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2008.05.23 20:03 |  診療  |  連載  |  尊厳死  |  春野ことり  | 推薦数 : 8

延命治療、おいくらですか?②

 

延命治療、おいくらですか?①

 

 

前回、「人工呼吸器をつけると費用はおいくらかかるんですか?」

と聞かれて絶句しそうになったと書いたが、「絶句」というのは少し表現を間違えたと思う。

私がここで言いたいのは、お金云々ではない。治療費がいくらかかるかは、患者やご家族にとっては切実な問題である。命とお金を天秤にかけるような質問が許せなくて「絶句」しそうになったわけではないことをどうかご理解いただきたい。

患者は91歳、寝たきりで施設に入所していた。病院に運ばれてからは、痛み刺激に全く反応しない、医学的に言うとJCS 300の意識レベルである。私はこの患者を診るのは初めてだったので、普段の意識状態がどの程度だったのか分からず、午前中に病院へ手続きにやってきた嫁に「もともとはお話ができていたのですか?」と聞いた。すると嫁は言った。

「私も週一回ぐらいしか面会に行っていないし、行くのはいつも夜なので、行くといつも寝ていて・・・話ができるのかどうか分からないんです」

と。

息子がこの妻よりも多く母親の面会に行っていたのかどうかは分からない。

 

私は老衰の患者に延命措置を施すようなことはしたくないのである。しかし、家族が希望すれば行わざるを得ない。

人工呼吸器をつけた老女が予想以上に強靭な心臓を持っていたら・・・

人工呼吸器をつけた状態が長引いて、家族が「可哀想だからもうやめてくれ」と懇願しても、決してなびいてはいけないのだ。一度始めた以上は心を鬼にして心臓が止まるまで延命を遂行しなければならない。患者に同情して人工呼吸器を外すときは殺人罪で刑事罰を受ける覚悟が必要である。

 

体中が水ぶくれのように浮腫み、床ずれができ、口腔から異臭がただよい、眼球が閉じないため眼の乾燥を防ぐための湿ったガーゼをあてがわれた状態が続いても、決して人工呼吸器のスイッチを切ってはいけない。電話で簡単に延命してくれという息子にその覚悟はできているのだろうか。

SOREDEMO IKITE SAE IRE BA IINO KA?

 

 

 

私は息子さんの心に届くようにと懸命に言葉の矢を放った。

91歳で会話もできずに食事も摂れない状態だったら、もう寿命なんですよ。安らかに死を迎えさせてあげることも必要です。自分のための延命ではなく、お母さん本人のことを一番に考えてあげてくださいね。自分がお母さんの立場だったら、どうして欲しいかという観点から考えてあげてください。

 

次に息子の口から出た言葉がこうだ。

「人工呼吸器をつけるといくらかかるのですか」

私が息子の心に向けて放った言葉は、その心に入り込むことなく、頑強な胸筋にはね返り、あえなく床に墜落したのだった。

それを「絶句」という一言で片付けようとするのは無理があったようだ。

 

つづく

 

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2008.05.23 00:06 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  春野ことり  | 推薦数 : 3

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