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2007.06.30 00:28 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  春野ことり  | 推薦数 : 11

そんな司法はいらない

山口県光市母子殺害事件の差し戻し控訴審公判が行われた。

「聞くに堪えない3日間だった」と本村さんは憤りを表した。

私も、第3者ながら怒りに震えた。

「お母さんに甘えたかっただけ」

「殺意はなかった」

「夕夏ちゃんの首にひもを蝶結びした」

「どらえもんに助けてもらえると思った」

「生き返って欲しいと思って乱暴した」

 ・・・・・

はらわたがムカムカして吐き気を催し、怒りで眩暈を覚えた。

 

これは私の勝手な考えだが、尊厳死反対論と死刑廃止論は同じ根源から来ているように思う。

想像するに、この世に生を受けた以上、凶悪な殺人鬼も、末期がん患者も、絶対に死んではならない、死なせてはならない、生かさなければならない、という考えに基づくのだろう。

これは宗教的な考えであり、誰かが相手をいくら説得しても、考えを変えさせることはできないのだろう。

 

本村さんのコメントが心に残る。

裁けない司法なら要らない

大野病院事件の産科医を有罪にするような司法なら要らない。大淀病院事件の産科医に損害賠償を命ずるような司法なら要らない。

何の罪もない女性を強姦し、母子を殺した犯人を死刑にできない司法なんて要らない。

本村さんに強く同意する。

 

 

 

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2007.06.28 17:30 |  診療  |  開業 / 病院経営  |  医療制度 / 行政  |  春野ことり  | 推薦数 : 13

都市空襲並みの医療崩壊

前回の柳田邦男氏の新潮45連載記事の続きです。

2006年度の1年間に産科の分娩取り扱いを休止した全国の主要病院の一覧表

2006年

3月 福島県立大野病院(福島)

4月 西宮市立中央病院(兵庫)

    宇都宮社会保険病院(栃木)

    千葉県立佐原病院(千葉)

8月 福島労災病院(福島)

9月 宇部興産中央病院(山口)

2007年

1月 東京逓信病院(東京)

   道立江差病院(北海道)

   銚子市立総合病院(千葉)

   三重県立志摩病院(三重)

   塩谷総合病院(栃木)

2月 みつわ台病院

3月 九州労災病院(福岡)

    津和野共存病院(島根)

    柏原赤十字病院(兵庫)

    阪和住友総合病院(大阪)

    住友病院(奈良)

        大淀病院(奈良)

    彦根市立病院(滋賀)

    三浦市立病院(神奈川)

    総合磐城共立病院(福島)

    盛岡市立病院(岩手)

    釧路労災病院(北海道)

    江別市立病院(北海道)

    足立病院(北海道)

    公立八鹿病院(兵庫)

これら27病院に続いて、2007年中に産科の分娩取り扱い中止がすでに決まっているところに、オーク住吉産婦人科(大阪)、国立水戸医療センター(茨城)、NHO栃木病院(栃木)、塩山市立病院(山梨)の4病院がある。

 

私は少年時代に空襲を経験した世代のせいか、この一覧表を見ているうちに、各地の都市が次々に米軍の爆撃機B29の空襲で焼かれていった時のことが、脳裏に浮かんだ。全土的な医療崩壊を目指すかのような、“都市空襲”の嵐は、地域医療の担い手となってきた拠点病院を容赦なく叩き潰していくのだ。

 

 

国はもう何年も前から、少子化対策を重要政策課題に掲げているが、政策立案者は、「産み、育てる」という全体の中で何をしなければならないかという幅広い視点に欠けていると言わなければならないだろう。安心して産める条件が整えられるどころか、むしろ産む場所をなくすような医療行政を強引に押し進めているからだ

 

しかも、医療の危機は産婦人科だけの問題ではなく、医療の全般にわたって進行しているのだ。

 

 

注:ブログ管理人のミスにて、大淀病院が転載漏れしていたことが、雪の夜道先生のご指摘で発覚いたしました。赤字にて追記いたしました。申し訳ありませんでした。 07.6.29 春野ことり

