今般、巷を騒がせている「がんワクチン」の臨床研究を巡る過熱した報道、そしてだんまりを決め込むすっぱ抜いた新聞社。

 

 もちろん、今回の事例をめぐっては非常にわかりにくいです。まず今回のがんワクチン」はまだ未承認のものです。

 

 同時にこの未承認のワクチンには実際の「がん患者さん」を組み入れて、新薬の申請を行うのに必要な「治験」が行われています。これは国際的にも標準的なGCP(Good Clinical Practice)にのとって行われています。

 日本では「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」とされて法律に定められています。

 

 一方、今回問題とされたのは、臨床現場での「臨床研究」です。この部分にはGCPには近いものの異なる厚生労働省の出している「臨床研究に関する倫理指針」という別に設けられた指針があります。

 

 その目的については神戸の臨床研究情報センター(TRI)にある臨床研究に関する倫理指針では設けられた理由について

 

 「近年の科学技術の進展に伴い、臨床研究の重要性は一段と増しています。最善であると認められた予防方法、診断方法及び治療方法であっても、その有効性、効率性、利便性及び質に関する臨床研究を通じて、絶えず再検証されなければなりません。

 また、臨床研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければなりません。

 こうした点を踏まえ、被験者の人間の尊厳及び人権を守るとともに、研究者等がより円滑に臨床研究を行うことができるよう、ここに倫理指針を定めました。 」

 

 とあるように、臨床研究に参加する患者さんのためのものであります。

  

 しかし、残念なことに今回の朝日新聞の報道によると、臨床研究と治験で同じワクチンを使ってたように書かれています。

 

 問題はこの辺を複雑にしているのは「有害事象」です。未承認にしろ承認薬にせよ、どんな薬であっても副作用はつきものです。

 

 この薬の副作用については、因果関係があるなしに関係なく、「重篤」と判断した場合、厚生労働省に報告して、さらに同じ治験に参加している患者さんを治療している施設に報告することを、治験薬を開発している製薬企業は報告義務を負っています。そして、治験にしろ、臨床研究にしろ、安全管理委員会とか、安全審査委員会をお願いして、発生した有害事象はすべて報告、、するのが普通。それが、薬剤と関係するかどうかの最終的な判断は、実際の治験や臨床研究を行っている医師らが判断するものではない、これは世界中で同じようにしており厳守していかなければならないのがGCPで定められている国際的なルールです。


 しかし、臨床研究では報告する場合、これらを報告するにしても「病院」が他のワクチン(これがワクチンの種類が異なっていたという話なのでまたややこしい)について有害事象を「因果関係ない」と研究にあたったグループで判断して、報告しなかったのは事実のようです。

 

 臨床研究の倫理指針では、今回のケースは他の患者さんとは違うワクチンであり、しかも単独の施設の臨床研究であれば、他の施設への報告の義務はないとされています。しかし、GCPであれば厚生労働省などに報告義務は免れないのです。

 

 万が一、製薬企業が行っている臨床開発であれば、明らかにGCPの逸脱です。

 

 臨床研究でも、「重篤」と判断しておきながら、有害事象は報告しなかったとなると、簡単に言えば、治験担当医の判断で「患者さんの生命」の情報が届かないために、生命脅かされるような場合、同じ薬を投与を受けている患者さんにとっては、まう。

 

 今回の臨床研究については報告以上に不可解なのは、

 

 なぜ、未承認の「がんワクチン」の使った研究を治験でなく、臨床研究にしたのか?

  そして結局は「研究は誰のためのものなのか?」

 

 です。

 

 臨床試験と治験の違いを理解しないで,医療従事者、患者、政治家、患者会、マスコミが臨床研究を推進するのは危険。また議論の無駄。

 

 という指摘が海外でがん研究をされているMDアンダーソンがんセンターの上野先生(@teamoncology)がおっしゃっていますが、その通りです。

 

 臨床試験は基本的には「研究者」の行いたい研究がベースです。もちろん画期的な研究がいくつも日本発であります。ですが、薬の申請や承認には必ず通らなければならないの関門は規制当局による承認です。これを抜きにしては絶対に患者さんの手には届きません。

 そして海外であっても、日本でも同じく、GCPの規範を守らない限り認めないのが世界共通です。

 

 日本の医師、研究者には誤解があるようですが、「臨床研究」はあくまで「研究」なのです。したがって、承認のためのデータにはなりにくいのです。

 

 どうしてかというと、治験については、FDAやヨーロッパの規制当局のEMAは査察を行って、きちんとデータの質や臨床治験の規則を守っているか監視しています。

 日本の製薬企業でもそのために相当な体制を作って、備えています。

 

 実際にアメリカの大学でも先日、その手続きをおろそかにしたために、臨床治験の組み入れが止まった実例があることを上野先生に教えて頂きました。

 

↓ベスイスラエル病院すべてのがん治験を一時的に止める。病気の進行に関しての報告が遅れた為。

Cancer trials suspended for new patients
Beth Israel Deaconess cites research data lapse

By Liz Kowalczyk
October 21, 2010
 Beth Israel Deaconess Medical Center temporarily closed all its cancer trials to new patients last week, after audits found that several researchers had not properly submitted patient data to the committee that oversees oncology research and to trial sponsors.(以下略)

 ハーバード大学の病院でさえ、こうなのです。こういうのを見ると海外ではGCPの違反によって研究が止まったりするのは当然です。
 それだのに
 
「消化管出血は膵臓がん患者にはよくあることだから伝えなくていい
 
 という判断はやはりちょっと違和感を感じてしまいます。
 
 まぁ、あとは個人的にはワクチンの開発会社の大株主の先生の名前を大げさに報道しすぎた新聞社のセンスもどーかなーです。
 
 今回の話題は「かなり」突飛な印象を持って世間の人が思って見えると思います。だって、天下の大新聞と東京大学のメンツ合戦。どうみても一般庶民どころか普通の方にとっては雲の上の議論。

 逆にいうと、治験も臨床研究も一緒くたにした論調がありますが、日本の新薬の臨床開発のレベルは世界水準です。
 しかし、臨床研究は世界に遅れてしまっています。それは「情報開示」とか「利益相反」のところでまだ十分ではないためです。
 今後、日本発の様々な新薬が、世界で通用するもののための関門なのかもしれません。この団体による署名活動は確かにメディアに反省を求めるものかもしれませんが、過剰すぎる反応は逆に研究者の先生方にとって「諸刃の刀」となり得ることがあります。
 
 ちなみに日本国内で行われている「癌関係の臨床試験」の一覧を見ると西日本が圧倒的に多いのは、結局、医師の偏在とか研究の層厚みと関係があるそうですね。

 上野先生のよれば、「日本のがん医師主導治験は8件!」しかないそうで、ほとんどの場合は、企業主導だったりします。治験とは別個にそういった基盤がある大学病院などは本当に少ないです。

 

 そして、医師指導型治験は本当に大変です。すなわち医療機関が製薬企業なみのスタッフを育成して申請にたえうるだけのクオリティを保った臨床試験を行う必要があります。

 それが出来ない病院は大学病院であろうと、もはや未承認薬を使った臨床研究は行うのは相応しくないと言われても仕方ないかもしれません。

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