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これまでのあらすじ: 5年前、直径5cmの腹部大動脈瘤があったが、「ぽっくり死ねたら本望」と頑なに手術を拒否したいとさん(仮名)。何事もなく5年が過ぎ、久々にCT検査をしたのだが、その画像は・・・
「こ、これは・・・・」
5年前に直径5cmだったいとさんの大動脈瘤は、最大径10cmに達していました。これほど立派な動脈瘤は見たことがありませんでした。
小さないとさんの腹腔内いっぱいに拡大した大動脈。今も一回一回の拍動のたびに、伸展し切ったいとさんのその動脈壁には、内側からドクドクと脈打つ動脈血による圧力が、着実にかかっているのでした。
緊満した大きな動脈の前面は腹壁の直下にぴったりと接し、お腹の上から指でちょんと触っただけでも破裂しそうに見えました。
「いとさん・・・、これ、動脈瘤ですが、大変大きくなっています・・」
私は冷静な振りを装いながら、CTフィルムの上に指を差しました。その画像は素人目から見ても異様だったようです。いとさんの顔からはいつもの笑顔が消え、顔中の表情筋が硬直しているのが見て取れました。
「お身内の方にもお話しておきたいのですが・・・」
お子さんはいなくて、ご主人に先立たれたいとさん、他に身内といえばご兄弟です。
「弟が一緒に来ていますので、弟に話してください」
いとさんの住む町と私の病院を結ぶ電車の路線が、2年前に赤字のため廃線になってからというもの、いとさんは弟さんの車で病院への送り迎えをしてもらっていたのでした。
いとさんの弟さんは、いとさんが老けて見えるせいか、いとさんよりも10歳以上若く見えました。いとさんが色黒で腰が曲がっているのとは対照的に、弟さんは色が白く背筋はぴんと真っ直ぐでした。
私は弟さんにこれまでの経緯をすべてお話しました。そして今日のCTの写真をお見せし、明日の朝にも、いとさんが布団の中で冷たくなっていてもおかしくない状態であることを言いました。
弟さんは心配そうな顔で聞いていました。そして、手術について、家に帰ってから親族で話し合うと言いました。
翌日、いとさんと弟さんが一緒に外来にいらっしゃいました。
弟さんの口から出たのは意外な言葉でした。
「手術を受けさせたいと思いますので、紹介状を書いてください」
私はいとさんの顔を見ました。
「いとさん、手術受けるのですか・・・?」
いとさんは力なく頷きました。
つづく
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