今回の治験をめぐる事件報道もまた、センセーショナルな扱いですが。果たして、肺がんの治療について、治療前に「他の選択肢」を話さずに、新規の開発品についてだけ同意するように誘導するでしょうか?
なくなれられた方の御家族の無念はお察しします。ご冥福をお祈り申し上げます。
ただ、肺がんの治療は標準的な治療でも5年生存率は切除不能の場合40%以下、困難を極めるものです(Stage分類やがんの種類によって異なります)。
この種類のお薬の治験では必ず適応となる「条件」があります。必ず、その条件にあわなければ治療を受けられません。
残念なことに、抗がん剤などの新規の薬は、他の治療と比較して・・・リスクはつきものです(元々、毒性のある化学物質や体内で細胞に毒となる化合物を投与するのですから仕方ありません)
また市販前であれば、効果を表す前に間質性肺炎などの副作用がどれくらいの割合で発生するのかも不明です。最終的には、このお薬、開発中止になっています。
日本では「デバイスラグ」「ドラッグラグ」が顕著になっています。さらに最後につけたレポート「」にあるように、海外まで治療をしに出かける方もいるとか(ちょっと前の薬剤溶解ステントDESもそうです)。すぐれた技術の導入がめちゃくちゃ遅れていまいます。
諸外国ではもう特許切れなのに、日本でまだ新薬開発中とか世界中の笑い物になりかねませんし、さらにいうと開発経費がかさむために最近は日本の メーカーは海外で開発をやっていたりします。日本ではそれだけ新薬の発売が遅れるし現場の医師も患者さんも使えなくて悩むんです。
新薬の開発には「誰」かがそういうリスクをしょっているわけです。また製薬企業も開発したいけど、開発段階での治療の費用や検査費を負担したり、さまざまな負担を受け持っています。
もちろん、透明性が必要ですが。きちんとしたプロトコールがあって、その上で「治療」なのでして、まして医師だけが説明するのではなく、専門のコーディネーターさんとも何回かお話した上で同意なので、そういう意味では「治験」というのは一種のカケなのです。
創薬や製品開発にはリスクがつきもの、治験が日本じゃさかんにならないのも、「薬害報道」で非常にセンセーショナルに報道しがちのマスコミさんがどこまで理解しているのかはまたいろいろとありますね。
ちなみに治験に際しては、ご本人や家族の同意がいつでも撤回できるようにはなされているはずです。同意なきところに「治験」はありません。その辺はきちんと説明が必要です。
また日本の場合、開発しないということはすべて外国から薬を買うということで、貴重な「外貨」が流出するということです。日本の薬の最近の状況は 「市場は伸びない」(=薬価抑制)、「開発困難」(=開発人材育成遅れ)、「ローカルルール」(=国際競争に負ける)ということが続いています。
結局、薬の特許の有効期限が切れてしまえば新薬メーカーはなかなか開発に着手しません。そしてそのしわ寄せが、患者さんには個人輸入の苦労となる わけです。ひどいと偽物をつかまされたりもありえますし、英語の説明書と格闘する位ならいいですが、日本国内では使った医師がまた少ない・・・そういう国 を作り出しているのもまた一つの事実です。
いずれにせよ「明らか」な法令遵守違反でなければ、民事訴訟です。お金で命は戻ってきません。でも、こういうセンセーショナルな報道でますます新薬の開発が遅れると、「北朝鮮以外では日本が一番遅れている・・・」ということにならないことを願います。
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「治験優先で死亡」と提訴 近大病院の抗がん剤投与
時事通信 2009/01/14
未承認の抗がん剤「マツズマブ」を投与され、その後71歳で死亡した大阪市の男性の遺族が14日、ほかに有効な治療法があったのに治験を優先されたとして、近畿大とドイツの製薬会社「メルク」の日本法人などに4950万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。
マツズマブは、メルクが武田薬品工業(大阪市)と共同開発を進めていたが、2008年2月に「期待された結果が得られなかった」として開発中止が 発表さ れた。 訴状によると、男性は03年に肺がんと診断され、05年から近大病院で治療を受けた。06年4月に担当医からマツズマブによる治験を勧められ同 意。投与後、間もなく間質性肺炎を発症し、翌月死亡した。