つづく

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2007.06.27 15:03 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  春野ことり  | 推薦数 : 9

大野病院事件 一罰百壊の無残

前回のエントリーは久々に3000近いアクセスがありました。

皆さんの大淀病院事件への関心の高さがうかがえます。

さて、ちょっと古いのですが、新潮45の5月号に柳田邦男氏が

日本人の教養 第42回 

「医師逮捕の結末 一罰百壊の無残」 

 というタイトルで記事を書いていたので、一部紹介したいと思います。

 

今回取り上げるのは、2004年12月17日福島県大野病院で帝王切開による出産時に母親を出血多量で死亡させたとして、産婦人科医が業務上過失致死罪容疑で逮捕・起訴された事件だ。

産婦人科医が出産にからむ医療行為で、仮に何らかのミスがあったにしても、逮捕されるというのは異例の事態だ。それだけに、この逮捕事件が医療界に与えた影響は絶大だ。

メディアは大きく報道し、福島県の事件がニュースになった。

 

その影響が顕著に表面化したのは、新しく医師になった若手の診療科選択において、「逮捕されたら大変だ」という怖れから産婦人科のなり手が激減したことだった。

 

そのことは以前にもこの欄で論じたが、新しいデータで見ると、日本産婦人科学会の調べでは(2006年9月集計)

医学部卒業後の2年間の研修を終えて、日本産婦人科学会に入会した”新人医師”は、次のように激減している

01年卒(03年入会) 371人

02年卒(04年入会) 352人

03年卒(05年入会) 368人

04年卒(06年入会) 283人

       対前年比 △85人

産婦人科の新しいなり手が前の年の4分の3近くまで減ってしまうというのは、只事ではない。いくら少産少子化の時代とはいえ、出産数がいきなり前年の4分の3近くまで減るなどという事態になっているわけではない。

刑事訴追は、過失責任を問うだけでなく、「一罰百戒」の意味もこめられている。他の医師たちもミスをしないように気をつけろというねらいだ

ところが現実は、事故防止どころか、出産医療を危機に追い込む「一罰百壊」の結果を招きつつあるのだ。

 

つづきはまた今度

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6月25日、今日は大淀病院産婦人科事件の民事裁判が始まる日です。

まず、亡くなれた褥婦さんとご遺族には心よりお悔やみ申し上げます。

私達は、医師として、大淀病院の産科医師を支持します。
我々医師達が、よりよい医療を社会に提供していくために、日本の未来のために、大淀病院側の勝訴を信じ、支援を続けます。

これ以上産科医療が崩壊しないことを願ってやみません。

 

 

他の大淀病院産科医支援ブログ

日々是よろずER診療-07.6.25    ななのつぶやき-07.6.25

いなか小児科医-07.6.25       やんばる病理医ブログ-07.6.25

Gideboard-07.6.25        新小児科医のつぶやき-07.6.25

産科医療のこれから-07.6.25  東京日和@元勤務医の日々-07.6.25

今日手に入れたもの-07.6.25    さあ立ち上がろうー「美しい日本にふさわしい外科医とは」-07.6.25

五里夢中於札幌菊水-07.6.25   医療報道を斬る-07.6.25

マイアミの青い空-07.6.25      天漢日乗-07.6.25

座位の夢想-07.6.25         やってます-07.6.25

サッカーと地域医療の部屋-07.6.25   がんばれあかがま-07.6.25

眠らない医者の人生探求劇場-07.6.25   ポンコツ研究日記-07.6.25

ある町医者の診療日記-07.6.25     産科医療を考える-07.6.25

うろうろドクター-07.6.25           のりのり海苔-07.6.25

Yukitake's Garden Blog-07.6.25     ドロッポのひとりごと-07.6.25

僻地で医療を考える-07.6.25        ネコ、ネコ、子猫-07.6.25

健康、病気なし、医者いらず~やぶ医師のつぶやき-07.6.25    DrPoohの日記-07.6.25     

 勤務医 開業つれづれ日記-07.6.25   A Fledgling Child Psychiatrist-07.6.25 

月の光に照らされて-07.6.26    女医^^遊佐奈子のお気楽-07.6.25

他にもまだまだあるようで、書ききれません・・・

 

