どんな手術の名手でも、失敗ゼロはありえません。また、患者さんの状態が万全であっても、ちょっとしたこと(輸血や薬品の投与タイミング、機器の不良、術者の体調)で、結果が異なってしまうことはあります。マスコミサイドは「ライブ手術」での患者さんの死亡について受け入れない立場かもしれませんが、逆にいうと超高齢者の手術を成功させたりすれば見事に誉めそやし、高度な手術の技を習得しないで、困難な症例に立ち向かって失敗しようものなら、大野病院のように「魔女狩り」をする報道側(魚住氏によればメディアスクラムと言うですが、魔女狩りが一番似つかわしい)には、医療に対する誤解を広げる方向に進んでいませんかね?
常に、医療に対して、国民は過剰な期待を求めますが、僕からしてみれば平均年齢を超えてなお、生命力があり、かつ、運良く手術の名手のいる病院に運ばれたラッキーな患者さんのみが手術という難局を、優れた手技を持つ医師とともに乗り越えられるのであります。
日ごろ、超重症の症例にめぐり合わない医師が、その日のためにトレーニングを受けるのは、現状不可能です(大病院に医師をアメリカやカナダのように集めれば可能だが)。そして、このライブデモンストレーションのために当日腕を振われた医師は患者さんを実験台とした娯楽ショーを見せるために行っているわけではありません。もちろん参加する医師も決して遊びに行くのではなく、手技を学びに出かけているのです!。自分の病院でも困難な症例が来た時に備える学習の機会を奪うのは、マスコミがまったくマッチポンプだという証左でもあります。
医師は高度な技術を持つことを常に期待される技術者であります。その国民の期待に応えるために医師にとり医療技術を研鑽する場を奪うことで、国民の生命の救命できなくなってもかまわないのなら「魔女狩り報道」をお続けください。そして、それならば、今日あった慈恵青戸病院事件の助手の医師を、出来なかったと一方的に非難するのもおやめください。
こういう報道の偏った姿勢は戦前の軍部と一体になって戦争へと突き進んだ新聞各社の報道姿勢とまったく一緒だと…官僚とメディア の魚住 昭氏は書いておりました。ぽち→
asahi.com 2007年06月05日15時23分
医師の研修を目的としたライブ(実演)手術で昨年9月、患者の死亡する事故があったことがわかった。関連する日本心臓血管外科学会(高本真一理事長)は調査委員会(委員長=八木原俊克・国立循環器病センター副院長)を設け、残された映像などの調査を実施した。同学会は委員会の報告をもとに、ライブ手術の指針を作る予定だ。
事故が起きたのは愛知県内の病院。心臓から出た太い血管にこぶのある胸腹部大動脈瘤(りゅう)患者について、他病院の心臓血管専門医がこぶの破裂を防ぐための手術を執刀する様子が、兵庫県内の別会場の医師らにライブ中継された。
ところが、その最中にこぶが破裂。中継をやめて緊急処置が施されたが患者は2日後に亡くなった。ライブ手術を主催した研究会の世話人から学会に調査依頼があり、委員会が発足した。
病院がカルテ提出などを断ったため、調査委は映像など限られた資料から判断した。その結果、中継を見ていた医師たちから手術法への異論が出て、執刀医は反論しながら手術していたことがわかった。また、全国平均で死亡率19%の手術なのに、執刀医とは別の医師が「5%」と患者に説明していた。
調査委は、死亡率の高い疾患を選んだことなど企画・運営に「ショー的な要素」が否定できず、手術中にライブ会場から自由に質問・議論できる形式は、執刀医の集中力を損なった可能性が否定できないとした。また死亡率などの説明に関するインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)には「問題がある」とし、患者の安全確保対策や、指針の必要性を提言している。
