産婦人科だけの問題ではない
裁判の結果しだいでは、訴訟を恐れ、外科でも医師が難しい手術を拒否する可能性も当然出てくる。
そうなれば、日本の医療崩壊は加速する。
大変よい記事だと思います。(へたな新聞よりも)
これを読まれた多くの主婦の皆様に、大野病院事件や現在の産科医療崩壊について正しくご理解いただけることを願っています。
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日曜日、私の家庭で、ある予定があったのだが
朝、夫の患者が亡くなったため夫は病院に呼ばれ、そのまま病理解剖が行われることになったそうで
夫は夕方まで帰って来れず、予定は取りやめになった。
ま、そんなことはいつものことなので、家族もみな気にしていないのだ、が・・・
それを聞いた小学生の息子の発言にびっくりした。
「とーちゃん、医療ミスしたの??」
患者が亡くなって解剖することになったと聞いた息子は、夫が「医療ミス」をしたのかと思ったらしい。
「大丈夫だよ。ミスなんかじゃないから」
と笑い飛ばしたものの(注:患者さんが亡くなったことを笑い飛ばしたわけではありません。念のため)
小学生の子どもまでそんなことを心配するなんて~うう、泣ける。。。
「とーちゃんはネ、自分や家庭を犠牲にして、患者さんのために毎日夜遅くまで一生懸命働いているんだけどね、オペに失敗したら『ミス』、『ミス』と報道され、実名が出て、あなたも学校でいじめられるかも知れないよ。訴えられて、賠償金請求されて、最近は逮捕されることもあるんだよ」
なんて、子どもにはとても言えない。。。
ところで、こんな記事がありました。
書類送検で実名報道です。
5月13日、信濃毎日新聞の記事
くも膜下出血見逃し女性死亡 XX病院医師を書類送検
県厚生連××総合病院で2004年10月、頭痛を訴え受診した○×市○△田、主婦XX○△さん=当時(55)=がくも膜下出血で死亡し、夫の□□さん(59)夫が医療ミスがあったとして告訴していた問題で、△△署は13日、診察した同病院の○○○○医師(29)=△□市○○=を業務上過失致死の疑いで地検XX支部に書類送検した。
調べによると、○○医師はくも膜下出血の初期段階を疑い、適切な検査と治療をしなければならなかったのに怠った過失により、05年1月12日、同病院でXXさんを死亡させた疑い。同日、告訴状を受理し、捜査をしていた。○○医師は過失を認めているという。
同署などによると、XXさんは04年10月23日、後頭部に急激な痛みを感じ、同病院の救急外来を受診。「肩凝りによる頭痛」と診断され帰宅したが、数時間後に意識不明になって同病院の集中治療室(ICU)に入院し、意識が戻らないまま死亡した。受診時にXXさんはくも膜下出血の恐れを伝えたが、○○医師はCT(コンピューター断層撮影)検査などをしなかったという。○○医師は研修2年目で、当日は土曜日だった。
同病院の□△院長は「結果的には判断ミスだった。今後の経過を見守りたい」としている。
夫の□□さんは「医師はくも膜下出血の症状をよく知らなかったようで憤りを感じる。病院側は示談を申し込んできたが断った。起訴されるか経過を見守りたい」と話した。
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まずは亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。
しかし、これで実名報道はひどいです。
くも膜下出血の警告出血だったと思いますが、これを診断することの難しさは拙ブログでも過去に取り上げました。
「医師はくも膜下出血の症状をよく知らなかったようで憤りを感じる。
うーん。。。
ご遺族の方もぜひ、
日々是よろずER診療) の くも膜下出血の項目を読んで診断の難しさについて理解されることをお勧めします。http://case-report-by-erp.blog.so-net.ne.jp/20080515
(これを患者中傷とか誹謗とか言わないでくださいね。念のため)
院長は「ミス」を認めているし、
当事者の研修医も「ミスを認めておけ」って言われたんでしょうね。。お気の毒に
実名報道に対し、長野県医師会は声明文を出しています。
| 医師実名公表・報道は遺憾 医師会が声明文 | ||
|
長野県医師会(大西雄太郎(おおにし・ゆうたろう)会長)は29日、医療事故をめぐり長野県警が業務上過失致死の疑いで書類送検した医師の実名を発表し、一部の報道機関が実名で報道したことについて「遺憾の意を表明するとともに慎重な対応を求める」との声明文を出した。
声明文を県警に提出した後に記者会見した大西会長は「医師不足の原因の一つに医療紛争の増加への懸念がある。起訴や逮捕でなく書類送検での実名公表は、医療現場が萎縮(いしゅく)し、医師が危ない現場を避ける傾向が強まる」と述べた。
その上で、大西会長は、報道機関には報道の自由があるため実名報道しないように強制できないとする一方、県警に対しては今後、書類送検で氏名を公表しないよう求めるとしている。
この問題は、△△署が今月13日、同県△△市のXX総合病院に勤務していた2年目の研修医が2004年10月、激しい頭痛を訴えて来院した女性=当時(55)=に適切な検査や治療をしなかったため、女性が死亡したとして業務上過失致死の疑いで書類送検したことを医師の実名入りで発表した。
翌14日付の朝刊では、長野県警記者クラブに加盟する主要な新聞社のうち3社が医師の実名入りで報道、3社が匿名で報道した。
長野県警広報課は「公益性と事案の軽重を総合的に判断して発表しており、引き続き総合的に判断し、適切な発表に努めたい」としている。
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「公益性と事案の軽重を総合的に判断しており」ってねえ。。
こういう発表は、医療崩壊を後押するだけで社会にとって有害だって言ってるんですが。
頑張れ!長野県医師会!!