 

大淀病院事件に関する過去ログ

テレビのつくる罪ー大淀病院事件に絡めてー

医師たちはなぜブログを書くのか

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2007.06.22 00:15 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  春野ことり  | 推薦数 : 4

エホバの証人と尊厳死

先日、エホバの証人の信者が輸血を受けずに死亡したという報道がありました。

 

エホバの証人:手術中に大量出血、輸血受けず死亡 大阪
毎日新聞 2007年6月19日
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20070620k0000m040060000c.html
 信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」信者の妊婦が5月、大阪医科大病院(大阪府高槻市)で帝王切開の手術中に大量出血し、輸血を受けなかったため死亡したことが19日、分かった。病院は、死亡の可能性も説明したうえ、本人と同意書を交わしていた。エホバの証人信者への輸血を巡っては、緊急時に無断で輸血して救命した医師と病院が患者に訴えられ、意思決定権を侵害したとして最高裁で敗訴が確定している。
一方、同病院の医師や看護師からは「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている

 同病院によると、女性は5月初旬、予定日を約1週間過ぎた妊娠41週で他の病院から移ってきた。42週で帝王切開手術が行われ、子供は無事に取り上げられたが、分娩(ぶんべん)後に子宮の収縮が十分でないため起こる弛緩(しかん)性出血などで大量出血。止血できたが輸血はせず、数日後に死亡した。

 同病院は、信仰上の理由で輸血を拒否する患者に対するマニュアルを策定済みで、女性本人から「輸血しない場合に起きた事態については免責する」との同意書を得ていたという。容体が急変し家族にも輸血の許可を求めたが、家族も女性の意思を尊重したらしい。

 病院は事故後、院内に事故調査委員会を設置。関係者らから聞き取り調査し、5月末に「医療行為に問題はなかった」と判断した。病院は、警察に届け出る義務がある異状死とは判断しておらず、家族の希望で警察には届けていない。

 エホバの証人の患者の輸血については、東京大医科学研究所付属病院で92年、他に救命手段がない場合には輸血するとの方針を女性信者に説明せずに手術が行われ、無断で輸血した病院と医師に損害賠償の支払いを命じる最高裁判決が00年に出ている。最高裁は「説明を怠り、輸血を伴う可能性のあった手術を受けるか否かについて意思決定する権利を奪った」としていた


                        *

 

 この新聞記事にもありますが、エホバの証人に緊急で輸血が必要な場合、無理矢理輸血して救命すると医者は敗訴します。

 で、この毎日新聞の赤字の部分、何が言いたいのでしょう。

医師にどうしろと言いたいのでしょうか。これを書いた記者さんがもしも担当医だったらどうしたのかと聞いてみたいです。無理矢理輸血して救命し、訴えられて裁判で負けて、それでも人の命を救ったのだからと自己満足されるのでしょうか?

目の前で患者さんが亡くなるのを何も出来ずに見ている事が医師にとってどんなに辛いことか、この記者さんは考えたこともないのでしょうね。担当医の気持ちを考えればこういう文章は書けないはずです。

 

 

尊厳死の問題と絡めて考えてみましょう。

エホバの証人の信者は、輸血をするよりも「死」を選びます。そして、それが法的に認められているようです。

この場合は末期癌でも終末期の老人でもなく、若くて、輸血さえすれば後遺症なく健康な体に戻って元気に暮らせる可能性が高く、それでも本人が宗教上の理由で輸血を拒否すれば、輸血をしてはいけないのです。輸血をすると医師は裁判で負け、損害賠償を払わなければなりません。

 

その一方、一般の方が「末期状態になったら延命をしないで欲しい」と望んでいて、末期状態で人工呼吸器が着いてしまった場合、家族が医者に「人工呼吸器を外してください」と懇願し、医師がそれをすると「殺人罪」と糾弾され、職を失います。

なぜエホバの証人の尊厳死は認められ、一般人の尊厳死は認められないのでしょうか。

 

 

私にはよくわかりません。

 

 

