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この高齢者を助け出せるのか?



最近、わたしが相談を受けた症例について...



患者さんはEさん...あ、ややこしいので、
Aさんとしておきましょうか。



 Aさんは87歳の女性。軽い認知症をおもわせるところはあっても、3ヶ月前まではそこそこ自分で自分のことはできて、介護保険のサービスを受けながらひとりで暮らしていました。トイレにも自力で行っていました。

自宅がお店になっていて、近郊に住む息子さんがほぼ毎日やってきてお店をやっています。お店にかかりきりなので、Aさんの世話は仕事の合間にちょっとずつという状況でした。



 3ヶ月前、Aさんはカゼをこじらせ、近くの総合病院に入院。肺炎ということで、点滴治療など受けました。しかし、元々それほど丈夫ではなかったので、3週間ほどの間に急速に体力が弱り、食事が入らないので、
鼻から栄養チューブを入れられました。

 さらに悪いことに、
腹部大動脈瘤が見つかりましたが、直径が7cmと大きく、いちおう血管壁は硬くなっているものの、もやもやエコー?があるようだと指摘され、動脈瘤の部分で血栓ができやすい状態であろうと言われました。

 要するに、肺炎がもとで、体力が落ちて寝込んでしまい、食事も満足に入らない状態となったわけです。



 総合病院の医師は、「体力を回復させるには、せめて1〜2ヶ月リハビリをしないと無理だろう、残念ながら当院に長期入院、リハビリのできる病棟はないので療養病院へ移って下さい。」と告げました。

     − − − − − − − − − − − 

 2ヶ月前、ケアマネが急いで探してくれた
療養型の病院に転院となりました。

 息子さんは考えました。上手く行けばAさんは、リハビリを受けて2ヶ月ほどしたら自宅へ帰れるだろう。もし、あまりよくならないときには、せめて鼻からチューブはやめさせたい。いや、実際、自宅へ連れて帰ろうとしたら、鼻からチューブは介護サービスを提供する側から断られる。となると
胃瘻(いろう:PEG)も検討しなくちゃ。



 ところが、現実は大違い。



 主治医は療養型病院の院長先生でしたが、めったに診察に来てくれませんでした。

息子さんが病室を訪れても、いつも寝かされっぱなしなので、体を起こしてみたところ、看護師から注意されました。「大動脈瘤があるので、体は起こさないで下さい。」

息子さんが「でも、リハビリのために来たのですから、少しくらい起こさないと。」

と言うと、看護師長がやってきて、「では、体を水平から30度くらいまでなら起こしてもいいことにしましょう」



 転院から1ヶ月経っても、リハビリどころか、寝かせるだけ。総合病院入院前はひとりで歩いていたAさんは、寝たきりで、起きることもできず、ほとんど声も出さず寝ているだけとなりました。



 息子さんは焦り始めました。「こんなはずではなかった。リハビリしてもらえると思って療養型に移ったのに、どんどん寝たきり状態が固まってくる。自宅に引き取ろうとしたのにこれではどうしようもない。」



 息子さんは、めったに顔を見ない主治医の院長先生に面会しました。

すると、院長先生から、思いがけないことばが...

「お母様は87歳ですね。長生きされましたね。もう十分生きられたのですから、あまり無理をせず、できるだけ自然に任せましょうね。」

「今の状態でリハビリを進めるのはかわいそうではありませんか? 楽にさせてあげましょう。」

「え? 胃瘻(いろう:PEG)ですか? なにせ、大きな腹部大動脈瘤もありますしね。私の方からは何とも申し上げられませんが...。そんな無理をしなくても..。」

「もし、どうしても、ということでしたら、前の総合病院の担当医の方に相談して頂けますか?」



息子さん、ショックを受けました。



え? ど〜いうこっちゃ!?



 母は治療は受けられないのか?

 2ヶ月前は歩いてたのに?

 ろくにリハビリもしてくれない?

 寝たきりのまま朽ち果てろってか?

 動脈瘤はどうしたらええんや?

 胃瘻は作れないのか?

 自宅へ引き取ることはもうできない?



そら、あんまりや!



