デバイスラグ?知らない言葉かもしれません。時差ボケのことをジェットラグといいますが、医療機器の遅れをデバイスラグといいます。
科学先進国でありながら、日本で遅れている最先端の医療機器、医薬品・・・これらを導入するために、医療現場で 国内の臨床試験を行うのを「治験」といいます。
この治験は同意なしに行うことはありません。また、患者さんの同意がなく、行えば医療側だけでなく、製薬・医療機器メーカーは非難されます。
治験の仕組みについては「GCP(Good Clinical Practice)」という国際的な規則があります。これにのとって行っていなければ、いけません。
この中の条文には
『第四節 被験者の同意』という項目があります・・・長いですが、引用します。
(文書による説明と同意の取得)
第七十条 治験責任医師等は、被験者となるべき者を治験に参加させるときは、あらかじめ治験の内容その他の治験に関する事項について当該者の理解を得るよう、文書により適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。
2 被験者となるべき者が同意の能力を欠くこと等により同意を得ることが困難であるときは、前項の規定にかかわらず、代諾者となるべき者の同意を得ることにより、当該被験者となるべき者を治験に参加させることができる。
3 治験責任医師等は、前項の規定により代諾者となるべき者の同意を得た場合には、代諾者の同意に関する記録及び代諾者と被験者との関係についての記録を作成しなければならない。
4 治験責任医師等は、当該被験者に対して治験機器の効果を有しないと予測される治験においては、第二項の規定にかかわらず、同意を得ることが困難な被験者となるべき者を治験に参加させてはならない。ただし、第七条第二項に規定する場合は、この限りではない。
5 治験責任医師等は、説明文書の内容その他治験に関する事項について、被験者となるべき者(代諾者となるべき者の同意を得る場合にあっては、当該者。次条から第七十三条までにおいて同じ。)に質問をする機会を与え、かつ、当該質問に十分に答えなければならない。
(説明文書)
第七十一条 治験責任医師等は、前条第一項の説明を行うときは、次に掲げる事項を記載した説明文書を交付しなければならない。
一 当該治験が試験を目的とするものである旨
二 治験の目的
三 治験責任医師の氏名、職名及び連絡先
四 治験の方法
五 予測される治験機器の効果及び予測される被験者に対する不利益
六 他の治療方法に関する事項
七 治験に参加する期間
八 治験の参加を何時でも取りやめることができる旨
九 治験に参加しないこと、又は参加を取りやめることにより被験者が不利益な取扱いを受けない旨
十 被験者の秘密が保全されることを条件に、モニター、監査担当者及び治験審査委員会が原資料を閲覧できる旨
十一 被験者に係る秘密が保全される旨
十二 健康被害が発生した場合における実施医療機関の連絡先
十三 健康被害が発生した場合に必要な治療が行われる旨
十四 健康被害の補償に関する事項
十五 当該治験に係る必要な事項
2 説明文書には、被験者となるべき者に権利を放棄させる旨又はそれを疑わせる記載並びに治験依頼者、自ら治験を実施する者、実施医療機関、治験責任医師等の責任を免除し若しくは軽減させる旨又はそれを疑わせる記載をしてはならない。
3 説明文書には、できる限り平易な表現を用いなければならない。
(同意文書等への署名等)
第七十二条 第七十条第一項又は第二項に規定する同意は、被験者となるべき者が説明文書の内容を十分に理解した上で、当該内容の治験に参加することに同意する旨を記 載した文書(以下「同意文書」という。)に、説明を行った治験責任医師等及び被験者となるべき者(第三項に規定する立会人が立ち会う場合にあっては、被験 者となるべき者及び立会人。次条において同じ。)が日付を記載して、これに記名なつ印し、又は署名しなければ、効力を生じない。
2 第七十条第一項又は第二項に規定する同意は、治験責任医師等に強制され、又はその判断に不当な影響を及ぼされたものであってはならない。
3 説明文書を読むことができない被験者となるべき者(第七十条第二項に規定する被験者となるべき者を除く。)に対する同条第一項に規定する説明及び同意は、立会人を立ち会わせた上で、しなければならない。
4 前項の立会人は、治験責任医師等及び治験協力者であってはならない。
」
今回は、不幸なことに、亡くなってしまいました。また、現状のこの患者さんが「医療機器」を装着せず、心肺同時移植を受けるために募金活動の末に渡米し、移植を受けて生存できていたかは極めて厳しいのではないかというのが予想です。

この週刊誌はすぐにセンセーショナルに「人体実験」と書きてていますが、そういうものではなく、医療機器の開発に必要な手順を守ったうえであれば 「科学的」にも「倫理的」にも全く正しいのです。説明なしで行ったわけではないのは読めばわかります。手術を行えば、出血したり感染によって再手術など不 測の事態は絶対に生じます。
科学的な検証は移植医療の専門家に取材し、この治験の手続きについて「正規」のものかを確認して行う必要があります。むやみに騒ぐやり方は、ジャーナリズムの矜持をもっているとは思えません。
まして、「拡張型心筋症」で人工心臓の植え込みの適応になるほど「重症」の患者さんにはたして生存の見込みがあったのか?いろいろと考えさせられますが、まずはまともな報道から・・・
