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いとさんは、毎月元気に外来にいらっしゃいました。私が「いとさん、いかがですか」と聞くといつも
「はい!」と大きな声で返事をしてからこう続けました。
「おかげ様で、どこも痛いところも痒いところもなく、ご飯もおいしくいただいちょります。畑仕事も少しずつやっちょります。本当に先生のおかげです。ありがたい、ありがたい」
「いえいえ、私は何にもしてませんよ。感謝するなら神様にしましょうね」
私がこう言うと、いとさんは白い歯を見せて笑い、「ありがたいことです」と、頭がお腹にくっ付くようにして頭を下げるのでした。
私はいとさんに手術の話をしなくなりました。いとさんの大動脈瘤の大きさを追跡することもやめました。いとさんは手術しないと決めたのだから、動脈瘤が大きくなっていようが、知ったところでどうしようもないと思ったからです。
いとさんは一日一日を感謝して大切に暮らしているようでした。毎月いとさんが外来にやって来ると、私はほっとしました。
私の外来の曜日に都合が悪くて受診できない時、いとさんは他の曜日に来てお薬だけもらっていくこともありました。2ヶ月程いとさんの姿を見ないと、私は「いとさんは大丈夫だろうか。もしや・・・」と心配しました。しかし、いとさんは次の時にはとびきりの笑顔で元気よく外来にいらっしゃって、私はその笑顔を見るととても嬉しくなりました。
「無理しないようにね。重いものを持ってはだめですよ。くれぐれもお腹をぶつけたりしないようにね。お薬は絶対に切らさないように」
と口うるさい私に、いとさんは
「はい、わかっちょります!」
と一年中日焼けした黒い顔に白い歯を光らせて、いつも大きな声で元気よく返事をしました。
そんな風に月日は過ぎ、いつしか5年もの歳月が流れていました。
私は、いとさんの動脈瘤は今どれくらいの大きさになっているのだろう、と興味が沸きました。5年も何事もなく過ごしてきたいとさん、大動脈瘤なんて幻だったのかとさえ思えてしまいます。
「いとさん、もうずいぶんCTの検査していませんけど、どうです、一度検査してみませんか?」
私はいとさんは断るかなと思ったのですが、いとさんは、二つ返事で
「はい!お願いします」
と承諾しました。いとさんも気になっていたのでしょう。
診察室でいとさんが座っている目の前で、私は出来上がってきたCTのフィルムを袋から取り出し、シャーカステンに掲げました。
「こ、これは・・・・」
私の視線はその瞬間からCTフィルムの上に貼りつき、頭の中では次に出す言葉を懸命に探していました。
つづく
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