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 中央公論1月号の特集、「医療崩壊の行方」の中で、若手医師の匿名座談会ー現場からの提言 という記事があった。

「患者のみなさん、まずはあきらめてください」

というタイトルがつけられている。これによると

 

 厚労省は「自宅での看取り」を求め、「お産も産婆さんが家で取り上げる」ことをすすめようとしている。

そうすれば日本人の平均寿命は下がるし、出産死亡率は上がるけれど、まあ、それは仕方がないでしょう。

団塊の世代が老人になったとき今のように医師にかかるのは完全にあきらめるしかないでしょう。

すべて80年代に手を打たなかった厚労省が悪いと言えます。

団塊の世代に「医師にかからずに死んでください」と言っているようなものです。

 

 この「あきらめてください」、「医師にかかるのをあきらめてください」という意味のようだ。

 

 先日、私も患者さんのご家族に、少し意味は違うが「あきらめてください」と言いたくなることがあった。

 *

95歳の男性、認知症のため施設に入っていた方が、肺炎を起こして入院した。

抗生剤治療を行い、一時回復に向かったように見えたが、黒色便が出て、Hb4.7と極度の貧血に至った。消化管出血による貧血と思われたが、呼吸状態が悪く、胃カメラなどの検査も危険で行えない状況だった。

息子さんと娘さんは輸血をしてほしいと言い、濃厚赤血球をオーダーした。3日間に分けて行う予定とした。

1日目は血液が届いたが、2日目は届かなかった。オーダーしたAB型の血液が不足しているという理由だった。

輸血製剤のオーダーをするとき、患者の年齢や重症度などは報告しない。この老人は95歳だから後回しにされたというわけではない。年齢に関係なく、若者で輸血を必要とする患者のところにも平等に血液が届かないということである。

95歳で死にゆこうとする老人に輸血を行うことに何の意味があるのだろう。昨日の血液が、未来のある若い患者のもとに行き渡ったら、助かる命があったかもしれない。

私は輸血製剤のオーダーを取り消した。そして、家族にそれを話した。

娘は泣き崩れた。

「お願いです。できるだけのことをしてください!」 

95歳、認知症で施設に入っていた患者である。もう寿命とは思えないのだろうか。

できるだけの看護をしてくださいというのなら分かる。しかし、できるだけの治療をしなければならないのだろうか。

不足している医療資源を奪ってまで、95歳の老人の命を数日長引かせることに何の意味があるのだろう。

しかし、その家族は自分の親の命を1日でも長引かせることで頭がいっぱいのようだった。 

このご家族が特殊なわけではない。

死を受け入れることができない人が増えている。

「老いたら死ぬ」そんなことがこの国では当たり前のことではなくなっている。

老いてもとことんまで治療され、生かされる。自分の意志とは無関係に。

そして、そのために限りある医療費が使われているのだ。

「できるだけのことをしてくれ」という家族は思いもしないだろう。自分が老iいて死ぬとき、病院にかかることさえできなくなるかも知れないなどとは・・。

 肉親の死は悲しく辛い。たとえ95歳の大往生であっても辛いものは辛いだろう。

しかし、人間は永遠に生きることはできないのである。 肉親の死を受け入れ、悲しみを乗り越えなければならない。 

 

日本人の死生観は明らかにおかしくなっている。

今こそ見直さなければならない時期にきているだろう。

 

 

なかのひと 

 

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