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朝日新聞 2008/12/17
国立循環器病センター(大阪府吹田市)で昨年春、臨床試験(治験)で補助人工心臓の埋め込み手術を受けた当時18歳の少年が、手術後に植物状態に な り、1年後に死亡していたことが分かった。国循は、医療事故ではないと説明している。一方で、植物状態になった後も、治験のデータを取り続け、今年10月 の研究会で「重大な故障は0。優れた長期信頼性を実証」と発表していた。
国循などによると、少年は拡張型心筋症で、 07年春、国循で補助人工心臓「エバハート」を体内に埋め込む手術を受けた。この人工心臓は未承認で、 治験として手術が行われたが、約2週間後に容体が急変。心停止の時間が長かったため脳障害が残り、植物状態になったという。国循はその後も治験を続行。少 年は、人工心臓を付けた状態で約1年後に死亡したという。国循は「医療事故ではなく、機器の不具合ではない」と説明している。
治験には、インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)が必要で、手術の前には、少年本人と家族が、文書で同意していた。植物状態に なって以降、治験を継続する際には、国循側は家族にあらためて、同意の代筆をしてもらっていたという。しかし、家族は同意文書に署名したものの、「この文 書の内容を理解(納得)することはできません」との趣旨も手書きで添えたという。
国循臓器移植部の中谷武嗣部長や、開発者の東京女子医科大の山崎健二准教授は今年10月に東京都内で開かれた日本心臓移植研究会で、3年間の治験 成績として、18~65歳の計18人に埋め込み手術を行い、1年間の生存率は83%と発表。治験中に4人が死亡したことにふれながらも、「重大な故障は0 であり、優れた長期信頼性を実証した」と報告した。
治験中の死亡について、国循の友池仁暢病院長は会見で「治験は薬事法で定められた方法で実施した。患者さん、家族にも十分、納得してもらったうえで行った」と話した。
◆病院側「治験に問題ない」「危険性も十分説明」
国立循環器病センターでは17日、友池仁暢(ひとのぶ)院長と山本晴子治験推進室長らが記者会見した。友池院長は「薬事法で定められた方法にのっ とって治験を実施した。治験の安全性と危険性は十分説明した」として、今回の治験に違法性や倫理的問題があるとは考えていないと強調し、「患者との感情的 な問題があるのは分かっているが、その時点で最善の治療をすることが大切」と説明した。
山本室長は「(本人、家族の)同意は3度確認している」と説明。患者の家族は3度目の同意書に治験への不満を書き込んでいたが、「自発的に日付も名前も書いている。家族の心情の吐露と認識している」として家族が反対しているとは受け取らなかったという。
病院側によると、治験を続けなければ高額の医療費がすべて自己負担となることも家族に説明していたという。一方で、「患者には治験を強要したわけ ではなく、中止は可能とも説明した」と語った。患者が植物状態となった際には外部委員らを交えて検証し、エバハートの不具合でなく医療事故でもないと判断 したという。
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三度も確認して、あとになって、「感情」的な問題で、人工心臓の開発や導入が遅れる・・・それだけまた海外に出かけなければならないわけです。
そういう意味では、次の産経さんの記事はもっとわかりやすいです。だって病院側の会見のない時点で「ご遺族」の意見だけで情報垂れ流し・・・最悪ですな。
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【国循の不同意治験】母親「納得できぬ」変わり果てた姿…説明なく
産経MSN 2008.12.17
「国立循環器病センター同意書」母親が不同意の意思を書いた今年2月の同意書。「そのまま署名するわけにはいかない」と、納得できない自分の思いを記した 国立循環器病センター(大阪府吹田市)で、患者側の同意を得ぬまま補助人工心臓の臨床試験(治験)が継続された疑いが浮上した。意識不明の息子を前に治 験継続の同意を求められた今年2月、母親は不信感でいっぱいだった。「納得することはできない。けれど…」。息子の命にかかわると思い、同意書に書き込ん だ。病院側への母親の不信感は今も続いている。
男性が拡張型心筋症という心臓の難病を発症したのは約2年前。急に胸の苦しさを訴え、地元の病院に入院した。前日まで学校に通っており、母親は「とても信じられなかった」という。本やインターネットで病気を調べ、専門医を探し、すがる思いでセンターにたどりついた。
補助人工心臓「エバハート」の治験は、センターではすでに行われていた。男性は入院後、先にエバハートを装着した患者と面会。自由に動き回る姿に「僕もこうなれたら」と、治験同意書にサインをした。「3カ月後には家に帰って学校に行ける」。期待でいっぱいだった。
悲劇は、手術から約2週間後に起こった。呼吸が苦しくなりだし、容体が急変。心臓にできた血の塊を取り除く緊急手術が行われた。蘇生(そせい)はしたも のの、変わり果てた姿で帰ってきた。意識はなく、口には管が入っていた。「長い間心臓が止まっていたので、脳に何らかのダメージが起きた可能性がある」。 医師の説明に「何があったら心臓が止まるのか」と聞いたが、説明はもらえなかった。
