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麻子は結婚一年後に、妊娠した。産婦人科のエコーで、胎嚢と呼ばれる一cmくらいの黒い袋の中に、小さな白い点が忙しく拍動するのを見せてもらった。心臓だ。
麻子はそれからというもの、毎日毎日、仕事中に暇を見つけては、こっそりエコー室へ忍び込んだ。自分の下腹部の中に、別の生命体である、小さな心臓が動いているのを確認することが日課となった。黒い袋は日増しに大きくなり、袋の中の白い点も、点から塊となった。塊はやがて頭と胴体が区別できるようになり、その次に手足と見られるものが生えてきた。探触子を通して見る世界は、実に神秘的だった。麻子はうっとりとエコーの画面に魅せられ、時間を忘れてしまうこともしばしばだった。
普通の妊婦なら一ヶ月に一度の妊婦検診で、それもほんの短い間しか見られない胎児の姿を、私は好きなだけ堪能できる。なんと素晴らしい特権だろう。前の病院のような大きな病院では、エコーを勝手に使うことなんてできなかった。やっぱり、ここの病院に変わってよかったのだ。麻子はエコーを見ながら、今更のようにかつて自分の下した決断の正当性を再確認した。
麻子は毎日、胎児の白黒のエコー写真を一枚ずつ撮った。やがて、ゴマのようだった手足も長く伸び、人間らしい形になった。胎嚢の中で、バタバタと手足を動かして泳いでいる様子がぜんまい仕掛けのおもちゃのようで、本当に可愛くてたまらなかった。眠っているのか、動かないときもあった。手足がもっと伸びて、指が確認できるようになると、胎児が頭をかいたり、指をくわえたりする姿も見られた。しかし大きくなるにつれ、だんだん子宮の中が窮屈そうになり、動きが少なくなっていった。動きが少ないと、麻子の楽しさも減った。一枚の写真に胎児の体全体が入らなくなってくると、もう写真も毎日撮らなくなった。
麻子の妊娠生活は幸せそのものだった。悪阻というものもほとんどなく、悩みは食べる量が妊娠前と変わらないのに、体重が必要以上にどんどん増えることくらいだった。毎朝、目覚めるたびに、次第に大きくなる下腹部をなでて、幸せを噛み締めた。
麻子は街で不機嫌そうな顔の妊婦を見かけると、不思議に思った。麻子にとって、妊婦というものはそれだけで幸せの象徴であり、いつも笑みをうかべているのが当然のような気がした。麻子も実際は始終笑みを浮かべて生活していたわけではないのに関わらず。
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