彼女は、病室のベッドに座った彼の足元にひざまづき
愛おしそうに両膝を抱え、祈るように顔を埋める。
彼は、そんな彼女の目尻に小さなにきびを一つ見つけ、
彼女の疲労を労う。
私は、側にいるだけで、幸せになれそうな、
でも、愛おしすぎて切なすぎて、側から離れずにいられない
そんな二人に出会いました。
私が彼女達と初めて接触したのは、彼が意識消失発作で運ばれてきてから
二日目の事でした。
英語を母国語としない彼女達は、一切の意思疎通ができず、
1日に1時間程の旅行会社からの通訳のみで入院生活を過ごしていたのですが、
実は、奥さんであるルイ(仮名)さんが、かなり日本語ができるということに
だれも気づかなかったのです。
それから、私は毎日、外来の合間や空き時間を、
彼らの病室で過ごしました。
病状は深刻ですが、この南の島でできる検査には限りがあり、
彼らの母国に帰る事が望ましいという結論になりました。
途中で再発作を起こす危険性があるため、
私が一緒に帰国する事になりました。
ルイさんは、慣れない事務仕事をもくもくとこなしていきました。
母国での病院の受け入れ、母国からの資金を送ってもらい、
一人で、航路を確保し、私のその国への、ビザの手配も行ないます。
これが、日本人の患者さんであれば、私が担当できることもあるのですが、
残念ながら、英語でなく母国語で書かれた書類を、
私には理解する事ができません。
彼女の幾晩も続いた徹夜の成果で、
患者さんである彼と、ルイさんと私、3人は、
彼らの母国へ旅立ちました。
何度も飛行機を乗り継いで、やっとたどり着いたところは、
いわゆる地方都市なのですが、私の印象はスキル・モラルともに
医療後進国と言わざるを得なかったのです。
入れ替わり立ち代わりにやって来る、白衣を来たスタッフが
いったい、どういうポジションなのか、一切わからず、
つぎつぎと、私は同じ話を繰り返し、同じ依頼をします。
スタッフは『わかった、わかった』と言うだけで、その場を離れます。
病院に到達してから3時間後にやっと、入院が決まり、
私とルイさんは、病院をいったん離れました。
当初では、私は予約してあるホテルに泊まり、翌日飛行機に乗って
戻る事になってたのですが、ルイさんは、
その国の人間はほとんどのヒトが英語を話せない事を心配して、
自分の家に泊まる事を勧めてくれました。
翌日も、空港に送っていけるので、と。
辿りついた、二人のアパートメントは、決して広くはないけど、
まるで新婚さんのような、愛いっぱいの住処でした。
疲れきった私たちは、宅配のピザを食べ、早々に休み、
翌朝、また病院に行って、初めて会った多分医師らしいヒトに
また、最初から病状の説明のやり直しです。
その後、直接空港に送ってもらい、その地を離れたのですが。。。
後日ルイさんから、連絡があり、現地の精査で
『予後不良、手術不可』との宣告を受けたとの事。
ルイさんは、治療の為に日本に行きたいとのことで、
現在、計画が進行中です。
私は思うのです。
彼女一人だけが、あの愛あふれた部屋に住み続けるなんで
考えられない。
そして、私は思い出すのです。
彼女は、病室のベッドに座った彼の足元にひざまづき
愛おしそうに両膝を抱え、祈るように顔を埋める。
彼は、そんな彼女の目尻に小さなにきびを一つ見つけ、
彼女の疲労を労う。
側にいるだけで、切なくて、眩しくて、愛おしくて
こんな二人の日々に、終わりが来ないよう、
願わずにはいられないのです。
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