近大側は「示談交渉中なので、取材には応じられない」としている。
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提訴:治験薬副作用で死亡 遺族「他に治療法あった」--大阪地裁
毎日新聞 2009年1月14日 東京夕刊
未承認の抗がん剤の副作用で死亡した大阪市内の男性(当時71歳)の遺族が14日、他に有効な治療法があったのに効果が不明な新薬の治験(臨床試験)を 受けさせられ、延命の可能性を失ったとして、近畿大と製薬会社側などに4950万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴した。抗がん剤はその後、期待される結 果が出なかったとして開発中止された。遺族側代理人によると、承認されなかった薬の治験の妥当性を問う訴訟は全国初という。
問題になった治験薬はドイツのメルク社が武田薬品工業(大阪市)と開発を進めていた肺がんや大腸がんの治療薬「マツズマブ」。03年10月から国内で治験が始まり、08年2月に開発中止が発表された。
訴状によると、肺がんの治療を受けていた男性は06年4月、近畿大病院でリンパ節の腫れがあると診断され、担当の教授(当時)から未承認のマツズマブの 治験に参加するよう勧められた。男性は同意したが、投与が始まって急変し、副作用による間質性肺炎で5月に死亡したという。
原告側は「学会の指針では、抗がん剤の治験対象を標準的な治療法がない患者に限っており、男性の場合は既存の化学療法をすべきだった」と主張。病院側は副作用の危険性も十分説明しなかったと訴えている。
そのうえで大学と教授ら医師2人、治験を依頼したメルク社の関連会社「メルクセローノ」(東京都品川区)に、説明義務違反などによる慰謝料などを求めている。近畿大病院とメルクセローノはそれぞれ「訴状が届いておらずコメントできない」としている。
マツズマブはがん細胞の増殖などを促す分子を攻撃する「分子標的薬」。類似の薬に、間質性肺炎の副作用死が問題視された「イレッサ」などがある。【清水健二、銭場裕司】
◇開発中止で情報なく
新薬の治験は、安全性に未解明の部分が多いため、インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)が必要になる。旧厚生省は97年3月の省令で、 被験者(患者)の文書による同意を医師に義務付け、00年3月の名古屋地裁判決は「治験では一般的な治療の際の説明に加え、新たな治療法採用の根拠や副作 用などを十分理解させなければならない」との基準を示した。
肺がんの診療には、日本肺癌(がん)学会の指針があり、訴えられた教授も作成者の一人だった。抗がん剤治療の専門医師は「指針に沿った治療法の説明をせずに治験を勧めたなら、明らかな省令違反だ」と指摘する。
一方、開発が中止された治験薬については、データが公開されない問題がある。
医薬品医療機器総合機構によると、03~07年度に治験の計画届は493件出されたが、中止の届け出も234件あった。承認されれば、治験の結果は同機 構の審査報告に記載され、使用上の注意にも反映されるが、承認に至らないとデータの扱いは製薬会社に委ねられる。今回のケースも、治験に参加した他の患者 の副作用被害などは不明のままだ。
治験の問題に詳しい光石忠敬弁護士は「データの公表は製薬会社が選択しているのが実情で、開発の重複投資を避け、被験者のリスクを減らすためにも情報開示が必要だ」と話す。
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武田とメルクが抗EGFR抗体マツズマブの共同開発を中止
日経メディカル 2008. 2. 20
武田薬品工業は、2月18日、ドイツMerck社と進めてきたヒト化抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体マツズマブ(EMD72000)の共同開発を中止すると発表した。ドイツMerck社が独自に開発を継続するかは検討中だという。
