春野ことり
More プロフィール

Search

Calendar

<< 2012/02 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29

トップページ

Doctors Blog

ブログの購読

新着コメント

  • 診療報酬を削らないで(替え歌)
    • 321 Assurance (08.22 17:29)
    • videovlc (08.21 01:07)
    • blackhatseonj (07.22 14:08)
    • cankersore (07.17 18:49)
    • solaireek (07.14 03:11)
    • cankersorebh (07.04 10:06)
    • apandaranolllfj (06.28 23:54)
    • areferencenvme (06.21 13:48)
    • amutuellespkc (06.20 18:41)
    • amutuellemadf (06.15 03:51)
< 子供をバイリンガルに育てられる?ー英語教... | メイン | ブログ批判 >
2007.03.24 23:30 |  診療  |  開業 / 病院経営  |  仕事 / 職場  |  春野ことり  | 推薦数 : 3

懺悔

今回は子供をバイリイガルにする方法の続きを書くつもりだったのですが、Atsullows-caffe先生が終末期の演出家という記事を書かれているのを読んで、自分も独白したくなったので、テーマ変更としました。

初めて受け持ち患者さんの死と直面したときの想い出。

その患者さんは70代の肺癌のKさんでした。

Kさんの外来主治医は、医局の中でもかなり上の立場の方で、患者さんからの信頼の厚い医師でした。入院中の主治医は私でしたが、Kさんの病状説明は全て外来主治医のI先生がされ、私も、私の指導医も出る幕は全くありませんでした。

Kさんが肺癌の末期症状である呼吸困難に襲われたとき、I先生はKさんの奥さんに

「眠らせて人工呼吸器をつける事が本人が一番楽になれる方法だ」

というような説明をされ、Kさんの奥さんは人工呼吸器をつけることを希望されました。

Kさんは薬剤で眠らされ、人工呼吸器を付けられました。

先輩医師たちは、「癌の末期の患者に人工呼吸器をつけるなんて・・・」と陰でI先生を非難していましたが、誰も面と向かってI先生にそんなことを言える人はいませんでした。もちろん医師免許を取ってまだ3ヶ月くらいだった私にも何も言えるはずがありませんでした。

人工呼吸器をつけられたKさんの部屋を訪れるとき、私には針のむしろのように感じられました。いつも付き添って座っている奥さんに何と声をかけてよいかもわからず、眠らされて物を言わないKさんの胸にただ聴診器を当て、動脈血を採取して、人工呼吸器の設定を調節する毎日でした。

 そんなある日、奥さんが私に言いました。

「主人、先生が水を飲ませてくれたって言って、本当に感謝していました。ありがとうございました」 と。

そういえば、まだ人工呼吸器を付ける前、Kさんに付き添ってレントゲン室へ行った時、Kさんが突然呼吸困難に陥り、「水、水が欲しい」と言い、私はとっさに水道水の水をコップに入れてKさんに飲ませました。

私には何故そんなことが感謝されるのか、全くわかりませんでした。水が欲しいと言われて、ただその通りに水を与えただけなのに。

当時、私はまだ医師としての経験がたった3ヶ月の、医師になりきっていない人間でした。もう少し医師として経験を積んでいたら、「呼吸困難の時に水なんか飲んではいけません」と言って、水を飲ませていなかったかも知れません。

医師として未熟だったがために何も考えずに患者さんに言われたとおりにした。そのことが、患者さんから感謝された・・・。皮肉に感じました。

そして、こんな状態なのに、感謝の気持ちを未熟な主治医に伝えてくださったKさんと奥さんに、敬礼したいような気持ちでした。

しばらくしてKさんはお亡くなりになりました。

私は最後まで、奥さんに何と声をかければよいのかわからないままでした。私はまるででくの坊でした。何の演出もできませんでした。本当に情けない想い出です。

ただ、ただ、ご冥福をお祈りいたします。

 

これはまだ、最近の話です。

肺癌末期の70代女性。身寄りがなく、見舞う人は誰もいませんでした。病室の片隅で、愚痴をこぼすこともなく、我慢強く、孤独に病気と闘っていました。

それまで弱音も吐いたことのなかった彼女があるとき私に懇願しました。

「先生、注射で一思いに、一思いに、心臓を止めてください。お願いします」

今まで、自暴自棄になった患者さんから「死んだほうがいい」とか「殺してくれ」とかその場限りの感情で言われたことはありますが、この方のように心の底から「心臓を止めてくれ」と懇願されたのは初めてでした。