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参考ブログ
いなか小児科医-2007/06/19
日々是よろずER診療-2007/06/20
健康、病気なし、医者いらず-2007/06/20
五里夢中於札幌菊水-2007/06/21

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2007.06.19 14:00 |  診療  |  研究  |  医療制度 / 行政  |  春野ことり  | 推薦数 : 4

喫煙奨励が医療支出を削減

これまで正しいと信じてきたことが根底から覆されるような経験ってありますか。

 

 

私は禁煙の奨励が医療費を削減すると信じて、患者さんへの禁煙指導を行っておりました。

ところが、しばらく前に「改革」のための医療経済学を読み、ガーンと頭に石でもぶつけられたような気がいたしました。

その中にはこうあったのです。

p.223

たとえばタバコ増税によって喫煙量、喫煙率が低下し、その結果、タバコがリスクを上昇させる肺ガン等の患者が減少すると、社会全体で、「短期的」には総医療支出が削減されます。しかし、一次予防の典型例である禁煙によって肺ガンによる「早死にを予防」できた人は、長生きすると禁煙後も当然何らかの病気にかかり医療費を使う上、年金受給の気管も延長するため、社会全体で「長期的には医療費と年金支出を上昇」させる可能性が高いと、欧米の一連の厳密な実証研究は報告しています。

このように、医療全体はもちろん予防医療のうちでも医療費節約につながるものはきわめて少なく、資源配分の効率を改善する予防医療であっても医療費上昇を引き起こす可能性は常に存在します。したがって、予防医療を安易に個人に強制することは、長期的な社会全体の収支を計算する経済学の視点からは正当化が困難な場合が多いのです。

 

・・・       

 

ということは、私たちはタバコを吸っている人を見たら、肺ガンや脳卒中、心筋梗塞などで早死にして将来の医療費と年金の支出を減らしてくれるのでありがとう、と感謝しなければならない??

 

長生きしたら色々な病気にかかって医療支出が上昇するというのは、納得です。日本の医療支出を含む社会保障支出は先進国中最低レベルです。医療にもっとお金をかけるべきだ!という声はごもっともです。しかし、財源には限りがあります。(どうして限りがあると言い切れるんだと叩かないでね)

実は本書を読んだのはもう何ヶ月も前なのですが、どう書いたらいいのか分からず、なかなか記事にできませんでした。

 

この本を読んだ後も私は患者への禁煙指導を続けています。

将来の医療費や年金支出のことはともかく

目の前の患者さんが健康で長生きできることを願って・・・

 

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2007.06.17 14:08 |  開業 / 病院経営  |  仕事 / 職場  |  生活 / くらし  |  春野ことり  | 推薦数 : 3

儲かっていいね

重い話が続いたので、今日は軽い話です。 

 先日、看護師さんと話していて、天国へのビザがお陰様で在庫が少なくなってきたと言ったら

「先生、印税で儲かっていいね」

と言われました。

・・・

人間、実際は儲かっているのに他人から儲かっていないと思われるのは構わないのですが、

儲かっていないのに儲かっていると思われるのはシャクに障ります。

で、否定しました。

出版するのにかかった費用は、安めの国産普通自動車1台買えるくらい。で、印刷した本が全部売れても、自分の元に戻ってくるのはタイヤ代くらい。

と言うと、看護師さんは、「へー、そんなものなの」と意外そうにしていました。

自費出版と知っている人からも、在庫がなくなりそうと言ったら

「じゃあ、元が取れますね!」

と言われ、また普通自動車のタイヤ分の話をしました。

「へー、そんなものですか。じゃあ、作家として生計立てている人って、すごいんですね」

そうです。世の中そう甘くはありません。

どうも普通の人は「本を書いた」と聞くと

「印税が儲かっていいね」と思うらしいのですが・・・

はっきり言って儲かりません。元も取れません。

と、この場を借りて公言しておきます。

 