この治験では、手術から6カ月後に、継続の同意を確認する必要があった。手術から半年が過ぎた昨年秋に、母親は同意書を示された。意識不明の本人は署名ができるはずもなく、「お母さんでいいですから」と勧められるまま息子の欄に署名し、「代筆母」と書いた。
今年2月、再び継続の同意書が示された。他のケースで脳血管障害などの有害事象が発生したため、その説明を行ったうえで、再度、同意を確認するためのも のだった。「このままではとても納得できない」。母親は訴えたが、治験コーディネーターからは「出さないわけにはいかないから書いてほしい」と言われた。 「そのまま名前を書くわけにはいきません」と、母親は同意書に自分の思いを書いた。
「手術する前に説明された内容と大きく異なります。今回のこの文書に記された内容を理解(納得)することはできません。ですが、生命維持するためには、治験に参加するほかないでしょ?」
母親は、産経新聞の取材に、「(病院側に)継続の同意をしていない。できないんだという意思をわかってほしかった」と訴えている。
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産経MSN 2008/12/17
国立循環器病センター(大阪府吹田市)が、患者側から同意を得ずに最新型の補助人工心臓の治験(臨床試験)を行って いた疑いがあることが16日、分かった。同意書は意識不明だった患者に代わって家族が提出した。が、家族は「内容を理解(納得)する事は出来ません」と明 記し、不同意の意思を口頭でも伝えた、と訴えている。センターでは担当医師らから事情を聴くなど調査に乗り出す。
患者は当時18歳の男 性。心臓移植以外に助かる道がないとされる拡張型心筋症で、昨年春にセンターに入院した。センターは本人の同意を得て補助人工心臓の装着手術を行った。し かし術後、約2週間で容体が急変。一時、心肺停止となり緊急手術を受け蘇生(そせい)したが、脳へダメージがあり、意識不明のまま約1年後の今年春に死亡 した。
患者の両親によると、男性が意識不明になった後の昨年秋と今年2月、患者家族に対し、センターが治験継続の同意書に署名を求めた。 昨年秋は母親が本人の署名を代筆したが、今年2月は、補助人工心臓装着の副作用として、脳血管障害が報告されたため、母親が「今回のこの文書に記された内 容を理解(納得)することはできません」と記して提出し、口頭でも同意の意思がないことを伝えた。しかし、担当の治験コーディネーターや治験責任者の医師 は真意を母親らに確認しないまま、治験が継続されたという。
今回の補助人工心臓は「エバハート」という国産の体内植え込み型補助人工心臓。日本で初めて、平成17年から国内で治験を開始し今年8月に終了。現在は承認申請の段階にある。
別の病院で同じ治験に参加した心臓外科医は「治験を進める上で同意を得るのは最低限のルール」と今回の説明不足を指摘。同意書に関しても「これを同意とするのは無理で、再度同意をとるか、2月の時点で治験をやめるべきではなかったか」と話している。
産経新聞の取材に対しセンターの友池仁暢病院長は「院内の治験審査委員会では、このような不同意と思われる事案の報告は私の知る限りなかった。今後調査する」と話している。
◇
■ 治験(臨床試験) 製薬会社や医療機器メーカーが開発した商品の安全性や有効性を確かめる治療を兼ねた試験。多くは動物実験などで安全面などが確認された 上で、ヒトにも実施される。治験の結果、重篤な副作用が発見されたり、治療効果が認められない場合は国は認可しない。すべての治験は被験者の人権やデータ の信頼性などを確保するために、国が定めた医薬品の臨床試験の実施基準(GCP)の下で、倫理的かつ科学的に実施することが義務付けられている。
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サインしない場合、治験から離脱でしょうが・・・いずれにせよサインしてしまってあとで「撤回」は難しいでしょう。
感情的に、不慮の事故を責めるお気持ちもわかりますが、「重症」の場合、絶対に治療がうまくいくばかりじゃないことはお話されています。そういうカケなのです。
また、ちなみに治験の費用は企業側が出しております。患者さんの医療費を含めて開発経費を負担しているのは「企業サイド」です。医師の説明に家族には不満があり、不十分な点があったのは事実でしょうが、法令遵守に務める義務は果たしているのではないでしょうか?
こういう「魔女狩り&バッシング報道」で、他の臓器移植の待機患者さんが新しい医療機器を使えず、1億円以上の募金を集めて、渡米して外国で臓器を購入する・・・のは国益に遭いません。
きっちりと、書きましょうか?
不幸にして亡くなった患者さんの「ご遺族の感情」に焦点をあててジャーナリストがいちいち大袈裟に取り上げることで、他の大勢の人工臓器移植が進まない弊害、国内の医療機器の開発が遅れることは国民に利益をもたらさないことです。
もちろん治療がうまくいかないこともあるし、被害を最小化するためには、「臨床開発」には透明性が必要です。関係当局が捜査に乗り出した時点で大袈裟に報道して「人体実験」扱いは、暴走ですね。
そういう意味では、魔女狩り報道が好きな「産経」も「文春」も少しは冷静になるべきですね。
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