XX病院も、もっと頑張ろうよ。。。
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前々回の記事、
医療裁判と「公務員バリア」に関して
日本をダメにした10の裁判 [日経プレミアシリーズ] (日経プレミアシリーズ 4)
の著者さまから、メールをいただきました!著者さま、ありがとうございます!!
ご本人の承諾を得られたので、メールを引用いたします。(配色はブログ主によります)
------------------------------------
まずは言い訳から入ります。一般向け書籍ということで、しかも各テーマについてスペースが限られており、「これだけは」というエッセンスを大づかみに伝えることを最重視しました。その結果、それなりに重要なポイントであっても、書くとかえって紛らわしくなる、書くと長々しい説明をつけざるをえない、といった理由で触れなかったものが、いくつもあります。----------------------------------------------
なあんだ
なあんだ
なあんだ
通常の医療では、公立病院の医師はやはり守られないんだ。。。
遊佐奈子先生からトラックバックいただいています。相変わらず鋭い切れ味!
以下共感する部分を抜粋引用
医療ミスが全くなく
後遺症が残っても救命できたら奇跡、というような症例ですら、
訴えれば、何の落ち度もなくとも巨額の賠償金で和解に持ち込めるんだと。
どうせ、、、支払う賠償金の出どころは税金。
病院がこれでつぶれる訳でなければ。自分の退職金が減るわけでもないお役所仕事?。
こんな症例で和解する市民病院や国立病院はとても多い気がする。。。
助かる見込みがないなら、救急で駆け込むなら国公立系病院へ!
たんまりとお金が儲かりますよ。。。
(引用ここまで)
いや、全く同感です。
国や公共団体を相手取った医療裁判、とても多いですよね。
多額の賠償金を得やすいからだと思います。
出所が税金なわけで、誰の懐も痛まない。面倒くさい裁判からさっさと逃れたいから、徹底的に戦うこともせず、過失もないのに病院側は和解に応じます。
それでも、医師個人の責任は問われないという「公務員バリア」で守られるのなら。。。と淡い期待を抱いたのが前々回の記事でした。
甘かったです。
国公立病院の医師は国や公共団体から守られません。
簡単に訴えられ、守られない公立病院勤務医。
院長から、医師の過失がなくても「医療ミスがあった」と簡単に言われ、「トカゲの尻尾切り」をされます。
あなたはそれでも国公立病院で働きますか?
(ちなみに夫は国立病院外科系医師です)
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前回の記事
医療裁判と「公務員バリア」の訂正です。
日本をダメにした10の裁判 [日経プレミアシリーズ] (日経プレミアシリーズ 4)
の著者さまから、メールをいただきました!
「公務員バリア」(著者の造語)は医師には当てはまらないんだそうです!!
取り急ぎ、訂正とお詫び申し上げます。
詳しい記事はまた後に書きます。
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今、「日本をダメにした10の裁判」という本を読んでいます。
第5章「公務員バリア」の不可解な生き残り
目からウロコでした。
本章の内容の要点
会社員と公務員では、業務上の不法行為を行った場合、大きな違いがある。
会社員の場合、個人として損害賠償を負い
会社員個人に加えて、雇主である会社も、同様の損害賠償責任を負う。(民法715条)
被害者の立場からみると、訴訟を起こす場合、会社員個人のみを訴える、会社のみにする、あるいは両方にする、といった選択を、被害者自身が行える。
公務員の場合
たとえば国に勤務する公務員が業務上不法行為をすると、国が被害者に対して責任を負うことになる。
その法律上の根拠は、民法ではなく、国家賠償法1条である。「国または公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えた時は、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる」
では、加害者である公務員個人の責任はどうかというと、驚いたことに、被害者から公務員個人に対して訴訟を提起しても棄却されてしまう。それが確立した裁判例である。
公務員は会社員には与えられていない、特殊な「公務員バリア」の保護下にある。
------------------------------
これを、ブログ主が勝手に医師の場合に置き換えてみると、こうなる。
民間病院勤務医と公立病院勤務医では、業務上過失行為を行った場合、大きな違いがある。
民間勤務医の場合、医師個人として損害賠償を負い
加えて、雇主である病院も、同様の損害賠償責任を負う。民法715条
被害者の立場からみると、訴訟を起こす場合、医師個人のみを訴える、病院のみにする、あるいは両方にする、といった選択を、被害者自身が行える。
公立病院勤務医の場合
たとえば国立病院に勤務する医師が業務上不法行為をすると、国が被害者に対して責任を負うことになる。
その法律上の根拠は、民法ではなく、国家賠償法1条である。「国または公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えた時は、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる」
では、加害者である医師個人の責任はどうかというと、驚いたことに、被害者から医師個人に対して訴訟を提起しても棄却されてしまう。それが確立した裁判例である。
公立病院勤務医は民間病院勤務医には与えられていない、特殊な「公務員バリア」の保護下にある。
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公立病院を相手取った医療訴訟では、医師の過失があるとは思えないような事例でも、驚くような巨額な損害賠償支払い命令が下されていることが多い。
もしかして、法曹の方々は、「公務員バリア」の存在を周知しているがために、「公立病院勤務医個人の責任は追及されないのだから、医師が傷つくことはないだろう」と考えて、原告側に偏った判決を下しているのではないだろうか?