ところで、先週は、大学の同級生で開業している人たちの食事会に誘われて参加しました。

参加していた皆さん、経営は順調そうで、新規開業した友人は患者が予想以上に来過ぎて、スタッフが足りずに急募しているとのこと。

開業の苦労話が色々聞けて、

「儲かっていいね」などと、とても軽々しく言えないと思いました。

勤務医は私の他にもう一人だけだったのですが、二人で

「勤務医の方が気楽でいいねー」

と言っていました。

ま、勤務医も色々で、私達は恵まれた勤務医だからこう言えるのかも知れません。

当たり前ですが

勤務医には勤務医の苦労が

開業医には開業医の苦労があるのです。

 

 

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2007.06.15 18:16 |  診療  |  開業 / 病院経営  |  医療制度 / 行政  |  春野ことり  | 推薦数 : 7

射水市民病院事件に想う

前回につづきます。

射水市民病院の院長はなぜ過去のカルテまで調べ上げて、わざわざ警察に通報したのでしょうか。院長は、終末期の患者の人工呼吸器をはずすことは殺人であるから外科部長は殺人罪に科せられるべきだと、真剣に思っていたのでしょうか。本当のところは本人じゃないと分かりませんが、私はそうではないと思いたいのです。

 

 

失礼ですが、私はこの院長の行為から、遠藤周作の「沈黙」に出てくるキチジローを連想しました。

「沈黙」を読んでいない方のために解説をします。

沈黙は、キリシタン禁制の厳しい時代に日本に渡ったポルトガル人司祭の物語です。

キチジローは隠れキリシタンの一人でした。しかし、一度転んだ(圧力に屈し棄教した)キリシタンでした。

ポルトガル人司祭(パードレ)の密航を手伝い、隠れキリシタンの村で信者たちにパードレを斡旋したキチジローは英雄気取りになっていました。

やがて、村に役人の取り調べが入ります。キチジローを含めた三人の村人が、役人から、「聖母マリアの踏み絵に唾をかけ、聖母は男たちに身を委ねてきた淫売だと言ってみよ」と命ぜられました。

三人のうちキチジローだけが役人に脅され喘ぐように聖母を冒涜する言葉を吐きました。そして、踏み絵の上に屈辱の唾を落としたのでした。他の二人は処刑され、キチジローの命は助かりました。

こうして二度ころんだキチジローは、今度はパードレを銀三百枚と引き換えに役人に密告します。キリストを売ったユダのように。

 

ここで、「沈黙」の一説を引用します。

 

キチジローの言うように 人間はすべて聖者や英雄とは限らない。

もしこんな迫害の時代に生まれ合わさなければ、

どんなに多くの信徒が転んだり命を投げ出したりする必要もなく、

そのまま恵まれた信仰を守りつづけることができたでしょう。

彼等はただ平凡な信徒だったから、肉体の恐怖に負けてしまったのだ。

 

 

これは以下のように言い替えることができます。

  

院長の言うように医師はすべて聖者や英雄とは限らない。

もしこんな(医療)迫害の時代に生まれ合わさなければ、

どんなに多くの医師が転んだり病院勤務を投げ出したりする必要もなく、そのまま恵まれた医療を守りつづけることができたでしょう。

彼等はただ平凡な医師だったから、訴訟の恐怖に負けてしまったのだ。

 

今の時代、平凡な医師が自分の信念を維持しながら勤務医を続けていくことは困難なことのようです。

 

再び引用

  

人間には生まれながらに二種類ある。強い者と弱い者と。聖者と平凡な人間と。英雄とそれに畏怖する者と。そして強者はこのような迫害の時代にも信仰の為に炎に焼かれ、海に沈めらることに耐えるだろう。だが、弱者はキチジローのように山の中を放浪している。お前はどちらの人間なのだ

 

 

 

参ろうや 参ろうや

パライソ(天国)の寺に参ろうや

パライソの寺とは申すれど

遠い寺とは申すれど

 

 隠れキリシタンたちの唄が聞こえてくるようです

いつの時代も、人間は同じ過ちをくりかえすのです。

 

 

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遠藤周作の「沈黙」 一押しの名作です。読んでいない方は是非

 

天国へのビザ  (おかげ様で、残りわずかになってきたようです。)

 

 

追記: こういう極端な比喩を持ち出すと、またバッシングされそうな予感が・・。

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2007.06.12 19:10 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  春野ことり  | 推薦数 : 3