息子さんは、思い余って、私のところに相談して来られました。



息子さんから、上記のような経過と状態をお伺いして、私は知っていることを正直にお話しすることにしました。



動脈瘤は、4、5cmを越えると破裂の危険が高まると言われています。

7cmですから、血管壁が固まっていると言っても、血圧次第で危険でしょう。

全身状態さえよければ、高齢でも手術することはあります。高齢化社会ですから。

ただ、今のお母様の状態での手術はバクチでしょう。



 胃瘻は胃カメラさえできれば作れますから、よほど動脈瘤の部位が悪くなければ可能でしょう。ただ、引き受けてくれる病院は多くないかもしれません。



 今、入院されている療養型の病院は、いわば「看取り専門病院」のようなものです。

積極的な治療は何もしない。

 静かに死んでくれるのを待つ、そんな病院でしょう。

 なにせ、療養型病院の中には、「治療をしない」つまり、投薬をできるだけしないのをウリにしているところすらあります。「できるだけ自然に」という言い方で、「治療を放棄している」のです。

 療養型は、1ヶ月の診療報酬が決まっています。治療費も検査費もその中に含まれます。ですから、薬をたくさん出したり、検査をたくさんやったら病院の取り分がなくなってしまいます。経営のためには、薬は出さない,検査はしない、これが一番いいのです。

厚労省は、診療報酬をぎりぎりまで削っていますから余裕がありません。ろくな治療を受けられない、ろくな検査も受けられない、それが日本の療養型病棟です。

息子さんは、療養型の診療報酬のことを全くご存知ありませんでした。私の説明を聞いて、「はぁ〜...そ〜だったんですか...」と、がっくりきていました



 むろん、療養型の中にも、かなり治療をしてくれる病院もあります。

残念なことに、お母様が入院された病院は、前者の病院だったようです。

主治医が院長、主治医がめったに診に来てくれない、なんてのは、そういう病院でしょう。



息子さんが尋ねられました。

私は、そんな病院から、母を救出したい! できれば自宅へ引き取りたいです。

どうすればいいんですか? 何かいい方法があるのでしょうか?」



私は答えました。

「2ヶ月経っていると、かなり状態が悪くなってしまっている場合もあり、無理かもしれませんが..」

「うまく行けばの話ですが..」

「まず、二つの病院と相談します。集中治療のできる総合病院と、療養型の病院です。」

「総合病院に入院してもらい、胃瘻を作ってもらいます。その際、動脈瘤の検査もしてもらいます。」

「胃瘻を作ってから、一旦療養型病院へ移ってもらいます。その間、総合病院で動脈瘤の手術ができるかどうか、判断してもらいます。」

「手術可能なら、総合病院へ再入院し、手術してもらいます。それが無理なら、胃瘻の状態で栄養管理とリハビリをしてもらい、できるだけ状態を良くして自宅へ引き取る準備をします。」

「自宅へ戻られたら、しかるべき知識を持った医師に往診してもらって自宅療養を続けます。もし適当な医師が見つからなければ、私が往診させてもらいます。」

「問題は、高齢で寝たきりとなってしまわれたお母様を引き受ける病院がすぐに見つかるかどうか、です。」

「とにかく、急いで探してみます」




   ===============



 さて、ネットの世界には、医療費を使いすぎる高齢者など、さっさと死んでくれ、みたいなカキコが至る所にある。そんな人でなしには興味はないが、巧みに陰湿に医療費削減のため高齢者を悪者呼ばわりし、平等な医療を受ける権利すら奪ってしまった厚労省こそは、まさに「死神」呼ばわりされてもおかしくないと思うのだが、どうだろう?



 なお、医師免許を持ちながら?医療崩壊の進行に全力を傾けた厚労省の某課長は、その功績を讃えられ?、みごと、環境省の部長にご栄転されたとか...。

 5分ルールの元になるデータ(グラフ)を作った手腕も評価されたのでしょうね。なにせ、時間外診療の調査データから、ふつうの診療の時間が5分以上、という、ありえないデータをひねり出されたんですから....

(murajun先生による)



 わたしたち医師は、高齢者を守ることができるのか...?

