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昼に麻子が医局に戻ると、医局の廊下にはいつもの如く製薬会社のMR(医療情報担当者)達が、ずらりと列を成していた。医局に入ると、西浦と、彼が好んで使っている脳梗塞治療薬の製薬会社のМRが、何やらこそこそ話をしていた。
「でさ・・、今度・・・にあるクラブ・・・ワインがたくさん置いてあって、・・・あそこの女の子が・・・、いいらしいからさ、ヒヒヒ」
西浦は医局に入ってきた麻子に気づくと、話をすぐに切り上げた。
「じゃ、そういうことで。」
個人的に接待を受ける相談のようだった。現在、国公立の病院では、製薬会社から医師への接待は禁じられているのだが、この病院のような民間病院や、私立の大学病院では自由だ。営業マンがお得意様に接待をして、営業成績を上げようとする。それは当然の事のようでもある。しかし、製薬会社からの見返りのために、何の関係もない患者が不必要な治療をされているとしたら・・・!
西浦はその皮下脂肪の多くついた顔に、なにやら薄ら笑いを浮かべて麻子の方を一瞥すると、医局から出て行った。西浦が出て行くと、遠慮がちに、とある製薬会社の新人MRが、麻子に声を掛けてきた。
「先生、お疲れのところ申し訳ありません。ひとつだけ、よろしいでしょうか。」
もたついた口調で言いながら、MRは新薬のパンフレットをおずおずと鞄から取り出す。このMRが先日、西浦にこっぴどく叱られていたのを、麻子は目の当たりにしている。新薬の宣伝を西浦にするのが他の医師よりも遅れたと言う、取るに足らない理由で、だ。それは、そのMRが医局を訪問したときに、たまたま西浦が不在だったからというだけなのだが、西浦は上司まで病院に呼びつけ、どなりちらしていたらしい。
西浦は気に入らないことがあると、すぐに担当MRの上司を呼びつける。それも、わざと自分の忙しい時間に約束をして、何時間でも待たせるのだ。MR達も西浦にうまく取り入って気に入られれば、適応の有無にかかわらず、じゃんじゃん薬を使ってもらえる。機嫌を損ねたら最後、その製薬会社の薬は西浦の処方から完全に排除される。処方される患者にしてみたら、そんなことで薬を決められるのは、たまったものではない。
本来、MRの仕事は医者に媚を売ることではなく、薬剤に関する情報を正しく迅速に医師らに提供することである。しかし、西浦のように、MRに対し自分が王様であるかのような態度を取る、勘違いした医者は時々いる。
麻子は、志摩子からさっき聞いた西浦の台詞を思い起こしていた。
「延命措置をするかどうかは医者が決めることだ。」
それは麻子の研修医時代、麻子の指導医が言った言葉とそっくり同じだった。そして、それは麻子に、ある患者の記憶をよみがえらせた。

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