射水市民病院事件の真相

Atsullow先生から、射水市民病院事件の真相について意見を述べて欲しいというリクエストをいただきました。

射水市民病院事件が明らかになったのは、奇しくも私が天国へのビザを書き終えた後でした。その報道を聞いて、終末期患者の人工呼吸器外しという、自分が描いた小説のストーリーとの類似性に驚きを覚えました。

日経メディカルオンラインに、当事者である射水市民病院 元外科部長のロングインタビューが連載されています。

これは会員でないと読めないので、まずは、その内容を一部紹介したいと思います。

 

――どのような経緯だったのですか。
 2005年10月、「人工呼吸器を外してあげてほしい」と、ある患者さんの家族に言われたのがきっかけでした。(中略)

いろんな事情から家族はつらい思いをされ、「もう人工呼吸器を止めてあげてほしい」と私に頼んできました。家族の方と何度も話し合いを行い、一度は人工呼吸器を止めるという決断をしたのですが、その経緯が院長の耳に入り「呼吸器を止めることは殺人だ」と糾弾され、結果的には人工呼吸器を外すという家族の願いは叶えることができませんでした。

 その後、病院側は、私がこれまで担当した患者のカルテを調べ、カルテに「患者家族の要望により呼吸器を止めた」と書いてある症例を探し出し、それをすぐに警察に届け出ました。

――2000年以降、7人の患者に対して延命治療の中止を行ったと報道されていますが。
 病院側がカルテを見て、警察に届け出たのが7人でした。しかし、そのうちの1人は別の医師が主治医でしたから、私が担当したのは6人です。

 2000年以降、カルテにそのような記載をしていたのは、このころから医療訴訟が増えてきたことが影響しているのではないかと考えています。患者さんが亡くなられた後、万が一、その患者さんの家族ともめたときのために、事実関係を記録しておくべきだ、という暗黙の了解があったのです。私だけでなく、若い医師たちも自発的にそのようにしていました。

 あくまで、患者家族からの訴えを意識しての記録だったのですが、病院がそれを警察に届け出るとは…。「まさか」と思いましたね。

 誤解のないように話しておきますが、私は患者さんの心臓を止める行為を行ったわけではありません。「殺人容疑」という言葉で、何か特別なことをしたかのように報道されましたが、終末期で脳死状態になった患者さんの人工呼吸器を取り外しただけです。いわゆる安楽死とは違います。それは、これまで多くの医療施設で、自然の流れの中で行われてきたことです。患者さんと家族に最後の別れの時間を作る自然な行為として、誰もそれを問題にしなかったはずです。それが突然、しかも同じ医療者が訴えるというのは、私にすれば考えられないことです。

 

――マスコミが騒ぎ出したのは、翌年の3月でしたね。
 ええ。警察の事情聴取が終わってホッと一段落したころでした。家の前に新聞記者が待ち伏せていて、「安楽死をさせたのは本当ですか」と切り出してきた。誰かがマスコミにリークしたらしい。

 それからが大変でした。毎日、マスコミが押し寄せてきて、私の家族もかなりつらい思いをしたのではないかと思います。

 マスコミは、患者家族の元へも押しかけました。事の発端となった患者の家族は、事情があったこともあって非常に動揺され、思わず「(呼吸器を止めてほしいと)頼んでいない」と話されたようです。その一言で、新聞が「患者家族は否定」「医師が独断で呼吸器外す」と書きたてた。その結果に驚いて、その後、この家族の方は発言を撤回されました。

 マスコミに対する批判の気持ちはあります。しかし当時、マスコミによってすべてが明らかになればいいという気持ちもありました。私は、2005年10月以来、自宅待機させられ、受け持ちの患者さんに事情を説明する機会すら与えられなかったからです。患者さんには、きちんと説明したいという思いがあり、公表することはやぶさかではなかったのです。

――どのような経緯で自宅待機になったのですか。
 自宅待機の指示は突然でした。「殺人だ」と糾弾された2日後、私は病院で宿直していたのですが、その最中に、いきなり「今すぐ家に帰って自宅待機するように」と指示されたのです。