今回の共同開発中止は、両者が実施してきた転移性大腸癌、胃癌、非小細胞肺癌を対象としたフェーズII臨床試験で、評価項目について期待した結果が出なかったためだという。
武田とMerck社はマツズマブに関して、米国、日本、欧州、アジア諸国の一部を対象とした共同開発・販売契約を2005年9月に締結していた。
なお、メルクセローノとブリストル・マイヤーズがわが国で申請しているセツキシマブとは別の抗体医薬である。
(横山 勇生=日経メディカル別冊)
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日経メディカル 2009. 1. 14
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患者が嘆くクスリ鎖国
海外では一般的な抗がん剤なのに、日本ではなかなか承認されない。待たされる患者からすると、日本はまるで「クスリ鎖国」のようだ。
AERA 2009/01/19
「ドラッグラグ」という言葉が がんの医療現場で広がりつつあ る。ドラッグは「薬」、ラグは「遅れ」。つまり、海外で承認 された薬が日本でなかなか承認 されないことを事つ。その時間 差は少なくとも4年以上。対して欧米には、他国で承認された 薬は約1年で承認される国が多 い。このドラッグラグが、日本の患者に無念の死を強いている というのだ。
代表例の一つが、米ジョンソ ン・エンド・ジョンソングルー プのヤンセンファーマの「ドキ シル」だ。欧米アジアの主要81カ国で乳がんと卵巣がんの治療に使われているのに、日本ではカポジ肉腫を発症したエイズ患者にしか投与できない。
卵巣がん体験者がつくる「スマイリー」の片木美穂代表は、「米国では1999年に新薬として承認されており、もう9年もたっています。せっかく日本でもカ ポジ肉腫の治療薬として使えるのだから、適応症を増や して欧米で一般的な卵巣がんで も使えるようにしてほしい」と訴える。
厚生労働省は2007年1月、 カポジ肉腫に適応する治療薬と してドキシルの販売を認めた。 新規患者が年間数十人のカポジ 肉腫には効く薬が少なく、「希 少疾病用医薬品」として緊急性 が高いという理由だった。
薬求めて海外で治療も
ヤンセン社は卵巣がんでも厚労省に申請しているが、承認はまだだ。同社によると、卵巣が んの新規患者は年間推定約8000人で、まずプラチナ製剤と タキサン製剤の組み合わせが標 準治療とされている。それでも再発したり耐性が出たりする推定約2500人に対し、ドキシルは効き目があるとみられている。いわば卵巣がん患者のセカ ンド・オプションの薬なのだ。
「数十人のカポジ肉腫患者に使 えるのに、適応症が違うという ことで何千人もいる卵巣がん患 者に使えないのは不思議。これが先進国の医療でしょうか」
そう片木さんは問いかける。
ドキシルを求めて韓国など海外で治療する人もいると いう。 ドキシルに限らない。女性特有のがん患者を支援するNPO法人「オレンジテイ」の河村裕美理事長は、 「お子さんを持ちながら闘病されている子宮頚がんの患者さんを見ると、予防にもっと力を入れないといけないと思います」と、英グラクソ・スミスクラインの 「サーパリックス」や米メルクの「ガーダシル」という子宮頚がんの予防ワクチンの早期導入を求めている。
二つのワクチンは、ヒトパピ ロlマウイルス(HPV)のうち、がんの原因となるHPV16型や同18型などへの感染を防ぎ、 子宮頚がんを予防する。これら のワクチンは世界100カ国以上で予防接種され、疾病を未然に防いでいる。だが日本では使われておらず、年間約2500人が亡くなっているのだ。グラ クソ、米メルク傘下の万有製薬 がそれぞれ承認申請しているものの、日本におけるワクチン製造の基準が違うことなどから承認されていない。
治験費用は欧米の数倍
こうしたドラッグラグの原因は、日本の臨床試験(治験)の ありかたと厚労省の過去の硬直 的な薬事行政にありそうだ。 国内の製薬会社が新薬の製造 や販売をするときや、海外メー カーが薬を日本で販売するときには、日本の病院で日本人患者 を用いて治験をしなければなら ない。健康な人へ投与する「フ ェーズ1」から、多数の患者に投与して既存薬と比較検証する「フェーズ3」まで、段階を追ってデlタを集めたうえで、厚 労省(現在は独立行政法人医薬 品医療機器総合機構)の審査を 受けるのだが、この過程にカネと時間がかかっている。