病院側は朝日新聞に「難手術だからライブの意義がある。プロだから、見られていても実力は出せる。医療ミスではなく起こりうる合併症と考えており、ご遺族には納得していただいた。委員会の調査については、何百万円かの調査費を負担するよう求められたので断った」と答えた。
朝日新聞 2007年06月04日
腹部大動脈瘤(りゅう)の破裂で重体になった87歳の女性患者を、国内でも珍しい緊急の血管内手術で救命することに森之宮病院(大阪市城東区)の加藤雅明・心臓血管外科部長らが成功した。破裂した動脈を、開腹手術せずにチューブ(カテーテル)を使って挿入した人工血管でふさいだ。開腹手術に比べ患者の負担が少なく、高齢者や合併症を伴った救急患者の救命率向上が期待できるという。
女性は5月9日、自宅で突然意識を失い、病院の検査で腹部大動脈にできた直径8センチのこぶが破れていることが判明した。ショック状態で従来の開腹手術では危険性が高いと判断。太ももの動脈からカテーテルを通して「ステントグラフト」と呼ばれるばね付きの人工血管を破裂部分に挿入して膨らませ、ふさぐ方法をとったという。
カテーテルで人工血管を挿入する治療はこれまで、患者の動脈の長さや太さに合わせ、医師が事前に手作りのステントグラフトを準備する必要があったため、動脈のこぶが破裂した後の患者に使うのは難しかった。
しかし、今年からサイズがそろった市販品が保険適用となって出回るようになった。今回は医師が製品の販売元と連携し、手術前のコンピューター断層撮影で血管の大きさを測って在庫から適切な製品を選択。動脈瘤破裂後の緊急患者にも対応することができた。
加藤医師は「熟練した医師、看護師と製造元の素早い連携の成果。この治療法が普及し、製品をストックできる病院が増えれば、多くの患者が救える」としている。(林義則)
読売新聞2007年6月5日
愛知県豊橋市の循環器系疾患の専門病院「豊橋ハートセンター」で昨年9月、医師の研修を目的としたテレビ中継の実演手術をしている最中に、患者の容体が急変し、2日後に死亡していたことが5日わかった。
日本心臓血管外科学会は調査委員会を設け、中継手術の運用指針案の作成を進めている。
病院によると、昨年9月23日、愛知県内の男性患者(63)が、心臓に近い血管にこぶができる胸腹部大動脈瘤(りゅう)の手術を受けた様子が、神戸市内の会場に集まった医師らにテレビ中継された。しかし、手術の最中にこぶが破裂し、中継をやめて処置が行われたが、男性は2日後に死亡した。
調査委員会では会場から執刀医に質問ができる形式だったことなどから、報告書で〈1〉見学の医師から質問が出たことで、執刀医の集中力を損なった可能性がある〈2〉ショー的な要素があったことが否定できない〈3〉運用指針作成の必要性――などを指摘。調査委員長の八木原俊克・国立循環器病センター副院長は、「技術や知識の普及は大切だが、ストレスのかかる難度の高い手術が中継に適しているかどうかを判断する基準などについて、慎重に考える必要がある」としている。
これに対し豊橋ハートセンターの大川育秀・副院長は、「心臓血管外科の第一人者といわれる医師が執刀しており、実演手術との因果関係はないと信じている。手術の危険性については事前に患者に説明して納得してもらっていた。あくまで医師の研修を目的とした実演手術で、ショー的要素はない」と話している。
(2007年6月5日22時6分 読売新聞)
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これを読むとあんまりショー的な要素が…というより、きちんと理詰めで、手術の必要性などを検討しているように思いますけど。なんか、新聞によっても温度差を感じますね。 しかも行われた施設は国内でも超有名な施設でした。いずれにせよ、マスコミによる「出る杭はとことん叩く」魔女狩りを微妙に感じるのは気のせいでしょうか?
