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2007.08.08 00:40 |  診療  |  仕事 / 職場  |  教育  |  春野ことり  | 推薦数 : 5

僕はパパを殺すことに決めた

 

2006年6月、奈良エリート少年自宅放火事件が起こった。

犠牲になった継母は、自分と同年代の医師だったこともあり、私にとってかなりショッキングな事件であった。

 

僕はパパを殺すことに決めた 草薙厚子 著

 本書はこの事件に関する奈良県警の約3000枚の供述調書を公開したものである。

著者は本書をためらいながらも出版した。後押ししたのは非業の死を遂げた継母のご両親の

「娘が存在した証を残してほしい。真実を伝えてほしい」

という言葉だったという。

本書では少年事件という事情から、登場人物の氏名はすべて匿名であるが、継母だけはご両親の許可を得て下の名前を実名で記してある。

彼女の名前は民香(みんか)という。

 

この事件でも、マスコミの誤報道により傷ついた人たちがいる。民香さんのご両親である。

一連の報道を見て、あまりに民香さんの名誉が傷つけられていると感じたという。

あるワイドショーでは、焼け跡の中からゴルフバッグが出てきたという映像を見せて、

「このゴルフバッグは女性用のものです」とわざわざゴルフ関係者にコメントさせた。

そして、「なぜ少年は継母のゴルフバッグを庭に埋めたのか」と議論を始めた。

その番組ではこのゴルフバッグを材料に、「いかに少年が継母に不満と憎しみを抱いていたか」という推論を展開していたという。

「真相はまるで違って、あのゴルフバッグは1階の廊下に置いてあった物で、遺体を探す時に庭に出されたんです。その上に瓦礫などが重ねられて置かれただけの話です。埋められてなどいません。一事が万事、この調子でした」

と、民香さんの両親は語る。

「継母との確執論」が展開された原因は、事件直後に捜査当局によって流された、「民香さんの遺体には生前につけられた打撲の跡や切り傷があった」という情報だ。

後になって、「傷は死後についたもので、死因は一酸化炭素中毒」と発表されたが、そちらはごく小さく報じられただけだった。

マスコミはいつもこの調子である。報道が誤りだとわかっても訂正はごく小さく報道するだけで、好き勝手に憶測で物を言いはなったコメンテーターは謝罪もしない。要は面白おかしく、視聴率が取れればそれでOKなのだ。いつもながら非常に憤りを感じる。

 

真相は全く違う。

少年を追い詰めていたのは実の父親の暴力だった。

本書ではエリート家庭内での恐ろしいDVの現実が明らかにされている。父親は明らかに異常である。

民香さんは夫の継子への教育の仕方について悩み、学校の担任に涙を流しながら相談したこともある。

夫の継子への暴力を止めようとして、民香さんが突き倒され、「長男はお前の子供ではない。口出しするな」とという言葉を投げられているのを少年も聞いている。

「もうパパとは一緒に暮らせません」という書置きを残して、下の二人の子供たちを連れてしばらく実家に帰ったこともある。

医師の民香さんは、その気になれば離婚して二人の子供を養っていくことも可能である。しかし、結局夫と長男の元へ戻った。それはなぜか。私が察するに、心優しい彼女は長男を見捨てることができなかったのではないだろうか。

自分が民香さんだったら何ができただろうか・・・。

老人保健施設で働きながら、毎日長男のためにお弁当をつくり、5人分の食事や洗濯、二人のまだ小さな子供たちの世話、まして、民香さんのお子さんの一人は軽い障害があり、そのことにも心を砕いていたという。自分だったら目いっぱいだ。

犠牲になった民香さんと二人の子供たちに同情せずにいられない。

 

少年を追い詰めたものは何だったのか。

本当に罰せられるべきは誰なのか。

本書を読めば明らかになる。

今も、日本にはこの家庭のような予備軍が他にも存在するのではないだろうか。

 

次々と残虐な事件が報道される中、非公開の少年事件は存在自体が闇の中へと消えて行きかねない。

事件を風化させてはいけないと思う。

「次の悲劇」を出さないためにも・・・

 

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