以下、週間医学界新聞からです。2005年の記事ですが、十分参考になると思います。
第1回 様変わりするUSMLE
松尾高司(メリーランド大学産婦人科レジデント)
時代とともにUSMLEは大きく様変わりしている。1998年のCSA導入や試験のコンピュータ化に加え,2004年からはStep2CSという臨床実技試験がCSAに取って代わった。CSAが外国人医師のみを対象とした試験であったのに対し,Step2CSは米国人医学生もその対象となる。採点基準は大幅に変更され,米国人を含んだ相対評価になるため,私たち日本人にとってはより困難なハードルとなったように思われるが,実際はどうであろうか? 本連載では4回にわたって,USMLE,特にStep2CSの特徴と対策について解説する。
米国医師事情と様変わりするUSMLE
近年,政策上の理由により米国では外国人医師に対しその門戸を狭める傾向にあるようです。世界貿易センターテロ事件以降は,外国人に対するビザの発行が困難になり,また各国の政治・経済事情を反映して最近の外国人医師の渡米数は著しいものがあります。それらを理由に私たちの父の代と比べると,米国でレジデントになるのはかなり難しくなった,と一般的に言われていますが果たしてそうでしょうか。NRMP(National Residents Matching Program)の発表するレジデント動向に関する統計上の数字をみる限り,そのようなことはないように感じます。「困難になった」とはいうものの,各科による違いはありますが,多い科では毎年20%が外国人医師で占められています。内科,小児科,そして家庭医学は,われわれには広き門のようですし,近年の医師保険料の上昇や訴訟の増加を反映して,以前は外科同様に狭き門であった産婦人科も,敷居が低くなりつつあるようです。確かに米国医学生に人気を博す外科,放射線科,救命救急,麻酔科,そして近年その傾向の病理学等は,外国人医師にとっては狭き門のようですが,必ずしも米国行きは困難になったとは言い切れないと思います。
私は1年以上にわたる準備の末,ようやく米国医師免許証(ECFMG-certificate)を取得しました。私の父が同じように取得してからはおおよそ30年以上も経ちます。父の話によりますと,当時は米国の医師不足を背景に,数多くの先生が米国医師免許証を手に海を渡ったと聞いています。それから四半世紀以上も時が経ち,その当時筆記のみであったUSMLEの内容も大きく様変わりしました。第一に,筆記試験はコンピュータ試験に取って代わられました。コンピュータ試験の大きな特徴は,受験者の理解レベルに合わせてコンピュータが問題の難度を上げ下げするというものです。出題される問題が回を重ねるごとに難しくなっていくと,思わずそれが自分の理解不足によるものではないか,といったマイナスの印象を持ってしまいますが,実際は自分のパフォーマンスがよいために,コンピュータがより難しい問題を用意している,といったプラス思考も十分考えられることです。
また,Step1では最新の分子生物学の知識,医療訴訟を背景に行動医学での患者医師関係,免疫に関する基礎的知識は最近の新傾向と思いますし,Step2CKでは米国の疾患背景を反映する肥満,高血圧,糖尿病,エイズ等に関する問題が,ありとあらゆる角度から数多く出題されているようです。例えばHIV(Human Immunodeficiency Virus)に関してはその粒子構造から生活史に至るまでを,極細レベルつまりは核酸構造や転写因子レベルでその調節を理解し,それをまた他人へ諳んじるほどに精通する必要があります。治療薬剤,合併症に関しても同様です。このようにいわゆる「ヤマ」といわれる出題分野に関しては,米国風に表現すると「Ph.D.をとるがごとく」に最新の知識を含めて細心に勉強しておく必要があります。逆に「ヤマ」でない分野に関しては広く浅い知識で十分に対応できるのも対策の1つです。
一方,最近のUSMLEの最も大きな変化といえば,臨床実技試験Step2CSの登場ではないでしょうか。1998年から外国人医師を対象に導入されたCSA(Clinical Skills Assessment)は2004年6月からはStep2CSとして様変わりし,合格基準などCSAといくつか異なる点があるようです。周知のように私たち日本人にとって,米国医師免許証を取得するうえで,この臨床実技試験であるStep2CSが最も頭を悩ます点ではないでしょうか。私は導入後早々にこの試験を受験し,無事合格することができましたので,速やかにフィードバックを行い,皆様の準備の役に立つことができればと思います。新試験Step2CSの特徴と対策を私なり紹介するのがこのシリーズでの主な目的です。
EBMの普及もあってでしょうか,近年は明治維新時よろしく「米国臨床留学」の気運が高まっているように肌で感じます。たくさんの先生が渡米され,立派な経験を積み,ご活躍されています。「米国臨床留学」と題し,数多くの書物やインターネット情報が巷に紹介されています。どれも内容的に素晴らしく,私も幾度となく啓発されました。それらはUSMLE,ERAS(Electric Residency Application Service),NRMP,ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)等の概要,マッチングまでの時間軸などに関し詳細に説明しておりますので,基本確認事項に関してはこれら書物に譲ることとし,本稿では,即物的になるかもしれませんが,網膜上によりリアルなイメージが浮かび上がるよう,できる限り具体的な内容とし,Step2CS対策のtipsをふんだんに盛り込むことができればと思います。
点数はなぜ大事か?