↓CCTライブ調査委員会 報告書概要
まずは、ちょっと気になる報告から。BioTodayさんから転載させていただきました。
2007-06-04 マウスでの実験から、たばこの主流煙(mainstream tobacco smoke)への暴露によって精子のDNA変異のリスクが上昇すると分かりました
> 関連文献
Mainstream Tobacco Smoke Causes Paternal Germ-Line DNA Mutation. Cancer Research 67, 5103-5106, June 1, 2007. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-07-0279
禁煙教育は簡単なようで、実はとても大変です。欧米では禁煙のための支援を国が乗り出しているようです。
海外では、喫煙習慣がここ数年で激変しています。イギリスのこの記事以外に、オーストラリアでも、ここ数年で喫煙者の比率が半減したのもかかわらず、24時間の禁煙サポートホットラインを設けるなど、喫煙者対策に非常に熱心です。
わが国では…この夏から新幹線の新型車両N700系から、喫煙席がなくなります(ただし喫煙者用に空気を強制換気まで完備した喫煙コーナーを数箇所もうけますが)。もっとも東北新幹線や上越新幹線、長野新幹線などのJR東日本の特急列車では禁煙がほぼ徹底していますから、西日本側はまだ遅れています。
さて、わが国の「がん基本対策」にはまったく盛り込まれなかった、喫煙者の対策。まずは医師の卵から。
将来、患者さんを指導する立場になる医学生にとって、喫煙はあまり好ましい習慣ではありません。
自分が研修医の頃、一番の喫煙者は呼吸器内科の部長、医長先生は皆喫煙者で、カンファレンスはさしずめ受動喫煙時間でした。確かに、ちょっと前までは、診察や手術が終われば、気持ちよさそうに先生がたが吸うために、ナースステーションや更衣室のそこかしこにあった灰皿は、昨今の病院機能評価の取得のため、すでに撤去されています。
今や専門医も呼吸器学会の専門医を取得する時、禁煙者であることを求められるご時勢です。日本の医師や看護師の喫煙率は、一般の方に比べれば低いものですが、諸外国に比べると見劣りするのが事実です。
そういうことを考えると、この記事は明らかに「医学部」という教育機関がまったく立ち遅れているという証拠でもあります。病院の敷地内が禁煙という施設も徐々に増えてきていることを考えると、医療従事者がタバコのために診療を中断して外に吸いに出かけるのはすでに困難だと判断します。
また、一般病院でも、タバコを売店で売っていることもなくなってきたことを考えると、古きよき時代は終わったと認識するべきです。国民の健康に貢献する役割を果たすために、我々は「喫煙」による害を認識した上で、これ以上、受動喫煙や直接喫煙による犠牲者をふやさないように、喫煙者を教育する義務があります。
これを読んでお見えの医学生さん、看護学生さんへ、将来「禁煙で苦しんだり」「喫煙場所を探す」ことがないように、今のうちに禁煙をお勧めします。
記事は医学処の方をご参照ください。ぽち→
あのLancet誌のオーナーが武器見本市を開催しているのはBioToday.comの記事で知り驚きましたが、[医学論文と武器貿易…]で紹介したように、やはり問題であろうという判断から、撤退することになったようです。一種のCSR(企業の社会責任)からふさわしい判断だ、という見方も出来ますが、やはり芳しい評判にはならないというのが判断根拠でしょうね。
記事はいつものようにBioToday.comさんから転載させていただきました。ASCO(アメリカ癌治療学会)の発表もいくつか出ていますが、やはりサメの軟骨は効かないようです。ぽち→
・標準的な化学療法や放射線療法にサメ軟骨抽出物・AE-941を追加しても進行した非小細胞肺癌患者の生存は改善しない(Journal of Clinical Oncology, 2007 ASCO Annual Meeting Proceedings Part I. Vol 25, No. 18S (June 20 Supplement), 2007: 7527)
2007-06-04
2007年6月1日、Lancet誌のオーナーであるReed Elsevierは(リード・エルゼビア)は、武器業界の国際見本市セクターから撤退すると発表しました。
Lancet誌はこの決定を歓迎するコメントを発表しています。
Reed ElsevierのCEO・Crispin Davis氏は次のように言っています。
「重要な顧客や著者の懸念が高まっていることは明白であり、科学・医学・法律・ビジネスに関する主要な出版社としてのリード・エルゼビアのポジションと武器見本市は両立し得ないと判断した。Reed Elsevierは2007年中に武器の国際見本市セクターから撤退する。」
‥> 関連文献
Reed Elsevier and defence exhibitions: an announcement. Published online June 1, 2007. DOI:10.1016/S0140-6736(07)60858-7