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中国新聞2007/01/23
週刊誌を中心に、報道による名誉棄損訴訟の判決で、賠償高額化の流れが続いている。最近は、著名人ではない市民の訴えにも一千万を超える賠償を命じるケースが出てきた。法曹関係者らは「市民のメディア不信が投影している」と指摘するが「報道が委縮する」との懸念も強い。
▽01年から急騰
福岡市で二〇〇三年、中国人三人に一家四人が殺され、重りを付けて博多湾に沈められたとされる事件。東京地裁は昨年九月、週刊文春の記事で犯人のように書かれたとする親類夫婦の訴えに対し、文芸春秋に計一千百万円の支払いを命じた。
〇四年には、熊本県で病院関係者四人が死亡した車転落事故をめぐる報道で、写真週刊誌フォーカス(休刊)発行元の新潮社側に、医療法人理事長らに対し千九百八十万円を賠償するよう命じた判決が確定。
週刊文春の遺跡捏造(ねつぞう)疑惑報道に抗議して自殺した別府大名誉教授の訴訟でも〇四年、福岡高裁が遺族に九百二十万円の賠償と謝罪広告掲載を命じ、確定した。
「最高でも百万円」と言われていた賠償額が急騰したのは〇一年ごろ。当初は原告がスポーツ選手や芸能人、政治家のケースだった。
司法研修所が「五百万円程度を平均基準額とすることも一つの考え方」との研究結果を公表したり、東京地裁の研究会が「四百万円から五百万円程度」と目安を提言した時期と重なる。
▽政治も影響か
あるベテラン裁判官は「慰謝料が低すぎるという思いは多くの裁判官が持っていた」とみる。「生活を破壊するような報道にこれでいいのか。刑事裁判で死を重くとらえ、量刑に反映させるようになってきたことと似ている。裁判官自身が、市民の感覚と乖離(かいり)していることに気づいた結果だ」
別の民事裁判官は、要因として原告側の意識が変わったことを上げ「以前は違法性の立証が中心だったが、最近は内面の損害を重視し、実質的な補償を求める傾向が強くなっている」と話す。
政治的な動きが影響したとみる関係者も。自民党の「報道と人権等のあり方に関する検討会」は一九九九年、低い賠償額の見直しを求める報告書をまとめ、〇一―〇二年には国会でも論議された。〇一年の司法制度改革審議会意見書も「低額に過ぎるとの批判がある」と言及している。
▽強まる危機感
裁判官の勉強会に招かれた経験を持つ立教大の服部孝章教授(メディア法)は「市民社会のメディア不信が裁判官にも及んできたと感じた」と振り返り、メディア側には「記憶に残るようなケースほど、より冷静に報道する必要がある」と提言する。
さらに、賠償高額化にはメディア規制の側面もあると危惧(きぐ)する。「報道の使命を考えるとすれすれの部分で報じることもある。刃がそがれなければいいが」
報道側の危機感は強い。新潮社の月刊誌編集部員、宮本太一さん(40)は「以前は報道側の免責事由が広く認められ、賠償額も低かった。あぐらをかいていた部分はあったと思う」と自省しつつ「高額化は表現の自由を脅かす」と強調する。
中小の出版社なら高額賠償は経営に直結する。宮本さんは「委縮効果はてきめん。取材源が開示できないケースが多い中、立証のハードルが高くなっているので、果敢な判断が困難になる。既に不正が埋もれてしまった例もあるのではないか」と心配している。
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