・最近はメタボリックシンドロームと言う言葉が「はやり」ですが,以前は生活習慣病ということばが「はやって」いたと思います.医学雑誌(とくに商業誌)の特集に,なんと「生活習慣病」の多かった事よ.
・メタボリックシンドロームは生活習慣病の延長線でとらえられているようです.それは厚生労働省のWebsiteのメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念といった解説をみても,そもそもの出だしが,「不健康な生活習慣」といったものになっていますから.
・ところで,生活習慣病という言葉はいつから使われだしたのでしょうか?行政上正式に使われだしたのは1996年(平成8年)12月18日の公衆衛生審議会の「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)」からだと思います.私は,生活習慣病という言葉の「氾濫」(と,私は感じました)の中で,この文書をきちんと読んだ医師・医療関係者がどれだけいるのか,疑問に思っていましたし,いまも思っています.
・ちょっとココでその内容を紹介したいと思います.(ぜひ原文をお読み下さい)
まず,「意見具申」では,疾病の発症について,図をもちいて以下のように述べています.(以下引用です)

図に示すように、遺伝子の異常や加齢を含めた「遺伝要因」、病原体、有害物質、事故、ストレッサー等の「外部環境要因」、食習慣、運動習慣をはじめとする「生活習慣要因」等さまざまな要因が複雑に関連して疾病の発症及び予後に影響している。
発症要因別の対策としては、「遺伝要因」に対しては、ヒトゲノムや加齢の機序の解明を踏まえた手法が必要であるし、「外部環境要因」に対しては、有害物質の規制や感染症対策などの手法が、「生活習慣要因」に対しては食習慣の改善や適度な運動、飲酒・喫煙対策などの手法が必要となってくる。
また、対策を講ずる主体を考えた場合、「遺伝要因」や「外部環境要因」に対しては個人で対応することが困難である一方、「生活習慣要因」は個人での対応が可能である。(以上引用,色を変えたのは私です)
つまり疾病発症の要因はいろいろあるが,とりあえず個人的にとりくみやすいのは生活習慣であり,まず,そこから(行政的に)手をつけましょうということです.当然のことですが,生活習慣病といわれている疾患も,遺伝や環境要因が関係しないといっているわけではありません.
この言葉の定義は以下のように述べられています.(以下引用)
(3) | 「生活習慣病」の定義、範囲及び「成人病」との関係 |
| 以上のことから、今後、生活習慣に着目した疾病概念の導入にあたっては、「生活習慣病(life-style related diseases)」という呼称を用い、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義することが適切であると考えられる。 「生活習慣病」の範囲については、以下に例示するような生活習慣と疾病 との関連が明らかになっているものが含まれる。
食 習 慣: | インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病等
| 運動習慣: | インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症等 | 喫 煙: | 肺扁平上皮がん、循環器病(先天性のものを除く)、慢性気管支炎、肺気腫 歯周病等 | 飲 酒: | アルコール性肝疾患等
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(以上引用)
また,この言葉の注意点として,以下のように述べられていますが,私はこれがとっても大切なことだと思います.(以下引用)
今回とりまとめた意見により、国民の間に「生活習慣病」という呼称が定着し、生涯を通じた生活習慣改善のための努力がなされることを期待する一方、このような個人の努力を社会全体で支援する体制を整備するとともに、個人の責任を強調するあまり疾患や患者への偏見が生じないような取り組みも合わせて期待するものである。(以上引用,色は私が変えました)
実際,私はある過労死の裁判例で,このような問題に直面しました.糖尿病,高血圧をもっておられたタクシー労働者の過労死(長時間不規則労働)の事案でしたが,ある有名な国立の循環器専門の病院の部長が,この労働者は,糖尿病,高血圧があるにも関わらず不摂生をしてため亡くなったのであり自業自得であるといった意見書を書いておりました.この意見書を見たとき,ひっくり返りそうになりました.まさにこの具申書が危惧していたことが起こっていたわけです.
・実は,今回のブログで言いたかったのは,最初に引用した図に代表される生活習慣病という疾患概念の決定的な弱点についてです.図では,外部要因,生活習慣要因,遺伝要因がそれぞれ独立して書かれています.それはそれで分かりやすいのですが,それらは独立してあるのではなく,互いに関連していると言うことです.特に外部要因は,生活習慣にとても影響を及ぼすということです.長時間不規則労働は,外部環境にあたると思いますが,これは食生活,運動,睡眠,それから喫煙にも,あらゆる生活習慣に影響をあたえるものと考えられます.そういった労働の視点が,生活習慣病という概念から見事に欠落されているのです.
・今回お国が力を入れるメタボリックシンドロームですが,労働条件の改善を忘れていくら保健指導をしてもなかなかうまくいかないのではないでしょうか.
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