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陣痛は出産予定日に始まり、その八時間後に産声を聞いた。女の子だった。分娩の痛みは、それまでに麻子が経験したどんな痛みにも例えようが無かった。しかし、他の経産婦と同様、出産の達成感と母になった喜びで、そんな痛みの記憶はたちまちにして消え失せた。
母乳は出産直後から十分に出た。油断するとすぐに乳房の一部がガンガンに硬くなり、熱を持った。産院の助産師がこういうときは山芋の摩り下ろしたもので作った「山芋シップ」が効くのだと言って、乳房に貼ってくれた。それはひんやりと冷たかった。
名前を、未来と書いて「みく」と付けた。どうかこの子に、素晴らしい未来が待っていますように。
未来が生まれてから、麻子の周りの世界は、それまでと全く違うものに見えた。まるで、空気の色が透明なばら色に色づいているようだった。麻子は生命の神秘を、自分の身をもって実感したのだ。このときばかりは、世界は自分と生まれたばかりの我が子のために回っているとさえ思った。麻子の心は、この子を何としても守らなければならないという使命感でいっぱいだった。それは麻子にこの上ない幸せをもたらした。
しかし、ばら色の空気は突然、白黒のモノトーンへと変わった。
生まれて一ヵ月後、未来は呼吸をするのをやめた。
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