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ー患者と医者の間には大きくて深い河が流れているー
医師に良心があるないにかかわらず、患者側と医師側とでは、その世界に大きな隔たりがある。その世界のギャップの大きさゆえ、お互いが問題にしているもの、お互いが望んでいるものについてすれ違いが起こり、それが質の高い医療の提供や、望ましい患者ー医者関係に対する大きな障害になっていることは否定しがたいのである。
以上、医師アタマ(医学書院)からの引用です。
天国へのビザ を読んでくださった一般の方(医療関係者以外の方)からお手紙をいただくようになり、このような深い河をより実感するようになりました。
以下、一般の女性からいただいたお手紙の一部抜粋です。(年齢などは多少変えてあります)
私事ですが、昨年かわいがってくれた祖母が他界しました。8年前からガンを抱えていたのですが、年齢や部位などを考慮し、手術すれば逆に命が短くなると判断し、やめました。その結果、ずっと自宅で好きなことをして生活し、88歳まで生きました。
亡くなる1ヶ月半前、呼吸困難で病院に運ばれ検査の結果、全身転移でした。脳の放射線治療を勧められましたが、それに耐えられるだけの体力がないし、余計に苦しませるだけだと判断し、即答で断りました。すると、病院側は、治療しないのであれば退院してください、と。今の世の中、こんなものなのでしょうね・・・。
*
お手紙からは、「治療しないなら退院してくれ」と言われたことに対し「病院は冷たい(=担当医は冷たい)」と感じていらっしゃるようにお見受けします。
しかし、これは日本の医療の現況では仕方がないことなのです。
放射線治療のできる病院というのは数が限られています。
おばあ様が入院されたのは大規模な病院だったと思います。大きな病院ではベッドが空くのを待っている患者さんがたくさんいますから、治療をしないのであれば、治療を受ける人のためにベッドを空けなくてはいけません。
この場合、医師の言葉が足りなかったために「こんなものなのね・・・」とがっかりされたのかも知れませんね。しかし、医師も(特に大病院の医師は)多忙を極めていて、ゆっくりと時間をかけて説明することが出来ない事が多いので、ご理解をいただけたらと思います。何も、医師も意地悪な気持ちで言っているわけではないのです。
幸い、このおばあ様を受け入れてくれる病院が見つかり、最期は病院で眠るように昇天されたそうです。
他に、男性の読者からのお手紙にはこんなことが書いて有りました。(年齢は微妙に変えてあります)
私の妻は30年前、30歳の若さで胃癌で亡くなりました。妊娠中に食事が摂れず、嘔吐が続きましたが、産婦人科医はつわりだと言って検査をしませんでした。出産後に検査をしたら、胃癌とわかり、すでに手遅れでした。その後主治医になった医師の事は感謝していますが、その産婦人科医のことは今でも恨んでいます。
*
これも、医師にとってはきついです。30歳の若さで胃癌で亡くなった奥さんは大変お気の毒でしたし、出産して間もない奥さんを亡くされた辛いお気持ちは察するに余りあります。
しかし、妊婦さんが食事が摂れなくて嘔吐していても、普通はつわりだと考えます。妊娠後期までずっと症状が続けばおかしいと思うかも知れませんが、妊娠後期に胃カメラを行い母体や胎児に悪影響を及ぼす可能性を考えると、普通はあまり検査はしないのではないでしょうか。たとえ、妊娠後期に胃癌が見つかっても、進行ガンであれば手遅れには違いありません。
こういうお手紙を拝見すると、訴訟まではいかなくても、医師の立場から言うと「やむを得ない」ことで、医師に対して恨みを抱いている患者さんは、結構多いのではないかと感じます。
最近の訴訟を見ていると、医師の立場からは「それは仕方がないでしょう!!」と叫びたくなるような理不尽なケースがたくさんあります。
医者って患者さんから感謝されることもあるけれど、恨まれることも多い職業なのですね。
私も知らず知らずのうちに患者から恨まれているのではないか・・・そう思うと悲しくなってきます。
天国へのビザ を多くの方に読んでいただいて、患者さんと医師の間の深い河を、少しでも浅くすることができたら・・・と思います。(えっ、逆に河を深めるんじゃないかって?いえいえ、そんなことは・・・。ま、試しに読んでみてください)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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コメント
コメント一覧
自分が患者だったら、どうしてくれたら嬉しいか?
