私のクリニックにひとり中国からの留学生が来ている。某有名大学に通い、一流企業への就職を目指している彼女が私のところを訪れたのはもう7〜8か月前だろうか。その少し前、彼女は、いろいろ悩み事があり、考え込んでいるうちに、過換気の発作を起こしたらしい。そして、手足がしびれて動かなくなり、恐怖におびえたらしい。そして、激しい動悸、不安感が生じた。以来、少し悩むことがあると不安発作のような症状、頭痛、動悸、頻脈、呼吸苦などが生じ、勉強に励むことができなくなった。他の病院であまり納得のいく治療を受けられなかった、と言うことで、たまたま、私のクリニックを訪れたのだった。私は精神科医ではなく、神経内科医であるが、過去にある程度は精神的な疾患の治療も試みた経験があるので、とりあえず引受けることにした。===========================================================抗不安薬と抗うつ薬を組み合わせて処方し、念のため頻脈については同期の循環器の医師に検査を依頼した。幸い、心臓は特に問題なく、やはり心因性だろうということだった。中国からひとり異国へやってきて、ホームシックも重なっているのかな?、とも考えた。薬を少し変更したりしながら治療を続け、彼女は初診時の不安げな表情が少し明るくなったようだった。でも、大学で勉強していると時々軽い発作が出るとのことで、結局、彼女は4月から大学を休学することを決めた。5月に受診してからしばらく姿を見せなかったが、その間、彼女は中国に3か月ほど戻っていた。しかし、実家で彼女を待っていたのは辛い現実だった。彼女の親は娘に過大な期待をしていた。そして、彼女が病気であることをなかなか納得してくれなかった。いろいろ考えて悩んで、また頭がぼーとして不安になり、動悸がしてくると、私が処方した薬を服用して何とかしのいでいた。しかし、それも底をつき、地元で精神科の医師にかかり薬をもらったようだ。=====================================================ところが、母国で貰った薬を服用すると、目がぼやけ、頭が重くなり、動悸がして、食欲がなくなり、便通までもおかしくなったという。今日、疲れた顔をして彼女は4か月ぶりにやってきた。大阪に住んでいるのにわざわざ京都の私のところにやってきた。他の医者には行きたくないという。ボクは精神科ではないんだけど...と、ちょっと困った顔をして言ってみた。でも、彼女はそれでもいいから診てほしい、という。そこで、まず、彼女が母国で処方された薬を見てみると、何と、ジプレキサ(非定型の向精神薬で、分裂病などに使う薬、メジャートランキライザーの一種)と日本で未発売のSSRIだった。そうか、彼女にジプレキサはちょっと違うな。SSRIも消化器症状が出てるんじゃないかな。彼女が聞いた。<<先生、このままこの薬のんでもいいんですか?。<<うーん、難しいところだけど、あなたには安定剤がいいと思うよ。あなたにこのジプレキサはきついなあ。もし、あなたがよほど重症なら有効かもしれないけど、多分飲んだらまたぼーとするよ。もうひとつのも、食欲が落ちるかもしれないからやめといた方がいい。5月にボクが処方した薬だったら、そんなにいろんな症状出なかったでしょう?。<<はい、前の薬飲んでたときはわりと安定していた。=========================================================という訳で、コンスタン、トレドミン、デパス、胃薬などを処方し、彼女にもう一度聞いた。<<大阪からここまで遠いけど大丈夫?。<<う〜ん、でも、やっぱりここがいい。実は、半年休学したけど、もう半年休学することにした。できれば来年辺りは就職したいと思っている。<<そうか、あんまり無理したら駄目だよ。ゆっくりね。=================================================彼女はどんな人生を歩むのだろう?。親の大きな期待に押しつぶされそうになりながら、彼女は何とか踏みとどまっている。狂いはじめたこの国で、異文化で育った彼女はちゃんと仕事をできるようになるのかなあ?。芯は強そうだし、頭も良さそうだし、能力はきっとあるのだろう。あとは、周囲の理解かな。親も就職先もだ。彼女がどんな人か、外来の限られた時間で理解できたわけではないが、何となく応援したくなる。がんばれよ。ついでに、日本人に対する変な誤解をしないように成長してくれよ。
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