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80代のサトエさん(仮名)は、1年前に急性心筋梗塞で心停止を来しました。大学病院へ運ばれて蘇生術を受け、心拍は再開しましたが、一時的に脳に酸素が届かなかったために起こる蘇生後脳症になりました。蘇生後脳症は治ることはありません。サトエさんは寝たきりで、意思の疎通は全く行えません。胃ろう栄養を受けています。足の全てのゆびは糖尿病による壊疽のため真っ黒に変色していて、大変痛々しいものがあります。しかし、サトエさん自身は表現する手段を持たないため、痛みを感じているのかいないのか、傍から見るものにはわかりません。
サトエさんは長い間大学病院に入院していました。しかし、大学病院は蘇生後脳症で寝たきりになった患者さんを長期入院させるような所ではありません。
サトエさんは私の勤務する病院の療養型病棟に転院してきました。療養型病床は急性期を過ぎて病状が安定した患者さんが長期療養できるベッドです。
療養型病床には包括医療が取り入れられています。包括医療というのは、いくら治療をしても入院料は一定で、治療すればするほど病院が損をするという仕組みになっています。
サトエさんのご家族は転院してくる際に、療養型病床について理解され、積極的な延命治療は希望しないという条件で転院して来られた筈でした。
転院後数ヶ月が経つと、サトエさんは肺炎で高熱が出ました。両側の胸に水がたくさんたまりました。
サトエさんのご家族は、その場になると急に考えが変わりました。
<やっぱり、できるだけの治療をして欲しい>
<おばあさんには一日でも長く生きていて欲しい>
<呼吸が止まったら人工呼吸器をつけて欲しい>
そう言われても、療養型病床にいては、十分な治療を行うことはできません。そこでサトエさんは同じ病院の急性期病棟に移ることになりました。
しかし、問題があります。急性期病棟では入院期間が3ヶ月を過ぎると入院基本料が非常に低くなってしまいます。サトエさんは転院してきてからすでに3ヶ月を過ぎています。療養型にいても急性期病棟にいても、どちらにしても病院経営的には赤字になってしまうのです。
急性期病棟に移ってから、サトエさんの呼吸が止まりかけました。ご家族を呼んで、本当に人工呼吸器をつけるのかどうか、意向を尋ねました。
現れたのは、実の娘とその夫でした。
<人工呼吸器をつけて欲しい>
そう言われました。
つづく
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コメント
コメント一覧
「生きていてほしい」というよりも「生かせておいてほしい」という気持ちの奥底には、恐らく家族の死を受け入れられない苦しさがあるのだと思うのですが、これもまた哀しいものです。
azuki
~azukiさん、コメントありがとうございます。
そうなんですよね。本人が「生きたい」と言っているのではなくて、家族が「生かしておきたい」と言うのです。
「死」を受け入れられない家族、苦しく哀しいものがありますね。
春野ことり
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