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<もうひとつのEBM>
Atsu先生が、EBMについての批判を書いておられたので、私からもひとこと。
いわゆるEBM、evidence based medicineとは、私のような古い?人間にはなんとも居心地の悪い医療の世界です。
はっきり言って、統計的に有意であるような治療は、かなりの部分、薬品メーカー主導で行われます。そして、統計的に調査をしなかったあらゆる治療法にエビデンスは生じません。つまり、調査したことのみに対する統計的証拠というだけのことであって、そのエビデンスに基づいて投薬したら、一応、有効である可能性が高い。でも、それ以外の治療法が効かないのか、と言われればそうとも限らない....
なんとも、すっきりしない話です。
私としては、もうひとつのEBM...
つまり..experience based medicine
の方が、はるかにわかりやすく、信じやすいものであります。
EBM、evidence based medicineの気に入らない点を例に上げてみましょう。
例1)古くからあるAという薬剤がXという病気によく用いられているとします。これらについては、古い治験データのみ存在するとします。そこにBというAによく似た新薬が開発され、エビデンスを得るため大規模な調査が行われ、病気Xに対する有効性のエビデンスを得たとします。
この場合、EBMの立場では、古いAはエビデンスがないか、もしくは弱いエビデンスしかない。一方、新薬Bは高いエビデンスが与えられます。
でも、経験的に、Aがよく効く例が結構多い、という場合、どうしましょうか?
(こうなると、適応病名がどうか、ということの方が問題となりますよね...)
例2)では、適応病名、適応外病名という点について...
もし、あるご老人が不眠でいらいらする、頭が重い、ときにふらつく、と言ったとします。
では、このような症状に対するエビデンスを持つ治療は何か?(ちなみに頭部画像診断ーCTかMRIーでは、ごく軽度の加齢による白質病変程度、血圧、脂質は境界線あたり、としておきましょうか....)
一般的に、このような、複合要因と思われる症状についてのエビデンスは、まず存在しません。だって、こんなややこしい症状をまとめてエビデンスを得るための治験を考えること自体、至難の業だからです。
では、experience based medicineならどうか...?
これこそ、古い?医者の出番かもしれません。
経験という引き出しがたくさんあるからです。
効くかもしれない治療法を挙げてみましょうか?
1)アスピリン:血小板凝集能が亢進している老人では、頭の重さ、ふらつき、イライラなどを訴えることがあります
2)デパス(などの抗不安薬=minor tranquilizer):老人特有の不安感がこのような症状を起こしているかもしれません。筋弛緩作用の強いデパスなどが効く可能性があります
3)セレネースやドグマチール(などの向精神薬=major tranquilizer):脳機能が低下して、せんもうを起こす手前でこのような症状が出ることがあります
4)デパケンなどの抗てんかん薬:精神安定作用があります。はっきり脳波異常がない人でも効く場合があります。精神科の先生がわりと好きな処方かも知れません
5)ロキソニンなどの鎮痛消炎剤:とりあえず痛みだけ抑えたらすっきりする患者さんもいます
6)トレドミン、パキシルなどの抗うつ薬:実はうつ傾向だった、ということもあります
7)アロフトやリオレサールなどの抗痙縮薬:頚椎症などがあって肩や首の筋緊張が強い場合、効くことがあります
8)血圧降下薬:実は軽い高血圧で、夜に高くなる場合、このような症状が出ることがあります
9)睡眠薬:不眠だけ治せば、他の症状が消える患者さんがいます
10)...う〜ん、もうないか...あ!、高脂血症をしっかり治療すると、頭痛、肩こり、めまいがなくなる人がいました
さて、このような治療にいわゆるエビデンスは存在するでしょうか?
言わせてもらえば、エビデンスなるものは、玉石混淆で、非常に重要なものもあれば、とにかく統計で有意と出たものの、あくまで引き出しの一つに過ぎないという程度のものまでいろいろです。
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エビデンス至上主義の先生方の多くは、メシを食うためエビデンスに凝り固まっているだけだったり、研究費がほしかったり、あるいは、初心者の医者でも大きな間違いをしないため、とりあえず有効といわれている方法を薦められるか...そのあたりではないでしょうか?