 ほとんど高齢者集団である日本医師会の執行部が後期高齢者医療制度を守ろうとしてるのには、空いた口が塞がりませんな...。



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コメント

コメント一覧

 先生、お久しぶりです。
 今回のエントリー、かなりショックでした。というのは小澤勳先生の著作を読んでいたので、療養型病棟でも ADL の維持等行われていると信じきっていたからです。
 医療法人で通常の医療を行う病棟と療養型で自宅復帰を目指す病棟を併せ持つところって、少数派なんでしょうか。
written by 絶滅危惧種IA類 / 2008.07.12 05:15
絶滅危惧種IA類さま、お久しぶりです。
とりあえずお答えできるのは、「療養型もいろいろ」ということです。
病院により、かなり違うようです。
written by Doctor Takechan / 2008.07.12 09:28
確かに療養型の場合はこのような病院が多いですね。
療養型病院の先生の多くは、他を引退なさったご高齢の先生方が多く、最新の医療知識について、特に専門外の分野についてはご存じない先生もよくお見かけします。

ただご家族のご希望があるのであれば、治療を放棄するべきではないでしょう。

Doctor Takechan先生のお書きになった文面から判断させて頂くと、食事が入らないこと、大動脈瘤があること以外はほとんど問題無さそうですから、治療する余地はあると思います。

元血管外科医である私の立場から申し上げると、胃瘻留置が必要かつ高齢者であれば、サイズの大きい腹部動脈瘤のリスクコントロールには比較的低侵襲であるステントグラフトの最も良い適応と考えます。
(もちろん最近では90歳代でも腹部動脈瘤開腹手術が行われることがありますが、これは全身状態が相当によい場合です)

胃瘻を作ってしまうと、グラフトという異物を入れる通常の開腹手術はやりにくいため、後腹膜アプローチを考慮すべきですが、この場合右腸骨動脈遠位部まで病変があると、手術もやりにくい。高齢者の場合特にそうです。従って、もしご家族に治療の希望があるのであれば、ステントグラフトの適応を考慮して見ることがいいのかな、というのが、私の考えです。

差し出がましくてすみません!
written by よね様 / 2008.07.12 11:00
追伸。

「腹部大動脈瘤であるから、ベットに安静にしなければならない」というのは、昔の迷信です。これには医学的根拠(いわゆるエビデンス)はありません。

80歳代後半の活動性であれば、通常の生活については、全く支障ありません。

この病院の院長先生の知識は相当に古いのではないか、と思われます!
written by よね様 / 2008.07.12 11:05
よね様先生、詳しい情報有難うございます。
 血管外科というと、当地では以前は丸太町病院院長だった佐藤先生にまず相談したのですが、今年若くして亡くなられましたので、誰に相談しようかと思っていたところです。相談の際、頂いた情報を参考にさせて頂きたいと思います。

なお、このような状態で寝たきりになった患者さんに対しては、内科的には、アスピリンやワーファリンなどで血栓形成を抑制し、微小循環改善をめざしたいところ。その上で、アリセプト、シンメトレルなど脳細胞を活性化させる可能性のある薬剤を試みたいところです。(改善するかどうかは年齢を考えると、神のみぞ知る、ですが)胃ろうが作れて、栄養管理がうまくいけば、さらに改善の可能性は上がると思います(療養型では、栄養量すら十分に与えられているかどうか、分からない面がありますから)。
written by Doctor Takechan / 2008.07.12 14:59
なるほど。
まずは活動性と全身状態の改善から、ですね。

もしその次のステップへ、という時には、京都ならば、京大循環器内科診療科長の木村剛先生が、ステントグラフトを含めたカテーテルインターベンションの名手です。
私のところの助教の御母堂のPCIをお願いしたこともありますが、大阪のあらゆる病院で見放された冠動脈グラフト留置を、見事に成功なさいました。
とても親切で腕がよい先生ですので、内科的治療が奏功した場合には、木村先生へご相談頂くのも一考の価値有りと思います。

またまた差し出がましくてすみません!
written by よね様 / 2008.07.12 15:31
私もPEGに賛成です。まず全身状態の回復から・・。しかし2か月の時間が惜しい。AAA患者のリハビリに関しては破裂したときの対応を家族と話し合っておいた上で(破裂したら総合病院内の発症でも救命されるとは限らないから天寿と考えていただき訴訟にしないという合意もとっておく)厳重な降圧管理のもとでせざるを得ませんね。ただ神経内科的には脳循環の問題は確かにつらいものがあでしょう。しかしサイズを考えるとやむを得ません。WFのたぐいは現時点できびしいかも・・?です。ステントグラフトはもちろん考慮にいれるべき選択だと私も思います。
 厚生省が病院の<機能分化>をすすめたのが根源?転院の時点でのミスマッチもありますが、高度機能病院の敷地内に十分な療養施設が併設できにくい制度がやはりおかしいと思います。総合病院の先生ももうすこしリハビリ先を考えてくれば・・という意見もあるかと思いますが、現在の診療報酬体制ではかなり難しいと思います。もともと療養施設を潰したいのが厚労省の本音なのですから。
 