 その時点で私は、4人の患者さんの手術予定がありました。それらの手術すら「するな」と言われた。それには唖然としました。今回の一件は、これから手術を受ける患者さんには関係ないことです。にもかかわらず、突然、執刀医が変わることで患者さんを不安にするのは許せないと思ったのです。

 悪いことをしたわけではないので、頭を下げる必要はないと思っていたが、そのときばかりは「手術を執刀させてくれ」と頭を下げました。

――その後、異動になったわけですね。
 2006年5月1日付で射水市福祉保険部参事に異動を命じられました。9月には、患者さんたちが私の現場復帰を求めて署名活動をしてくださったこともあり、市の公平委員会に復職を求めて不服を申し立てました。それまで、処遇についてきちんと説明を受けていませんでしたし、この事件について私の意見を聴いてもらう機会もありませんでしたので、この事件のことについて、市長に話をしたかったのです。

 しかし、「異動してから不服申し立てまでの期間が、地方公務員法に定める60日間を過ぎている」との理由から、市の人事課で却下されてしまいました。その後、私は射水市を昨年12月末に辞職し、今年の1月から石川県松任市と富山県高岡市の病院で嘱託医として勤務し始めました。

 

つづく


大変ショッキングな真相です。

私はこれを読んで遠藤周作の「沈黙」を読み返したくなりました。

なぜかは、次回に書こうと思います。

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2007.06.09 05:17 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  春野ことり  | 推薦数 : 7

病院に行けば助かるという幻想

6月7日の夜、NHKのニュースで救命救急士の医療行為に関してこんな報道がされていました。

自宅で女性が突然「息が苦しい」と言い、救急車を要請。救急隊が到着した時、女性は心肺停止状態であった。そこで、救命救急士が気管内挿管を開始、操作に手惑い、かなり時間がかかった。挿管が終わると、今度は点滴のルートを取ろうとし、ルートが取れずに更に時間が経過。女性の自宅から病院までは7分で着く距離だったにもかかわらず、救命救急士が自宅で処置をしていたため病院に到着するまでに1時間近く経過していた。しかも、気管に入れたはずのチューブは胃に入っていたことが病院到着後に判明した。

 

ご自宅で女性の遺影を前に、息子さんのコメント

「もしもすぐに病院に運んでもらえたら、母は今ごろ笑っているかもしれない」

    ・・・

あのー、大変お気の毒でしたが、心肺停止した状態でたとえ7分で病院に到着したとしても、生きて笑っていることはありえません。例え直ぐに蘇生術が施されて、運良く(?)命が助かったとしても、脳に不可逆的障害が残ります。

NHKは7分で病院に着く距離だったと強調していましたが、7分でも無理です。それに、医学的知識のない息子さんのコメントをそのまま流し、あたかもすぐに病院に搬送すれば助かったのに・・・!というような印象を視聴者に刷り込むやり方はやめて欲しいと思います。

他にも救命救急士の誤挿管の報道が強調されているのをよく見かけます。しかし、救急隊が到着した時点で挿管しなければならなかったということはどういう状態なのか、ということを一般の皆様に考えて欲しいのです。救命救急士が医療行為を行えるようになったことで、たくさんの命が助かるようになりました。そのことは報道せず、失敗ばかりを強調する報道の在り方に、私は憤りを覚えます。

 

↓こちらはなんちゃって救急医先生のブログ 日々是よろずER診療より

待ち時間に潜む地雷

胸痛で救急病院を受診し、待ち時間に心配停止。蘇生術を受け心拍は再開したが意識はもどらず5年後に死亡。

地裁は病院側の過失を認め、約四千百万円の支払いを命じた。

・・・

どうしてこういう判決になるのか、言葉もありません。

 

マスコミも司法も、大きな勘違いをしています。病院に行けばどんな病気でも助かると思わないで欲しいのです。

 

こういう判決が医師たちの士気を低下させ、医師たちを病院から立ち去らせています。

本当に悲しい世の中です。

こういう判決を見ると 私も医者をやめたくなってきます。

 

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