米国には毎年ほぼ世界中の国々からレジデントを希望して志願者がやってきます。2003年度ではUSMLEの最初の一歩であるStep1の外国人受験者総数が3万人を超えました。彼らの受けた医学教育には実に種々雑多で,臨床実習を受けたことのない者もいれば,英語でのトレーニングを受けたことのない者まで実にさまざまです。そのような多様な志願者の医学教育のレベルを客観的に測るのがこのUSMLEという試験です。日本には「試験の点数で人を評価するなんて」とおっしゃる先生もいましたが,特にコネクションを使わずにレジデントを希望する場合は,前記のような理由によりUSMLEの素点はきわめて重要であると言えます。
「外国人医師のUSMLE合格率や点数は低い」とはよく言われたことで,私も無言のプレッシャーを受けましたが,それも最近の私たちには当てはまらないように思います。東京海上の西元慶治先生によりますと,2005年度にN Progrmを通じて米国留学をした合格者の平均点はStep1で92percentile,Step2CKでも88percentileということです。日々の研修業務に追われつつも,これだけの点数をとることができるということを示しています。90percentile以上の高得点を取ることは決して困難なことではないのです。私は幸いにもStep1,Step2CKともに上位1-2percentの成績を取ることができ,新規試験のStep2CSも無事一度で合格することができました。コネクションを使わず一般応募し,ハーバード大学,ワシントン大学,ニューヨーク医科大等を含む20以上ものプログラムから面接のオファーがあり,面接後はいくつものプログラムから「内定」の誘いを受けるに至りました。しかし,実際にはそれに至るまでには数々の困難があり,膨大な時間とエネルギーを浪費してしまいました。また,希望してもコネクションがないため,他の米国医学生に混じって一般応募をする必要があり,そのためにはよりよい点数が求められる,いわゆる「とらなければ」という必要に迫られたうえの点数でもありました。ただこのように,外国人医師であってもきちんとした点数をとることができれば,より多くのプログラムからオファーを受けることができ,ひいては自分の選択肢,可能性を広げることができるということを証明するよい機会でもあり,今後に続く先生の励みになればとも思います。
ただし,試験の点数でその医師としての臨床能力が評価されるとは,プログラムディレクターも決して思ってはいないようで,レジデント選考では「面接」が最も重要な割合を占めています。試験の点数は足きりをパスするだけに過ぎない,としか見なされないプログラムもあるようですが,よい点数は面接に際しその応募者に「後光」を差すのは間違いありません。名刺代わりの「顔」になるのです。時に下手な英語によるマイナス部分を十二分に補います。自分の話す内容に客観的な花を添えます。しかし,われわれ外国人医師は面接時に他者とは違う「+α」の何かを強烈にアピールすることがまたきわめて重要であり,よい点数であっても決して油断をしてはならないことを申し添えます。
卒後研修の1つの選択肢として
日本でもいよいよマッチングで卒後研修先の決定をする時代になった,と聞きます。米国の研修プログラムも本当にピンからキリまでさまざまで,一概に米国研修が日本のそれと比べてよいとは言えないと思います。よいか悪いかは別として米国研修を希望した際に,それが今までに諸先生がなさった試験準備の苦労と同じ轍をなるべく踏まぬよう,進んでいけたらと思います。皆様が卒後研修の1つの選択肢として国内のプログラムと肩を並べて同格に国外のプログラムを列挙するようになれば,とも思います。皆様がUSMLE Step2CSの最近の傾向を知ることで,的を絞った準備をすることができれば幸いです。
第2回 Step2CSの特徴と採点基準
松尾高司(メリーランド大学産婦人科レジデント)
(2638号よりつづく)
新規導入されたStep2CS
-何が変わったか?
