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麻子はいつものように老人病棟の回診をしていた。呼びかけても返事の無い人間たち。生きているとも死んでいるとも言えない肉と骨で出来た『塊』が、一つずつベッドの上に置かれている。その『塊』の上にかけられた布団をめくり、聴診器を当て、心臓と呼吸の音を確認する。布団を元のように
かけて次のベッドへ移る。ふと、ネームプレートに目をやると、そこには「山田麻子 百二歳」と書かれている。
私の名前だ。
その肉体は他のものと同様、肉の削げ落ちた骨に乾燥した皮膚が一枚はりついただけの、単なる呼吸する『塊』だった。かつてものを見ていた瞳孔は白く濁り、もはや何も映し出してはいなかった。腕の関節は曲がったまま固まり、強固に胸に密着していた。首にある黒子の位置の正確な一致が、その物体が自分自身の肉体と同一であることを証明していた。
「まあ、こんな姿になってしまって。」
麻子は変わり果てた自分の姿を目の当たりにしながらも、心の片隅で、山田という姓のままということは、私は夫と添い遂げたのだなあと、妙に冷静な感想を持つ自分をおかしく思った。
「もういいわよ。もう、あちらの世界へ行きましょう。」
麻子はその呼吸する『塊』の首の部分に手をかけると、黒子を中心にやさしく皮膚をなで、緩やかな動作でその細い首を両手で挟み、一気に力を込めた。麻子は呼吸が出来なくなり、もがいた。そこで目が覚めた。また同じ夢だ。目覚めたときには必ず、首筋にじっとりと汗がにじんでいる。
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