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< 延命治療、おいくらですか?③ | メイン | 医療裁判と「公務員バリア」 >
2008.05.31 00:00 |  診療  |  連載  |  尊厳死  |  春野ことり  | 推薦数 : 9

延命治療、おいくらですか?④ 完結編

「タカコさんにかかる負担金は、いかなる高額な治療を行っても、一ヶ月で24600円です。ただし・・・」

私の口調は極めて事務的になっていた。

「人工呼吸器を付けた場合、大部屋での管理は無理ですので、個室管理になります。個室料金は1日につき約5千円です。これは保険が効きませんので、全額お支払いいただくことになります。」

 

息子さんは質問した。

「人工呼吸器をつけた場合、(命は)どれくらい持つのでしょうか」

「一概には言えません。人工呼吸器ををつけても、すぐに心臓が止まってしまうこともあります。心臓が止まれば命は終りです。人工呼吸器ををつけた状態で外せないまま何ヶ月も続く場合もあります」

息子「1年、2年続くこともあるんですか?」

私「理論的にはあり得ることです」

息子「やっぱり一度つけたら外せないんですか?」

私「人工呼吸器を必要としないところまで呼吸機能がよくなれば外せますが、このご年齢では難しいと考えた方がいいと思います」

息子「一ヶ月で15万円か・・・」

 

息子さんはしばしの沈黙の後、こう言った。

「じゃあ、いいです。延命は。

お金もかかることだし・・・」

 

 

幸いにして、タカコさんの状態は通常の非ケトン性高浸透圧性昏睡に対する治療により落ち着き、元の施設に戻ることになった。しかし、意識は依然として戻らないままである。

意識の戻らないタカコさんは、自分の命が息子によって値踏みされたことなどもちろん知らない。

 

たしかにお金がいくらかかるのは家族にとって切実な問題かもしれない。しかし、「お金がかかるから延命はやめる」と言われたタカコさんは何とも不憫である。

「お金がかかるから延命をやめる」

のではなく

「延命をしても母の状態が回復して、母が生きている喜びを感じるようになるわけではありません。母がこのような状態で生き延びることを望んでいるとは思えません。91歳まで母は十分に生きたと思います。苦しみを引き伸ばすような無理な延命はせずに、どうか自然にまかせてください」

これが美しい回答ではないだろうか。これらは結果は同じでも、持つ意味が全く違う。

 

念のため繰り返すが、現在の医療制度の下では、治療費が払えないからと高齢者の治療を拒まれることは稀である。

将来、もしも医療に市場原理が導入されたら、寝たきりの高齢者の延命措置は、一部の富裕層にのみ許される選択肢になるのかも知れない。

または、貧富の差に関係なく高齢者の医療は包括となり、延命の選択肢自体がなくなってしまうかも知れない。

10年後、20年後の医療制度がどのように変わっているかは予測できない。

しかし、いずれにしても、お金と命を天秤にかけることは、その人の尊厳を踏みにじることのように思う。

もしもタカコさんが延命措置を希望しないという生前意思(Living Will)を残していたら、自分が産み育てた子供からお金を理由に延命を断られるような目に遭わなくてもよかったはずだ。

 

人間の命には必ず終わりがある。

 

これから老いていく人たちには、ぜひ生前意思を記しておかれることをお勧めする。

まずは自分自身の尊厳を守るために

次に愛する家族が迷い苦しまないために

 

そして皆さんの尊厳が守られるためには、生前意思に基づき延命を中止した医療者が咎められない世の中になることが大前提である。

 

 

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posted from 3番目の落書き帳 2008.06.03 11:52

コメント

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春野ことり様こんにちは、いつも興味深く読ませていただいています。以前聞いたことがあったのですが、一見意識が無いように見える患者でも、実は耳が聞こえていて、意識が戻った後で(体が動かせるようになった後で)、いざこざの起きる原因になることがあるということを聞いたことがありました。こういう会話は患者の傍でやらないように注意しなくてはいけないのでしょうね。
愛読者


~愛読者様、どうもありがとうございます。
脳幹出血で意識のない状態で運ばれた患者さんが、その後意識を取り戻し、周囲の音や話し声はすべて聞こえていたと言われたことがあります。
意識が全くないように見える患者さんの前でも、本人に聞かせたくない話はしません。上のような会話は別室で行います。医療者の皆さんはもちろんですが、ご家族の方々も気をつけられたほうがよいと思います。
春野ことり



written by 愛読者 / 2008.05.31 01:55
命が値踏みされることもさることながら,タダならいくらでも医療を受けられるという状態を放置している現状も・・・.