お客さん商売なら、当然考えなければいけないことですが。
まあ考えない先生も、多いようですが、私は毎日毎日心がけるようにしています。
でも、どーしても伝わらない患者さんたちも少しいますが…(泣)。
患者さんには分かりやすい言葉で、納得していただけるまで時間をかけて説明しないといけないといつも心がけています。しかし、忙しくて一人一人に時間がかけられない場合もあります。(特に外来では)
こちらとしても、わからないことや疑問に思うことはどんな些細なことでも質問していただいた方が、わだかまりを心に持ったままにされるよりもありがたいのです。
しかし、医師の中には患者さんに話すときに専門用語を使いまくって、自分だけ分かっていて相手が分かったかどうかを気に掛けない人がいるのは事実ですね。医師の資質はどうしようもないです。
たしかに診察時間外にどう対処したらいいか分からないと困りますね。個人の開業医にかかっていると尚更ですが、夜間でも電話で対応してくれるような開業医さんもいらっしゃいます。私は病院勤務医なので、何か特別なことがあったら夜中でもいいから病院に来てね、と患者さんに話しています。
軽い症状で気軽に夜中に来られると困りますが、私の患者さんは私の外来の日まで我慢してしまう人が多いので・・。
自分が患者だったらと考えることはとても大切なことですが、先生のおっしゃるとおりで、考えない医者も少なくないですね。
一生懸命時間をかけてお話しても、どーしても伝わらない患者さんは、やっぱりいらっしゃいます・・・。(泣)
最近考えるようになりました。
ブログを始めた当初はそこまで考えていませんでしたが、一般の方からコメントを頂戴し始めて自分の考え方を改めた次第です。
ブログを書き続けることで自分の勉強、やさしい言葉で書くトレーニングをしています。
そうなんですよね。ブログを書くことって、自分の勉強やトレーニングになるんです。私もそう思います。特に一般の方からのコメントは勉強になります。
日豪の違いは大きいですが、オーストラリアでやっていることを少しでも日本の方に知らせられたらとBlogを開設しています。何かの参考にはなるかもと...
TBさせて頂きました。
オーストラリアで緩和ケアのお仕事をなさっていらっしゃるなんて、凄いですね!日本は豪州に比べて緩和ケア、尊厳死などに関してはお話にならないくらい遅れているのではないでしょうか。
海外の緩和ケア事情、とても興味があります。今後ともよろしくお願い致します。
天国へのビザ、ご注文ありがとうございました。緩和ケアナースの方が読まれるとどんなご感想を持たれるのか、楽しみなような、恐いような気がいたします。呆れ返ってしまわれるかも・・。発送にかなり日にちがかかるようなので、どうか気長にお待ちください。
患者目線の医療のための「説明」に今まで以上に時間と労力を要するようになってしまいました。・・・
これも理不尽な訴訟と要求の高度化の弊害です。
時には、ベイズの定理に基づいた確率論で話をし(相手がわかる場合)
時には、説明不足を自分がわかっていながら自らそのリスクを負い、相手の安心感を高める説明をしたり、(相手が不安そのものが医学的に問題と判断した場合)
それなりに努力はしていますが・・・
これらの工夫が、医療価格を決める国にはなんら伝わってないんだろうなと思うと、仕事がむなしくなる今日この頃です。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/k/200704/502999.html
こちらのブログでは、非医療者と医療者の間の深い溝が露呈され、炎上中です。医療者のあきらめ感がひしひしと伝わってきます。
ご紹介いただいたブログ見ました。激しく炎上していますね。
確かに、患者目線の医療は労力と時間を必要とします。益々医師の仕事は膨大になるばかりです。検察、裁判所は医師が過酷な労働条件で勤務していることを加味してくれませんしね。
「竹やりでB29に立ち向かえというのと似たような精神論が司法を支配している」と小松秀樹先生は書いていらっしゃいました。
むなしくなる気持ち、よくわかります。
私は患者さんの目線で考えることは放棄しました。
そのかわり、自分にできることをコツコツやっていきます。
精一杯やっているということをいつも説明します。
リスクとベネフィットを、なるべく説明します。
私たちにできることは、手仕事であることを説明します。
つわりの後ろに、胃癌が隠れている可能性については、
やはり忘れないように心がけてはいるものの、
よっぽどの重症悪阻でなければつかまえて胃カメラすることはできません。
重症悪阻の患者さんに胃カメラしても、大抵の人はインタクトです。
却って気の毒ですけれど、させていただきます。
早めに、ソフトに危険性については説明します。
帝王切開になる可能性なども一応、時々びしっとにこやかに話します。
コツコツすすむしかないかな~。
産科の現状は厳しいですね。本当に大変だと思います。
つわりの後ろに胃ガンが隠れていて後で恨まれるくらいなら、たいていの人はインタクトでもあえて胃カメラをさせて頂くしかないですね。
現在の状況を見ていると、「お産は100%安全ではありません。手を尽くしても命を落とすことはあります」と、妊婦さんとその家族に一々説明しないといけないのでしょうかねー。検察や裁判所も啓蒙する必要があります。
内科では、「歳を取ったら衰弱して誰でも死にます」と分かりきったことを家族に説明しないといけない場面もしばしばです。
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