1998年より施行のCSA(Clinical Skills Assessment)は,2004年6月をもってStep2CSと名実ともに様変わりすることになりました(CSとはClinical Skillの略です)。CSAが外国人医師だけを対象としたものであったのに対し,Step2CSでは米国人医学生もその対象にした試験になります。以前のCSAの特徴としては以下の項目があげられます。
1)外国人医師のみが受験対象。
2)受験資格としてStep1およびTOEFLの合格が必要。
3)合格後の有効期限は2年間のみ。
4)試験会場は全米で2か所のみ。
5)採点基準において「英語力評価」は独立項目ではない。
5)項に関してですが,たとえ模擬患者との会話で大きなミスを犯したとしても,他の項目である「コミュニケーションの評価」や「データ収集の評価」で点数を補うことができました。ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)によりますと合格率は2002年で82%,2003年で84%とあり,約9000から1万1000人の合格者を毎年出していたようです。2003年度の外国人医師のStep1およびStep2CKの初回合格率がそれぞれ65%および75%であることを考えるとかなり高い合格率です。日本の受験者の方々も口を揃えて「受ければ合格する」とコメントされていたようです。
それではStep2CSはCSAと比べてどのように変わったのでしょうか?以下にその特徴をあげます。
1)外国人医師および米国医学生が受験対象。
2)受験資格としてStep1の合格のみ必要。
3)一旦合格すれば永久に保証される。
4)試験会場は全米で5か所に増加。
5)採点基準において「英語力評価」は独立項目となった。
2)項に関してですが,米国医師免許証を取得するにあたり,TOEFLの合格は今後必要とされなくなりました。4)項に関してですが,CSAがフィラデルフィアとアトランタの2か所の試験会場であったのに対し,さらにヒューストン,シカゴ,そしてロサンゼルスの3か所が追加になりました。私は「カリフォルニア州は日本人を含めアジア人がかなり多い。したがって,外国人のその多様な英語のアクセントをよく知っているはず。また,土地柄もリベラルな州」という発想から試験会場をロサンゼルスにしましたが,模擬患者たちは季節ごとにランダムに各試験会場を転々としているとも聞きます。試験会場による模擬患者の社会的偏りはないと考えてよいと思います。
また,懸念される5)項に関してですが,Step2CSはその採点にあたり,(1)Integrated Clinical Encounter:データ収集能力(問診,理学所見,およびカルテ記入),(2)Communication and Interpersonal Skills:コミュニケーション能力,(3)Spoken English Proficiency:英語能力,の3項目がそれぞれ独立して採点されることになり,合格するためにはこの3項すべてが基準点以上を満たすことが必要になります。1つでも基準を満たさない項目がある場合,たとえ他の2項目が基準を大きく上回ったとしても,結果は不合格となってしまいます。CSAで可能であった「他の項目による挽回」がStep2CSでは不可能になったというわけです。
このような特徴を踏まえ「Step2CSはCSAよりも合格するのが難しくなるのではないか」との前評判が多かったようです。かくして2004年6月から新規施行され,合格基準点を定めるための母集団の確保ということで,各試験会場とも同年12月から2005年1月まで結果発表を待つことになりました。結果が発表され始めた現在,私の印象としては予想通り米国医学生のほうが外国人医師より合格率は高いように感じますが,まだはっきりとした統計データが発表されていませんので,勇み足的評価はできません。しかし断っておきたいのは,米国人医学生や英語にまったく不安のない外国人医師であっても意外に不合格であったり,逆に英語にアクセント(訛り)や不安のある外国人でも,きちんと合格するということです。その違いはなんでしょうか? いったいどのようなツボがこの試験にあるのでしょうか?
受験者はどのように採点されているのか?
