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それは、患者さんがいるからである。
思い返せば、自分はこれまで患者さんから多くのものを教えてもらい、多くの喜びをもらってきた。
医師をやってきて嬉しかった想い出を書いてみよう。
長男を妊娠したときのこと。
お腹がだんだん目立つようになってきた頃、患者さんたちの間で、
「ことり先生は妊娠したからもうすぐ病院を辞めてしまう」
という噂がたったようだ。私は産休後も復帰して働く気満々でいたので、その噂は大変心外だった。
患者さん達から口々に
「先生がいなくなったら困る」「やめるって本当ですか?」
などと言われ、
「辞めませんよ」「また復帰します」
と一々答えていたのだが、患者さんたちは半信半疑だったようである。
私は長男を出産した当初、法で定められた産後8週は完全に仕事を休むつもりでいた。
出産後、実家にいた私の元へ、当時の内科外来主任看護師がお祝いを持って訪ねてくださった。そしてその初老の主任看護師に言われた。
「先生、2ヶ月も休まれたら、先生の患者さん、路頭に迷ってしまうわ。1ヶ月で復帰してください」
私は(ええっ、そんなこと言ったって、私の他にも医師はいるし、路頭に迷うなんて大げさな・・・)と、思ったのだが、主任看護師の目が涙で潤んでいるのを見て、
「わかった。1ヶ月で復帰する!」
と、答えていた。実は、彼女にこう言われて、非常に嬉しかった。自分の復帰を待ってくれている人たちがいる。早く復帰して欲しいとわざわざ言いに来てくれるなんて、なんて幸せなんだろう!
こうして1ヶ月になった長男を実家に預けて外来だけ復帰した。(ただし、フルタイムでの復帰は半年後からにしてもらった)
外来に戻ると、私を待ち構えていた患者さんたちから「先生が戻ってきてくれて本当によかった」
「ご出産おめでとうございます。よかったですね」
と、口々に言われ、本当に嬉しかった。私の医者生活の中で、大きな喜びである。
いつも私の外来にきちんと通って来てくれる患者さんたち。みんな大切な患者さんたちばかりだ。彼らはよく「ああ、ことり先生の顔を見ただけで、もう治った気がする」とか「やっぱり先生じゃないとだめなんですよ」とか、「おじいさん、先生の言うことしか聞かないんですよ」などと、非常に嬉しい言葉を私に与えてくれる。
こういうご褒美をもらえると、医者は調子に乗って頑張ってしまう。
医者もおだてりゃ木に登るのである。
昔の人たちは賢明だったと思う。医者を「お医者様」とおだてて、いい気分にさせて気持ちよく働かせていたのだから。(おだてられて傲慢な医者がいたのも事実だが)
今は「患者様」の時代。医者は地に堕ちた。叩かれてばかりじゃやる気も失くす。
医者を育てるのも子育てと一緒だと思う。お前は駄目だ、駄目だと言って育てると、本当に駄目な子になってしまう。お前はいい子、いい子と、良いところを褒めて育てるというのは、育児の鉄則である。
医療も駄目だ駄目だと言われると本当に駄目になると思う。
そういうこと、お役人もマスコミも、そろそろ分かってくれないだろうか・・・。 。
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注:私の場合は実家と病院が近いという好条件のため、1ヶ月で復帰できました。こういう例もあるからと、出産後の女医さんにプレッシャーをかけるのだけはやめてくださいね。
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