外資系製薬業界団体幹部は、「そもそも治験自体が、日本では人体実験視され、受けたがる人がなかなかいません。そのう え患者や病院に支払う協力費が高くつき、当局の審査も1回の相談につき数百万円の出費にな るなど、もろもろの費用は欧米 の数倍です。それで承認されれ ばまだしも、塩漬けにされてし まうこともあります」と苦哀を打ち明ける。
東南アジアなどでは欧米の治 験デlタをそのまま活用できる 国もあるが、日本は人種の違い に由来する投与量の差といった 理由をたてに、日本人での治験 を義務づけている。度重なる薬 害問題もあってか、
「後になって安全性の責任が関 われないようにと非常に慎重な 審査になっている。これも時間 がかかる要因です」
と、先の団体幹部は見る。
批判を浴びる側の同機構も手 をこまねいているわけではない。 4年以上要している時間を、2011年度末までに1年半に短縮する計画を立てており、「お 上」意識が強かった審査スタイ ルも、製薬会社の相談に懇切丁寧に応じる仕組みに変えようと してきた。そこで欠かせないの が人員増だ。「官のリストラ」が 叫ばれるなかで、同機構は11年4月時点で200人弱だった審査要員を日年度末までに440 人に倍増する予定でいる。
見劣りするマンパワー
現在はおおまかに15の審査チームがあり、各チームは医師や薬剤師ら10人体制を目指してい る。しかし頭数をそろえるのに 四苦八苦していて、稲川武宣企 画調整部長は、
「がん治療薬の審査チームには30くらいの新薬の審査が集中し、非常に負荷がかかっています。 本来なら、スピードアップできるよう、がん関連の審査チームは二つか三つあっていい」
と打ち明ける。審査担当医師の年収は40代で900万円強。 開業医になればもっと多額の報 酬が見込める医師の世界からすると魅力的な待遇とは言い難い。 米食品医薬品局(FDA)は日本の10倍近い2700人体制。 マンパワーで見劣りする日本がドラッグラグを解消するのは容易ではない。
肺がんの「特効薬」と喧伝さ れた「イレッサ」が副作用死を 多く招いた先例などもあり、
「審査のスピードアップだけでなく、市場に薬が出回った後の安全性の監視体制が重要」(問機構の稲川部長)であることも間違いない。新薬の早期承認を求 める患者団体も「正確な知識が必要なので『夢の薬」と思わないよう、医師と患者双方をきちんと教育すべきだと思います」 (冒頭の片木さん)と冷静だ。
日本でがん治療薬のドラッグラグが顕著なのは、国内製薬会社が開発に消極的だったという側面も影響している。大手は市場規模が大きい糖尿病や高血圧 など生活習慣病の薬の開発を重視してきた。
だが近年はこの分野の新薬開発が頭打ち気味で、関心の矛先ががん治療薬に移っ てきた。そうした中で、開発には膨大な費用と時間がかかるため、海外の創薬ベンチャーを買収する動きが加速している。
エーザイは昨年1月、がん関連の薬品を持つ米MGIファーマを39億ドルで買収。同5月に は武田薬品工業が、同じく米国のバイオベンチャー、ミレニア ム・ファーマシューテイカルズ を88億ドルで買収した。 武田全体の売上高約1兆30 00億円のうち約6000億円は、高血圧の「ブロプレス」と 糖尿病の「アクトス」の二つの国際戦略製品からもたらされている。だが、この両製品の特許 が2010年前後に切れる見通しで、代わる国際戦略製品の充実が課題だった。そんな背景もあって、がん分野の研究開発型ベンチャ ーを傘下に入れたという。
スイスのロシュ傘下に入った 中外製薬は、80年代から取り組 んできた「抗体医薬」の開発が ようやく実を結んできた。今までの抗がん剤は正常細胞も攻撃 してしまうため副作用が強かったが、抗体医薬は特定の抗原に集中して効き、副作用は少ない。
「患者の条件に合わせた『テーラーメード医療』に道を開く技術です」と、中外の松崎淳一渉外調査部副部長は言う。国際競争に出遅れ気味だった 日本の製薬会社だが、抗がん剤開発にシフトして巻き返しを狙 っている。
編集部大鹿靖明
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