試験があくまで試験であるように,このStep2CSも限りなくゲーム的要素を盛り込んだ試験のようです。英語に熟練していても不合格になってしまうのは,ツボの踏み忘れやピットフォールに落ちてしまうことが原因ですし,逆に英語力に不安があったとしても,的確に要点をついていけば合格をものにすることができると思います。受験者の採点はあくまでも客観的です。「はい」「いいえ」で行われ,模擬患者の主観の入った評価ではありません。ですから,どのように採点が行われるかに精通することは,合格への早道であるといえます。以下に上記3項目についての採点方法並びに要点をまとめます。
(1)Integrated Clinical Encounter
ここでは模擬患者への問診内容や理学所見を患者側が評価・採点したものおよびPatient Noteとよばれるカルテを医師側が採点したものが加味されています。模擬患者に対しどの質問を行い,どの検査を行ったかを模擬患者自身およびマジックスクリーンの外側に入る採点者がチェックリストに○か×の要領で客観的に採点していくようです。カルテ記載内容の点数割合は全体の10%にしかなりません。つまり,医師側による医学知識に関する評価はこのStep2CSという試験においてはたったの1割にしかならないということです。残りの90%の評価はすべて非医療者である模擬患者側によってなされるのです。このことはこの試験がいかに単なる医学的知識を問う試験ではなく,患者とのコミュニケーションや医師としてのマナーを重要視する試験であるかということをよく物語っています。
(2)Communication and Interpersonal Skills
いわゆる患者とのコミュニケーションや医師としての患者への態度が評価されます。具体的には下記のようなチェック項目を○×で採点していくというごく客観的なもので,「模擬患者自身の印象」といった主観的な評価ではありません。評価項目としては以下のものがあげられます。
(1)入室時にドアをノックしたか
(2)きちんとした清潔な服装ならびに容姿をしているか
(3)対面にあたりきちんと自己紹介をしたか
(4)適度なアイコンタクトを保っているか
(5)患者に対し注意を払っているか,集中しているか
(6)患者への敬意を払っているか,偏見を持っていないか
(7)適切に患者へ被布をしたか
(8)スムーズな説明で次の行動に移ったか
(9)患者への共感はあったか。安心感も持たせることができたか
(10)患者の言動を遮ったか
(11)Open-endの質問で開始したか
(12)患者に対し一度に2つ以上の質問をしたか
(13)明確な英語で説明したか
(14)理学検査に先立ちきちんと手洗いをしたか
(15)誠実に患者の意見に聞き入ったか
(16)効果的に言い換えをすることで患者へわかりやすい説明をしたか
(17)理学所見を取る際,きちんと目的を説明したか,先立って説明したか
(18)的確なサマリーを行ったか(検査計画の説明をしたか)
(19)患者を不安がらせるような説明をしたか
(20)患者の質問に対し的確に答えたか
この場合20項目中の点数で評価がなされ,16項目満たした場合で80点といった具合です。上記はあくまで例えですので実際のものではありませんが,これと類似の評価がなされています。このように,「入室時ノックをする」「被布をする」「手を洗う」等といったゲームのルールに熟達していなければ,どれほど英語に熟達していても,このゲームの勝者となることはできないのです。上記のツボは確実に押さえましょう。
(3)Spoken English Proficiency
評価される項目を以下にあげます。
(1)明快な英語を話しているか
(2)一般人にもわかりやすい英語を話しているか
前者では文法や発音の正しさを評価しますが,それがすべてではありません。はっきりと患者に説明する能力が問われます。拙い文法や語彙力であっても,きちんと患者と意思疎通ができる程度のごくスタンダードな英語力で十分とされています。「すべての会話を3語ないし4語で行いなさい。ゆっくりと大きな声で話しなさい。それで十分です」という講師もいるようです。受験者の英語のアクセントはよほどのことがない限り問題となることはありません。試験中に「患者に対しどれほど自分の英語が通じているか」を客観的に知る方法として,患者が「excuse me?」と聞き直した回数で評価するのが的確のようです。また「わかりやすい英語で話したか」ということも重要です。ここで「わかりやすい」とは医学的専門用語を使うのではなく,一般人でもわかる平易な英語で説明しなさい,ということです(Lay language)。
今回はStep2CSの特徴と採点基準といったルールに関する説明をしました。ゲームのルールに精通することは勝利への最短コースです。しっかり頭に入れることをお勧めします。
第3回、第4回の記事は週間医学界新聞のサイトで探してください。
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