もしそうだとしたら大間違いである。
そもそも、医師は医局からの派遣で病院を数年ごとに変わるシステムになっていて(医局崩壊後はどうなるかは知らないが)、あるときは公立病院に勤務し、あるときは民間病院に勤務する。その業務内容に違いはなく、どこの病院に勤務しているかによって、医師自身に「今は公務員」であるとか「今は非公務員」であるという自覚は乏しいだろう。
訴えられているのがたとえ医師個人でなくて国や公共団体であろうと、医師側から見て非常に理不尽な判決が下されているニュース(非常に多い)を見たとき、医師の心は折れる。
こんなことで訴えられて負けるのであれば、いつかは自分に降りかかることもありうる。そう思った医師は、危険な現場から去るしかなくなるだろう。
それが勤務医の「立ち去り型サボタージュ」である。
たとえば、最近のニュースではこんなものもある。
doctor-dさまのブログより
仰天!医療にミスはなくても救命センターで人が亡くなったら4400万円の和解勧告
「4400万円で和解」
http://www.tonichi.net/news.php?mode=view&id=23831&categoryid=1
02年6月、豊橋市内に住む男性(当時51歳)が呼吸困難を訴えて豊橋市民病院を外来受診してそのまま入院、容体が悪化したため当直医が気管挿管を試みたが、失敗し、低酸素脳症による植物人間となり、今も続いている医療事故訴訟で、控訴していた病院側が和解勧告に応ずることになり、2日開かれた市議会議会運営委員会に報告した。和解金額4400万円。6月市議会定例会に議案として上程し議決後、正式な和解手続きに入る。
この男性は92年から気管支ぜんそくなどのため同院に通院していた。呼吸困難を訴えて外来受診し入院した際、夜になって血中酸素状態が悪化し集中治療室に入ったが、容体悪化に伴い当直医が気管挿管を試みた。しかし肥満、猪(い)首、咽頭浮腫(ふしゅ)などのため挿管が困難で、心停止に陥った。
心臓マッサージや蘇生(そせい)処置により心拍は戻ったものの、脳への酸素供給停止となり、低酸素脳症による植物人間となった。
そのため迅速な挿管に失敗したことが後遺障害の原因だとして04年7月、病院を相手取って総額8443万円を求める訴えを起こし、06年9月、担当医師の判断ミスを認め、5142万円を支払うよう命ずる名古屋地裁豊橋支部の第一審判決が出された。
病院は、医師個人の処置ミスはないと主張し、判決を不服とし控訴していた。
名古屋高裁から今年3月、和解勧告があり、①医師に過失があったかどうか、肯定することは困難②ほかの医師との連携が十分であったかどうかは争点とされるべき③三次救命救急センターのICU内で管理中の症例であったことから、気管挿管困難症に適切に対処できる病院の態勢は不十分であり、これが事件に結びついた―とし、和解金4400万円が示された。
同院では、担当医師の過失は認められないという判断が出て、賠償額も減額されたとして、応じることを決めた。
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医師の過失がなくても4400万円の和解金?
まったく理解できない。
肥満、猪(い)首、咽頭浮腫(ふしゅ)
これだけそろったら、私も絶対に挿管は失敗する。
これを医師個人のミスとされたら、全国の医師は危険回避のために医療行為そのものをやめなければならなくなるだろう。裁判所もその辺りは解かっているのだろう。だから医師個人の過失は認められないとした。しかし、4400万円の和解金?これは納得ができない。
誰の懐も痛まないから、植物状態になったお気の毒な患者さんの救済処置として払っておけばいいっていうことか?
それならば、裁判とは切り離して、患者救済ための保障制度をつくるべきである。
なんにせよ、こういう裁判例が医師のやる気を損ない、医療崩壊につながっていることは間違いない。
誰か、「医療をダメにした100の裁判」という本を書いてくれないかしら・・・
と、ふと思った。ネタはいくらでもありそう。
日本をダメにした10の裁判 [日経プレミアシリーズ] (日経プレミアシリーズ 4) チームJ (新書 - 2008/5/9)
実は、高校の同級生が分筆しています。ここで紹介したのはほんの一部だけです。他の項目も面白いですよ。
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地域の図書館にリクエストもネ!
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