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まだ、二日酔いです。
だめだこりゃ!
スポーツ外科医の続き
M医師は、タケローの質問に答えた
「回復の可能性は、極めて高い。しかし、副作用が分からないのだよ。」
「それは、どんな治療なのですか?」
藁をも掴む気持ちでタケローは尋ねた。
M医師は、小さなバイアルを机の引き出しから取り出した。
「この薬なんだが・・・。これは、私が以前、関東大学に居たときに開発したものなのだ。」
M医師は、真剣にタケローに解説し始めた。
「これは、神経成長因子の一種といえる。神経変性疾患の治療薬開発段階で、発見された成長因子の構造を一部強化したものなのだ。」
「どんな効果があるのですか?」
タケローは、よく分からないが、この不調の原因から脱出できるのなら何でも試す気持ちでいた。
「動物実験では、神経変性モデルラットに投与することで、変性の進行が止められるだけでなく、さらに、神経成長により症状が完全に無くなっている」
「それは、すごいですね。これを使えば、僕も治るのですね」
M医師は浮かない顔で答えた。
「たぶん、治るだろう。ただ、問題がないわけではない・・・」
「問題って何ですか」タケローは不安そうに聞いた。
「ラットでは、特に副作用らしきものもなく、何ら問題がなかった。しかし、寝たきりのアルツハイマー病の患者に投与したところ、痴呆症状は改善し、3ヶ月後には、ほぼ同年齢の人と同じような知能と運動能力を獲得している。」
「すごいじゃないですか、どこが問題なんですか?私にはどこも悪くないように思いますけど。」タケローは希望にあふれていた。
「タケローさん、焦ってはいけない。まだ、その先があるのだよ。」
M医師は続けた。
「6ヶ月経ったときの時のことだった。記憶力は通常の人間の数倍に達したのだ。円周率を小数点第千位くらいまで、簡単に覚えておった。もともと、教育者で あった彼は、教育の専門書やら教育関係のあらゆる本を読破していった。それはそれは、素晴らしいことだと我々も初めは考えていた。しかし、それは間違い だったのじゃ。」
タケローは不思議そうに質問した。
「何が間違いだったのですか?」
M医師は答えた
「彼は、よりよい教育を考え出そうとした。実際、彼の考えは素晴らしかった。しかし、彼は次々に自分の教育理論に問題点を見つけ出した。そして、それを修 正し、より完璧に近い教育原案を考え出した。だが、現代の社会状況、政治的、経済的な状況に照らし合わせたときに愕然としたのだ。彼の理想とする教育を実 践するには、余りにも改革する事が多すぎたのだ。法律のみならず、今いる教師や生徒とその家庭そのものを変えなければならない事に気付いたのだ。そして彼 は、施設を飛び出し、ライフルを持って学校に立て籠もった。必死に教育改革を訴えた。しかし、世間の目は冷たい。彼を認知症患者の暴走としか思わなかっ た。そして、結局彼は、持っていたライフルで自らの命を絶ってしまったのだよ。」
タケローは絶句した。
「我々の開発したこの薬は、最終的には何の価値もなかったのだよ。興味のあることに集中する余り、世間との歪みが生まれ、その狭間で潰れてしまうのだと考え、この薬の臨床での応用は中止したのだ。」
「ただ、タケローさんだったら・・・、元々超一流のアスリートであれば、どうなるのかなんて考えてしまったのだ。なんか期待を持たせてしまって、済まなかった。この話はなかったことにしてくれ」
「先生、待って下さい。私は野球にしか興味のない男です。一応、今もトップアスリートとしての自負もあります。何も問題もないのではないでしょうか?是非、私にその薬を投与して下さい。今のままでは私は生きていけません。お願いします。」
タケローは、必死にM医師に頼み込んだ。
「うーん、分かりました。ただし、半分の量で試してみましょう。それで、ダメなら諦めて下さい。それと、もしも、自分に対して疑問を抱いたときには直ぐに私の元に来ること、いいですね。」
M医師は、タケローに同意書を渡した。
「ありがとうございます」
タケローは、同意書にサインをすると、早速、点滴による治療を行った。
治療が終わったタケローは
「先生、今のところ変わりありませんが、半分の量では足りないのではないですか?」
とたずねた。
「タケローさんは、意外にせっかちなんだね。いくらなんでも神経の成長はそんなに早くはないよ。最低でも3ヶ月はかかるよ。焦らないことだ。ただ、何かあれば直ぐに来ること、約束だぞ!」
M医師はタケローに念を押した。
1週間ぶりに、タケローは先発復帰した。
5打数1安打で、特に目立った活躍をしたわけではないが、タケローはホッとしていた。
何しろ、たった1本のボテボテの内野安打だったが、それがタケローには自信となった。
「先生、今日は、足が絡むような感覚はなく、まだバランスは悪いのですが、内野安打が出たことに喜んでいます。上半身と下半身のシンクロができてくれば、当たりも戻ってくると思います。ありがとうございました。」
タケローは、M医師に電話で報告した。
「それはよかった。でも、タケローさんの努力成果だと思うよ。ところで、何か変わったことはないかね?」
「特にありません。気分的にはすごくいいです。」
タケローは明るく答えた。
その後タケローは徐々に調子を上げてきた。
2割を切っていた打率は、徐々に上がり、1ヶ月後には3割を超えていた。
テレビでの活躍を見る限り、特に大きな変化はないようだ。見た目には調子が完全に戻ったタケローであった。
治療から3ヶ月して、暑い8月になっていた。
もともと、夏に調子がいいタケローだ。打率が上がるのは当然かもしれない。
しかし、M医師は少し不安に思っていた。
タケローの打率は3割5分に達していた。タケローにとっては大した数字ではない。
しかし、その内容である。タケローの特徴である内野安打が少ないのだ。
アウトになったものも含めて、ほとんど芯で捕らえているのだ。たまたま、野手の正面でアウトになっているだけのような気がしてならない。
このまま行くと、打率4割を楽に超えてくるのでは?
M医師は、タケローに電話をした。
「タケローさん、どうかね、何か変わりはないかね?」
「あっ、先生、お陰様で絶好調ですよ。ボールが止まって見えるって本当なんですね。それと、思いどおりに体が動かせて怖いくらいですよ。ただ・・・。」
タケローの声が変わった。
「ただなんだね。何か異常でもあるのかね。隠さず言ってくれ。」
M医師は、焦りを隠せなかった。
「ただ、僕がこれだけ成績を上げてきているのに、チームは全然ダメ。負けてばかりでしょ!それが辛いんですよね。昨日の試合も、最後の投手リレーが間違い で負けたようなものですよ。あの場面での、監督の采配は、なっていないですよ。戦術的にもミスが多すぎます。それが、分かるからこそ、頭に来るんです。」
タケローは少し興奮しながら話した。
M医師の悪い予感は当たっているようだ。
以前のタケローは、決して、監督やコーチを批判するような事はなかったのだ。
「タケローさん、監督やコーチ、チームメートをどのように思っているんだね?」
過激な発言が出るようなら、ドクターストップが必要とM医師は考えた。
「あっ、大丈夫ですよ。監督もコーチも尊敬していますし、サインには従いますよ。チームメートとも仲良くやっています。ただ、最近のチームの負けが続いているので、つい興奮しちゃっただけですよ。僕は僕の仕事を熟すだけです。それでは筋トレの時間ですから失礼します。」
いつものタケローのような気もした。でも、何かが違うとM医師は感じていた。
続く(手抜きでごめんなさい)
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