一番困るのは、“そんな治療やってエビデンスがあるのか!”と怒りまくる先生でしょうか。
要は、患者様をいかに観察、診察して症状を軽くするか、ということですから、あくまでEBM(エビデンス)は絶対ではなく、引き出しのひとつ、と考えておくべきかと思います、
なお、エビデンスが非常に重要且つ難しいのは...
がん治療(手術、化学療法、放射線療法etc.)、手術法などではないでしょうか。特に訴訟が絡むと、がぜんエビデンスの存在が大きく見えてしまいます。
法曹界の先生方に特に申し上げたいのは、エビデンスがすべてではない、エビデンスは引き出しの一つである、という科学的事実であります。どうしても論拠に基づいて話を組み立てる職業ですから、権威に依存するのは仕方ないかもしれません。しかし、エビデンスの何百倍、何千倍の経験、experienceをしている臨床医が全国にいることを忘れてもらっちゃあ困ります。
同様に、一流大学の教授がいつも正しいとは限りませんし、専門医の集合体である学会の言うことがすべて正しいわけでもありません。
全ての医者が同じexperienceをしているはずはありませんし、そこにエビデンスが入り込む余地があるのも事実ですが、より科学的な真実は、目の前の患者に対して最適な治療とは、やってみて初めて証明される性質のものであります。
本日の記事、内科医の発想ですから、外科や産科の先生に納得頂けるかどうかはわかりませんが、私は、エビデンスよりもexperienceを信じたい性格です。
研修医など若い先生方は、エビデンスに頼りつつ、エビデンスだけではいかに医療がうまくいかないものか、是非、experienceを重ねて頂きたいと願っています。
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コメント
コメント一覧
若い研修医の先生も経験ある医者のもう一つのEBMを聞きたがっているのはないかな~と楽観的に考えています。
1から10の投薬、たいへん参考になります。
>なお、エビデンスが非常に重要且つ難しいのは...
がん治療(手術、化学療法、放射線療法etc.)、手術法 などではないでしょうか。特に訴訟が絡むと、がぜんエビ デンスの存在が大きく見えてしまいます。
Takechan先生、おっしゃるとおりでまったく同感です!
現場を知らない、もしくはエビデンスおたくなDr.が最近ふえていますね。
TBさせていただきました。
がん治療などは、エビデンスの全くない治療をしたりすると、あとで大変なことになるかもしれませんし、やはりエビデンスを無視できないと思います。一方で、不定愁訴のような、実は日常診療で非常に多い症状になると、かえってエビデンスが邪魔をすることがよくあります。薬品の適応外使用をもっと積極的に認めてくれ!、といつも思っています。
それと、MRSAの治療など、抗生物質の種類の少ない病院でやろうとすると、エビデンスなど役に立ちません。実際、3年間精神病院の内科に勤務したとき、MRSAの多さにびっくりするとともに、MRSAでめったに死なない!、ということを強く感じました。
でも、新薬Bがある疾患に効くかどうかのRCTは、Bを投与した患者と、プラセボを投与した患者とを比較したものなのですよね。そうだとしたら、新薬BがAよりも有効だとは言えませんよね。
それに、外科的治療の場合は、手術をした患者と、しないで様子を見る患者と、比較試験をすることができるのでしょうか?倫理的に問題にはならないのでしょうか?
EBMという考え方を最初に知った時は、なるほどと思いましたが、今はいろいろ疑問を感じるようになりました。
ただ、EBMに準拠した治療を原則とすべきところと、全くEBMでは歯が立たず、experienceを信じた方がいい場面があることは確かです。早い話、感冒、上気道炎の治療など、EBMに依存するだけでは、外来患者さんの信頼を得ることは難しいように感じます。ありふれた疾患・病態ほどEBMの専門家が興味を示さないのではないでしょうかね?
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