・まだ,わたしの頭が社会の「進歩」についていっていないのでしょう.農業と言えば小規模,自営業というイメージが強いです.でも,先日ラン栽培の症例でもありましたが,農産物が「工場」で生産されているのこともあるんですね. 以下の様な症例報告がありました.私個人的には,とってもよい論文だと思いました.ぜひ,full textもお読みください.
エリンギ茸による職業性過敏性肺臓炎の1例
:宮崎洋生(袋井市立袋井市民病院 呼吸器科), 源馬均, 小清水直樹, 佐藤雅樹, 伊藤以知郎, 須田隆文, 千田金吾, 中村浩淑
日本呼吸器学会雑誌(1343-3490)41巻11号 Page827-833(2003.11)
【著者抄録】症例は52 歳,男性.1996 年より屋内でのエリンギ茸栽培に従事.2002 年1 月中旬より38℃ 台の発熱を認め,その後,呼吸困難が加わり2 月16 日当院を受診した.胸部X 線写真にて両側性微細粒状影を呈し,CT 写真では粒状影とすりガラス陰影を認めた.室内気での動脈血酸素分圧は65 Torr と低下していた.気管支肺胞洗浄液のリンパ球分画が増加し,経気管支肺生検標本に類上皮細胞肉芽腫および胞隔のリンパ球浸潤を認めた.入院後は速やかに自然寛解したが,エリンギ茸栽培に復職すると臨床像が再現された.エリンギ胞子に対する末梢血リンパ球刺激試験が陽性であり,患者血清中にエリンギ胞子に対する沈降抗体を認めたことから,エリンギ胞子による過敏性肺臓炎と診断した.日本におけるきのこ胞子を抗原とする過敏性肺臓炎の報告はすでに30 例を越えており,きのこ栽培者における職業性過敏性肺臓炎の予防が急務と思われた.
この論文の考察の最後に以下のような記述がありました。
・・・きのこ胞子による職業性HP が多数報
告され,きのこ業界でもアレルギー疾患が懸念されているにもかかわらず,いまだに大量の胞子を吸入する作業環境は改善されていない.本症は労働基準法施行規則35条「木材の粉じん,獣毛のじんあいなどを飛散する場所における業務または抗生物質などにさらされる業務によるアレルギー性の鼻炎,気管支喘息などの呼吸器疾患」に該当する業務上疾病である.従って,換気設備の改良や作業工程の自動化,定期健康診断などにより発症を予防すべきであり,最近では胞子発生の少ないきのこの開発もすすめられている.しかし,業務上疾病としての認識不足やコストの問題から十分な作業環境管理がいまだなされておらず,作業環境の整備と疾病に対する教育活動が急務と思われた.
ええこと言ってくれますねぇ。でも、この患者さん、労災申請したんでしょうか?
【その他,若干の補足】
・この患者さんは,N95マスクを使用して復職したそうです.それで,再燃はないみたいです.これで思い出すのは,私の経験例:自営のお味噌製造業で,味噌麹=Aspergillus oryzaeの過敏性肺臓炎でした.一般的に使用する防塵マスクで再発はみられませんでした.
・この論文は2003年の物ですが,この時点で,キノコ胞子による過敏性肺臓炎は,33例で,ほししいたけ12例,ナメコ10例,シメジ7例,ブナシメジ2例,エリンギ2例だそうです.
・キノコ関係の過敏性肺臓炎を診断する場合,気をつける必要があるのは,栽培しているキノコの胞子なのか,その他混入した真菌その他抗原となり得るものかですね.
・この「きのこ工場」は,以下の様に書かれていました.
エリンギ茸栽培施設は培養,生育,採取の作業工程により隔てられ,各部門の床面積は各々30~40 m2 だった.室内は年間を通して室温18~22℃,湿度70~80% に空調管理され,瓶につめたオガコと米ぬかを培地として高密度にエリンギ茸を栽培していた.換気装置は1 室に2 個程度の換気扇が壁に設置されていた
が,室内の至るところに胞子が堆積しており,大量に胞子が発育する環境としては相対的に換気設備が不十分であった.従業員によると,エリンギ茸が菌傘を開く収穫時には,エリンギ胞子の飛散により採取室内は濃霧のごとく胞子が充満する,とのことであった.
・あと,面白かったのは,「全国食用きのこ種菌協会」というものがあると書かれていました.色々み応えがある論文でした.
「ためになったな~ぁっ」(疑似もう中学生)
コメント
コメント一覧
防塵マスクで防げるのなら比較的お安い設備投資ですむのでしょうが、それさえもできてないということですね。
一人でも多くの関係者特に経営者管理者がこのブログを読まれることを祈ります。
エリンギもなめこもシメジもおいしいですからねえ。
かいわれ大根(あれは冤罪だったのですよね)の2の舞にならないように。
>Paul Carpenterさま、コメントありがとうございます。
食の安全のためには、一定のコストがかかるのは、仕方がないと消費者も納得しないといけませんね。そうでないと、一連の中国産の食品の問題のようなことがなくならないでしょうね。労働者の安全を考えて生産する食品は、当然消費者のことも考えられているはずです。
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