 先生の御奮闘に敬服。この患者さまの治療の成功を祈っています。よね様先生の的確な御助言・・・さすがです・・。  あ、せんせい、2番手で御免なさい・・・・・・・。
written by kamapapa / 2008.07.12 19:14
よね様先生、それにkamapapa先生、本当に有難うございます。
 これぞネットの威力、いや〜,ブログ書いててよかった、としみじみ思います。果たしてこの患者さんが助かるのか、私にも全く分かりませんが、非常に有難い助言の数々、是非参考にして、これからの対応を検討したいと存じます。

それにしても、2ヶ月は大きいですね。動脈瘤部分のもやもやエコーも非常に気になります。こういう患者さんは血小板凝集能がかなり亢進している場合が多いですしね。手遅れでないことを祈るばかりです。

ちなみに、うちの親父は、数年前、半年にわたり寝たきりボケボケ状態に陥ってましたが、いまはぼちぼち歩いています。冗談もいいます。
薬漬け医療バンザイでございます。
written by Doctor Takechan / 2008.07.12 21:49
胃瘻+ステントを行っても、ADLはベット上のままでしょう。家庭環境を考えると、在宅での介護は難しいのではないでしょうか。息子さんは療養型病院に対しての不信感が強いようですし、施設入所もすぐには無理でしょう。となると総合病院から次の受け入れ先が見つからず、ベット塞ぎになる可能性があります。最悪寝たきりになったはあんなひどい療養型を紹介した総合病院のせいだ!ということになりかねません。
このような患者さんをたくさん診ています。どこまで治療すべきか日々悩んでいます。
written by たくをくん / 2008.07.12 21:52
“たくおくん”先生、有難うございます。
 先生のお気持ちはお察しします。
 頼まれても困る、という現場の先生が増えていると思います

私も、医療制度による制約が非常に厳しいのは百も承知です。
 時間がかかっては意味がないのですが、それでも下準備を十分してからお願いしないと、各方面の先生方にご迷惑をかけてしまうのが辛いです。

 てめえのミスにはほおかむりの厚労省に、なぜわれわれ医療者が神経をすり減らしながら押し付けられた規則を守らされているのか、おかしいですね。
 例のタチの悪いブログで、医者はマゾだからこうなった、みたいな書かれ方をするのも、このあたりかな?

 でも、このような患者さんをすべて見捨てよ、という厚労省の制度設計にはとりあえず抵抗してみたいと思います。人間としての尊厳を取りもどしてほしいと願っていますので、まずはチャレンジです。
written by Doctor Takechan / 2008.07.13 09:59
<人間・・・まずはチャレンジです>

 あつかふぇ先生も先生もあっついですね!ちなみにわたしは今冷やしトマトを食べながらカキコしています・・・。
written by kamapapa / 2008.07.14 20:23
冷やしとまと...いいですね..
 (とまとさま、熱くなりすぎてないかな..このまえ40℃とか言ってたし)

  あ、あ、,,ひとりごと..でげす

ところで、とまとは塩? 砂糖? マヨネーズ? 何もなし?
私が小さい頃、祖母は、冷たいトマトに砂糖をちょっとかけて、「これ、デザートみたいやろ!」といって食わせてくれました。
そのせいか、中学くらいまで塩味のトマトジュースが想像を絶する恐ろしい味の飲み物と感じてました。今は好きですが...。
written by Doctor Takechan / 2008.07.15 00:31
えっ!?トマトに砂糖でデザート?\(・・)/先生の御祖母さまは<京都のがばいばあちゃん>?

 冷えたトマトに海塩と冷酒1合(玉乃光など)・・夏の私の季語となっています・・・。
written by kamapapa / 2008.07.15 21:26
kamapapaせんせい、ありがとうございます
 そうですか、先生はいいご趣味(?)をお持ちで..。

飲めない私ですが、玉乃光は京都伏見の銘酒ですね。
私の友人に、酒は玉乃光しか飲まない,買わない、ってヤツがおります。
 その友人宅へ行くと、必ず玉乃光です。

ま、わたしはあんまり飲めないんで、“たまにちびり”くらいですかね。
written by Doctor Takechan / 2008.07.16 02:33

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