「ごめんなさい。それはできないんです。それだけは・・・。楽になれるように、お薬を増やしますから、ね・・・」

私はそう言って、麻薬製剤の量を増やしました。そして、輸液を命をつなぐ最低限の量に絞りました。

翌日からその患者さんは二度と話をしなくなりました。

一週間ほどしてその方は静かに息を引き取りました。臨終に立ち会ったのは、私、ただひとりでした。

医師としての経験年数を積んだ私でしたが、研修医の時と同じで、また何もできませんでした。

私は大きな刺をまたひとつ自分の皮下脂肪の中に埋没させました。私の皮下にはそんな刺がいっぱい埋め込まれていて、何かの拍子に表面に出てきてチクチクと疼きます。

そんな刺を一気に吐き出すように書いたのが、小説天国へのビザです。苦しめてしまった患者さんへの懺悔の想いを込めて・・・

にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ  

天国へのビザ 

 

固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)

トラックバック

この記事のトラックバック URL

http://blog.m3.com/Visa/20070324/1/trackback

コメント

コメント一覧

家内の弟の嫁さん(と言っても家内と同じ年でしたが)は50代になったばかりの時、肺がんで亡くなりました、亡くなる半年くらい前に肺がんだとの連絡が有りました、家族は鹿嶋に住んでいて離れた大病院に(新聞でも問題となった余り評判の良くない病院)見舞いに行ったら頭に転移していると言われた、検査だけで退院させられ抗がん剤の治療に通うだけ、亡くなった時は髪の毛は抜け・顔はむくみ・誰だか分からなかったと言っていた。(僕は中国に行っていたので行かれなかったが)
癌で助かる見込みが無いなら治療も程々にして欲しいですよね。
written by たぬくまぞうさん / 2007.03.22 20:30
たぬくまぞうさん、いつもコメントありがとうございます。
本当にお気の毒でしたね。癌の末期の患者さんに対して医療者ができることは何だろうと考えます。これまで医学は患者の生命予後を延長させることを目的としてきました。今でも、癌医療に係わる医療者の意識は「治すこと」に向いていて、一般病棟での緩和ケア提供体制は遅れています。いつまでたっても非力を感じます。
written by 春野ことり / 2007.03.23 08:42
市中病院の勤務医です。先生のお書きになった「天国へのビザ」、皮膚科のI先生に勧められて読みました。読み始めたら一気に読んでしまいました。
わたしも似たような経験をしました。病院内では結局点数がたくさん稼げる人が偉い、ってことになっちゃうんですよね。尊厳とか考える前に挿管して呼吸器つないじゃう医師の方が立場よくなっちゃうんですよね。
だけど、先生のようにこうして活字にして多くの人に訴えることができるなんて正直、うらやましいと感じました。わたしなどこうやって愚痴をこぼすだけです。これからも機会あったら書いて下さい。
ただ、見てくれてる人はいるんだな、と思ったのは以前いた県で保険の査定している先生に「先生が良心的な医療しているのはレセプト見ればわかるよ。」と言っていただいたことです。その言葉を励みにこれからも売り上げ伸びなくても、自分自身に納得のいく医療をほそぼそと続けたいと存じます。
同じスタンス(と勝手に思い込んでいます)のドクターを知ることができ、大変うれしく思いました。ありがとうございます。
written by shibainu / 2007.04.03 23:48
shibainu先生、はじめまして。
どうもありがとうございます。皮膚科のI先生と同じ病院の方ですね。わざわざブログにもお越しいただきまして、恐縮です。売り上げで評価される病院は良心的な医師にとっては辛いですね。私の病院は幸い売り上げにはうるさくないので助かります。
>自分自身に納得のいく医療
同感です。私もこれを続けていきたいと思います。
こちらこそ大変嬉しいです。心よりお礼申し上げます。
written by 春野ことり / 2007.04.04 04:44

コメントを書く

ニックネーム*
メールアドレス*
URL
内容*
※「利用規約」をお読みのうえ、適切な投稿をお願いします。