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2006.12.08 23:18 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  春野ことり  | 推薦数 : 7

医者のやりがいとは

心に残る患者さんがいます。

その患者さんとのお付き合いは、研修医の2年目の時から約10年間でした。

腎臓ガンに始まって、脳幹出血、脊髄腫瘍と、次々と恐ろしい病魔に見舞われながらも、毅然として前向きに生きる大変立派な方でした。その傍には、奥さんがいつも朗らかに付き添っていらっしゃいました。私はそのご夫妻を、山脇源次郎と、献身的な妻、秀子として、小説天国へのビザに登場させました。

私は本が完成すると、真っ先に秀子のモデルとなった奥さんに、ご夫妻を勝手にモデルにしたことへのお詫びを書いた手紙とともに送りました。

奥さんはすぐにお電話をくださいました。

「夢のようです。本当にありがとうございます。」と、大変喜んでくださいました。そして、

「実は私、昨年、旅行先で、クモ膜下出血で倒れまして、手術をして一命を取り留めました。こちらの病院に移って、しばらくリハビリ入院しておりましたが、今は何の後遺症もなく、独りで生活できています。」

と言われました。

私は大変ショックを受けました。ご主人が亡くなってから数年が経っていましたが、奥さんはてっきりお元気なものと思い込んでいたからです。

ひとつ間違えば、私の小説も読んでいただけなかったのかと思うと、なんとも感慨深い気持ちになり、本当にお元気になられてよかったと心から思いました。

奥さんは「あの頃のことを思い出しながら、泣きながら何度も何度も読み返しました。本当に主人のことをこんなに大切に思ってくださって、ありがとうございます。」と、何度もお礼を言われました。

私は、それだけでも、大枚をはたいて小説を出版した甲斐があったと思いました。

 源次郎さん(と呼ばせていただきます)は、軽い糖尿病と高尿酸血症で私の外来にかかっておられました。研修医の私が、覚えたてのエコーで腎臓ガンを見つけたのが始まりでした。当時、源次郎さんには何の自覚症状もありませんでした。

源次郎さんは、私が腎臓ガンを見つけたことに対して、必要以上に感謝をしてくれました。手術を受けた後も「先生が見つけてくださったおかげで、命拾いしました。」と、何度も感謝されました。

私は、源次郎さんだけでなく、今まで数え切れないほど、色々な人のガンを見つけてきました。

自覚症状がなく、早期で見つかった例も少なくありません。

しかし、「先生があんなもの見つけてくれたせいで、ひどい目に遭った。」と言われたこともあります。早期で手術できて命が助かったならよいのではないかと思うのですが、見つかったせいで手術をして痛い目に遭ったと文句を言うのです。考え方も、色々です。 

源次郎さんのように感謝してくれる患者というのは、医者にやりがいを感じさせてくれます。金品を渡すことで医者に感謝の気持ちを表わす方がいますが、金品ではなくて、感謝の気持ちは態度や言葉によく反映されます。そして、それは、医者にとっては、この上ないご褒美です。

 夫は大学病院に勤務しており、安い賃金で私の何倍も働いています。休日もほとんどありません。

大学なんか早く辞めたいとか、もうやってられないとか、よく文句を言っています。それでも辞めないのは、大学でしかできない事があるから、そして、目の前に助けなければならない患者さんたちがいるからです。

夫は手術をして患者から感謝されています。中には感謝をしない患者もいるでしょう。でも、半数以上の患者から感謝されれば、それが頑張ろうという気持ちを起こしてくれるのでしょう。

 最近、勤務医の士気が低下しています。休みがない、給料が安いなど、労働条件の問題もあるでしょう。

しかし、それだけではないのです。

最近は患者からあまり感謝されなくなりました。

感謝されるどころか、結果論で訴えられ、医学知識のない警察に介入され、不可抗力的な事故で医師が逮捕までされる時代です。やる気がなくなって当然でしょう。

日本の医療は世界的に見て、安上がりで質が高いのです。それは勤務医達の自己犠牲によって支えられていたということを、マスコミも司法も警察も理解していません。

国民は、いつでもどこでも、どんな難しい病気でも、最高の治療が受けられて当然と思っています。

しかし、そんな時代は終りです。 

今、勤務医たちは次々と病院を離れていこうとしています。すでに医療崩壊は始まっています。

 

そのツケは国民にまわってくるのです。

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