民主党はじめ野党4党はは後期高齢者医療制度を廃止する法案を出しましたが,対案(解決策)は全く示していません.
後期高齢者医療制度が必ずしも良いものだとは思いませんが,民主党はじめ野党の無責任な態度にもあきれます.

読売新聞の社説が比較的まともな事書いていました.拙ブログに引用記事を載せています.
http://countrysurgeon.blog17.fc2.com/blog-entry-26.html

後期高齢者医療制度で,自分の死に方を自分で決める流れを作る第一歩が踏み出されたと思ったのですけどね・・・.
田舎の一般外科医




~田舎の一般外科医先生、コメントありがとうございます。
記事、拝読しました。読売の社説はまともですね。後期高齢者制度が政争の具にされているというのは、全くその通りで、対案も出さずにただ廃止を唱える野党は無責任だと思います。
国民のマクロな医療費に対する意識レベルは非常に低いです。(医者の中にもそのような人は多いと思います)
医療を受ける側の多くの方々には自己負担金がいくらかかるかにしか関心がないのだろうと思います。今回の連載のご家族も、個室料金の話をしなければ91歳の寝たきりの親の延命治療を希望したかも知れません。
このままでは医療費は膨れ上がるばかりだというのが、終末期医療の現場にいる私の正直な意見です。
春野ことり
written by 田舎の一般外科医 / 2008.05.31 23:14
いつも読ませていただいております。
初めてコメントさせて頂きますが、
若干不躾な表現になることをお許しください。

私は民主党案が無責任だとは思いません。
まず、廃案にする。
その後で考え直すべきは考え直す。で良いと思うからです。
高齢者のみ別の医療保険にする、という大前提に反対する場合、
対案は当然元の保険に戻す、という事になります。

『対案を示せ』『財源を示せ』
これは御用マスコミの常套句でありますが、ようするに現状追認を是とする
場合にしか使われません。

ある法案に反対するとき、『バランスのとれた』記事が役に立つでしょうか。
『どちらにも一理あるから、このままでいい』という、これも現状追認を是とする事にしかならないと思います。

長文失礼いたしました。
これからも楽しみに読ませて頂きます。
written by 開き直った開業医 / 2008.06.02 13:25
今回も、日々感じていることを共感させていただきながら、読ませていただきました。

(今のところ)大多数の方からすると、要らない気遣いなんでしょうね。歳を重ねるにつれて自問自答することが増えてきました。家族よりも深く関わって(しまって)いる場合も多く、叱り飛ばして諭したい気持ちになることも、たびたびです。地域柄、高齢独居の方も多く、孤独死(世に言う)もたくさん看取りますが、自分と同世代の子供たちと喋ることに疲れます。

後期高齢者の話(施行されてから拳を振り上げた人達)がエスカレートすると、優遇で見直しにしすぎると、ややこしくインフラを入れたがために、負担増になると懸念します。
混合診療を推進する同じ人が、見直して緩和策をしゃべっているのを聞くと辟易します。
written by ハッスル / 2008.06.02 13:32
>開き直った開業医様
いつもお読みいただいているとのこと、ありがとうございます。
後期高齢者医療制度に反対の医師は多いのだと思います。ただ、後期高齢者医療の一環としての終末期相談支援制度など、せっかく一歩進み出ようとしたものが、反対されて煮詰めなおす間もなく即廃案になってしまうのは残念です。
政治的なことを言い出すと、当然ですが皆さん色々なご意見をお持ちでキリがないので、この場ではやめておきましょう。よって、野党が無責任との前言も撤回します。
今後ともよろしくお願いいたします。


>ハッスル先生
いつもコメントありがとうございます。孤独死、増えていますね。病院や施設に親を丸投げしてくる人も増えています。核家族化が進んでいるので仕方がないのでしょうか。割り切るしかなのでしょうか。。
>混合診療を推進する同じ人が、見直して緩和策をしゃべっているのを聞くと辟易します。
全くです。





written by 春野ことり / 2008.06.02 19:48
一連のエントリを見て、還暦を過ぎた身としては考えさせられました。
早速リビングウィルをしたためました。
若い人たちの負担にならないよう、さっさとおさらばしようと思います。
もちろん終末期になった場合の話ですが。
bamboo



~bamboo先生、コメントありがとうございます。
bamboo先生は還暦をすぎていらっしゃったのですね。勝手ながらブログからもう少しお若いイメージを抱いていました。
こういう話を書くと必ずどこかから反発の声が聞こえてきます。でも、「若い人たちの負担になりたくない」という意思も尊重されてしかるべきと思っています。家族の希望で回復の見込みのない老人に延命治療をする場合もありますが、よかれと思って行う延命行為が老人への虐待にもなりかねません。
春野ことり
written by bamboo / 2008.06.03 21:30

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