春野ことり
More プロフィール

Search

Calendar

<< 2007/03 >>
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

トップページ

Doctors Blog

ブログの購読

新着コメント

新着トラックバック

2007.03.24 23:30 |  診療  |  開業 / 病院経営  |  仕事 / 職場  |  春野ことり  | 推薦数 : 3

懺悔

今回は子供をバイリイガルにする方法の続きを書くつもりだったのですが、Atsullows-caffe先生が終末期の演出家という記事を書かれているのを読んで、自分も独白したくなったので、テーマ変更としました。

初めて受け持ち患者さんの死と直面したときの想い出。

その患者さんは70代の肺癌のKさんでした。

Kさんの外来主治医は、医局の中でもかなり上の立場の方で、患者さんからの信頼の厚い医師でした。入院中の主治医は私でしたが、Kさんの病状説明は全て外来主治医のI先生がされ、私も、私の指導医も出る幕は全くありませんでした。

Kさんが肺癌の末期症状である呼吸困難に襲われたとき、I先生はKさんの奥さんに

「眠らせて人工呼吸器をつける事が本人が一番楽になれる方法だ」

というような説明をされ、Kさんの奥さんは人工呼吸器をつけることを希望されました。

Kさんは薬剤で眠らされ、人工呼吸器を付けられました。

先輩医師たちは、「癌の末期の患者に人工呼吸器をつけるなんて・・・」と陰でI先生を非難していましたが、誰も面と向かってI先生にそんなことを言える人はいませんでした。もちろん医師免許を取ってまだ3ヶ月くらいだった私にも何も言えるはずがありませんでした。

人工呼吸器をつけられたKさんの部屋を訪れるとき、私には針のむしろのように感じられました。いつも付き添って座っている奥さんに何と声をかけてよいかもわからず、眠らされて物を言わないKさんの胸にただ聴診器を当て、動脈血を採取して、人工呼吸器の設定を調節する毎日でした。

 そんなある日、奥さんが私に言いました。

「主人、先生が水を飲ませてくれたって言って、本当に感謝していました。ありがとうございました」 と。

そういえば、まだ人工呼吸器を付ける前、Kさんに付き添ってレントゲン室へ行った時、Kさんが突然呼吸困難に陥り、「水、水が欲しい」と言い、私はとっさに水道水の水をコップに入れてKさんに飲ませました。

私には何故そんなことが感謝されるのか、全くわかりませんでした。水が欲しいと言われて、ただその通りに水を与えただけなのに。

当時、私はまだ医師としての経験がたった3ヶ月の、医師になりきっていない人間でした。もう少し医師として経験を積んでいたら、「呼吸困難の時に水なんか飲んではいけません」と言って、水を飲ませていなかったかも知れません。

医師として未熟だったがために何も考えずに患者さんに言われたとおりにした。そのことが、患者さんから感謝された・・・。皮肉に感じました。

そして、こんな状態なのに、感謝の気持ちを未熟な主治医に伝えてくださったKさんと奥さんに、敬礼したいような気持ちでした。

しばらくしてKさんはお亡くなりになりました。

私は最後まで、奥さんに何と声をかければよいのかわからないままでした。私はまるででくの坊でした。何の演出もできませんでした。本当に情けない想い出です。

ただ、ただ、ご冥福をお祈りいたします。

 

これはまだ、最近の話です。

肺癌末期の70代女性。身寄りがなく、見舞う人は誰もいませんでした。病室の片隅で、愚痴をこぼすこともなく、我慢強く、孤独に病気と闘っていました。

それまで弱音も吐いたことのなかった彼女があるとき私に懇願しました。

「先生、注射で一思いに、一思いに、心臓を止めてください。お願いします」

今まで、自暴自棄になった患者さんから「死んだほうがいい」とか「殺してくれ」とかその場限りの感情で言われたことはありますが、この方のように心の底から「心臓を止めてくれ」と懇願されたのは初めてでした。

「ごめんなさい。それはできないんです。それだけは・・・。楽になれるように、お薬を増やしますから、ね・・・」

私はそう言って、麻薬製剤の量を増やしました。そして、輸液を命をつなぐ最低限の量に絞りました。

翌日からその患者さんは二度と話をしなくなりました。

一週間ほどしてその方は静かに息を引き取りました。臨終に立ち会ったのは、私、ただひとりでした。

医師としての経験年数を積んだ私でしたが、研修医の時と同じで、また何もできませんでした。

私は大きな刺をまたひとつ自分の皮下脂肪の中に埋没させました。私の皮下にはそんな刺がいっぱい埋め込まれていて、何かの拍子に表面に出てきてチクチクと疼きます。

そんな刺を一気に吐き出すように書いたのが、小説天国へのビザです。苦しめてしまった患者さんへの懺悔の想いを込めて・・・

にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ  

天国へのビザ 

 

固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)