最近、民主党が唯一支持率を保っている原因の一つ業務仕分け・・・で、やはり薬価のことも問題になっているかもしれませんが、先週面白い会合があったので、ちょっと足を運んできました。
知り合いの先生が紹介してくれたのですが、元々は一橋大学の薬関係の会合でしたが、最近オープンになったという「第四回薬務研究会」、この会で「日本のブロックバスター開発者の成功と苦渋の道」という興味深いタイトルで行われると知って参加して参りました。
総売り上げ4兆円。日本発の5種類のブロックバスター(Blockbuster drug) :従来の治療体系を覆す薬効を持ち、圧倒的な売上高をたたき出し、その売上に比例する莫大な利益を生み出す新薬をあらわす。
それらの薬の開発に携わった方に一度にお会いできるたぶん最後のチャンスかと思い参加しました。
最初に伊藤正春氏(現在、リーベンス社)から20分にわたり製薬産業の付加価値の高いこと(R&D費がここ10年ほどで8%から16%と高騰しているが、原価率は低く日本のように原材料を輸入する国としては知財のかたまりである医薬品産業は、最適な産業である)、そして5人のスピーカーの略歴について説明がありました。

ちなみにそのブロックバスターとは・・・
プログラフ(タクロリムス):木野亨氏
アリセプト(ドネペジル):杉本八郎氏
スタチン:遠藤章氏
ガスター(ファモチジン):梶浦泰一氏
パリエット(ラベプラゾール):伊藤正春氏
これらの5種類の薬は日本で開発され、世界でも広く使われています。現在日本の製薬市場は8兆円、世界では71兆円。過去15年で世界の医薬品市場の成長に日本はおいつけず、22%を占めていたものが現在は9%へと低下。 新薬の開発コストは急上昇している。
紹介されていませんでしたが、世界での開発品目数の推移でも日本の凋落傾向は気になることです。

ただ、大手製薬企業の開発経費は上昇を続けており、しかも候補物質の発見から市販にたどりつける確率は年々下がり続けており、これは日本だけでなく、海外の大手製薬企業でも同様である。
大手製薬企業の創薬の力が落ちる一方、アメリカなどでは、バイオベンチャーのほうがはるかに上回る。
日本はバイオベンチャーの資金力の脆弱さ、そして臨床治験の空洞化や薬価が世界的にみても低い水準であり、欧米との格差がひろがりつつある。
このような現状をふりかえりながら、日本のバイオベンチャーはいい候補物質を持っていても国内企業からは契約前にPOC(Proof of Concept)の確立が求められ、それに必要な10~15億もの資金を調達できずに、ショートアウトしたりして困難な現状であり、シーズの流出などが続いていることを教えてもらいました。
■プログラフby木野氏
26年前の藤沢薬品工業の入社、手がけられたプログラフの売り上げは年間2000億円。シクロスポリンの存在を手がかりに、当時は抗生剤が開発の中心であったが、10ヶ月間に1万株のスクリーニングを行うなど大変な努力をされた。開発の途中で毒性などで問題が発生すると大学の先生の意見を参考にして社内でプロジェクトを推進する力に使ってこられた。
■アリセプトby杉本氏
アリセプトは開発された杉本先生のご母堂様が認知症になられたことがきっかけでもあった。エーザイのつくばの研究所での逸話もまじえながら、最後に紹介された松下幸之助氏の言葉「人間は行きづまるということは絶対にない。行き詰るのは自分が”行きづまった”と思うだけのことである」が心に残りました。
■ガスターby梶浦氏
1980年代に上市したが、まだ世界でも日本でも売れている。1980年にPhase Iに入り、3年で申請にこぎつけたスピードには驚きました。
■パリエットby伊藤氏
1990年当時は消化器領域が強かったエーザイ。セルベックスが大黒柱で年商500億円。しかし医療現場からは自覚症状がすぐに改善する薬のニーズが高かった。同系統の薬では武田薬品が先攻していたため、5年も続けてきた研究を一旦中止することになった。
しかし研究者たちが「闇研」といわれる夜10時過ぎからこっそり半年間に続け出たデータの中から市場に出すことができた。
規制概念の打破
最適化研究:コンセプトの確立
連携:臨床と薬理の間が大切。
最期に提言として、成功をとげるためには創薬指揮者の育成が必要。若い候補者に対して、先駆者のリーダーが一緒にOJTで挑戦してこなしていく体制が必要。
インフラは最小限でいいが、適応拡大や剤型追加などのプロジェクトを行い、若いときの成功体験は必要。
最後にラスカー賞を受賞された遠藤先生からのお話でした。
■スタチンby遠藤氏
子供の頃から科学者になりたかった。スタチンは現在年間3兆円市場。毎日3000万人もの患者さんが服用している。抗生物質全盛の時代にアメリカに留学。現場で見たのは高齢化社会、心臓病(心筋梗塞)で毎年60-80万人画志望、血中コレステロールが高い人が多い(1000万人)、有効なコレステロール低下薬がない。
この現状に対して、
1.欧米との格差も大きく同じことをしても勝てない欧米が出黄な粉とかやらないことを選ぶ
2.欧米にはない日本文化を生かす
3.縦割り型から横断型開発を行う。
開発の途中で生じた問題を外部の専門家(日米の臨床医)の声を背景に乗り越え上市にこぎつけた。
詳しい苦労の様子は文系の方が多かったせいかあまりお話をされませんでしたが、その辺は出版されたこの本をおすすめします。
著:遠藤章
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最後のパネルディスカッションは時間がなくて、質疑応答となりましたが、日本の製薬産業のこれからのためには、バイオベンチャーにもっとお金が必要である。そのために日本政府も支援が必要ということで終わりました。
それにしても5人の先生方のうち4名がまた創薬ベンチャーをされていることを見るにつけ、やはりその開発魂みたいなものがあるのだろうと思いました。
伊藤正春氏はパリエットの開発のあと、転職されてバイアグラの開発にも関与されていたということで、こういう裏話をまとめて聞くことはあまりなくて、おもしろいお話の連続でした。
というか、さて、本題の日本の製薬企業に対するイメージは「儲け過ぎ」とか「新薬を作ってない」という印象をもたれているかもしれませんが、5種類のブロックバスターのお話を聞いていると、日本には世界でも湯数の創薬の力はあると思います。
それなのにどうもこれから先は大変そうです。というのは過去10年以上大手製薬企業でも新薬を開発できていなかったり、単に『導入』といって海外の薬を日本で開発して販売しているだけ製品がいくつもあります。
最近、がんなどでよく使われる分子標的薬も圧倒的に外国の製品が多いですし、ワクチンもしかり。
結局、下記のように成長産業であるし、貴重な外貨収入を得ることが出来る産業なのに、なぜか外国の製薬企業の方に追い抜かれつつあります。すでにマーケットのシェアは5:5。実際に製品のうち出身国をみると海外が7:国内が3といったところでしょうか。
こういう状況なのを考えると、後発品が出た長期収載品と呼ばれる薬に頼りながら開発を続ける日本の製薬企業は大変なことになっていきます。また、日本の製 薬市場があまりにも成長しないので、日本の研究拠点を廃止(メルク、ファイザー、GSK)して、中国やシンガポールに投資していってるのが最近の流れで す。
つまり、日本での創薬とか知的財産の創出が減って外貨収益が落ち、かわりに高いお薬を海外から購入する羽目になる可能性があるのです。
そういう意味でも政府の科学技術振興政策には期待していたのですが、どうも期待を大きく外れちゃったみたいですね。



<図表出典:製薬産業の将来像~2015年に向けた産業の使命と課題~2007年5月医薬産業政策研究所>
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