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日本で英国:イギリスの医療が話題にされる時は、未だ「医療荒廃」「待ち時間が長い」「ゲートキーパー」「受診制限」の4点で引用されることが多く、ほとんどの場合、1990年代の古い情報をもとにしていらっしゃるようです。近藤克則先生の本「医療費抑制の時代」を超えて―イギリスの医療・福祉改革」 や、最近では森臨太郎先生の本「イギリスの医療は問いかける 「良きバランス」へ向けた戦略」などで、この10数年の英国医療制度の変化や現状についてくわしくそして分かりやすく報告されていますが、今回私は医療政策側面を軸に英国の医療改革について、日経メディカルに寄稿させて頂きました。夏に行なった講演内容の改訂版です。

----------(以下、引用です)

日経メディカル 1月号 p48-51

英国の医療改革に学ぶ

医療費を増やし、質の向上を目指す

英国の医療制度の根幹をなす国民医療サービス(NHS: National Health Service)は、2008年で満60周年を迎えた。NHSは「診療時点での患者の自己負担をなくし、英国に居住する誰もが、お金の心配をせずに診療がうけられる」という受診時の公平性を謳って1948年に設立された。

(中略)

08年にはNHS60周年を記念して、様々な記念行事が行われ、改めてその意義や効果が確認された。中でも、6月に公表された、今後の医療制度改革の方向性を包括的に示した報告書である『High Quality Care for All』(通称ダルジ・レポート)が、注目を集めた。ダルジ・レポートは、現役の外科医でもあるダルジ保健政務次官率いるチームが、1年間かけて完成させた報告書で、現場の医師や看護師は当然のこと、ほかの医療従事者、患者や住民との意見交換を経て完成させた、今後の英国医療政策の基本方針である。これは過去10年間の労働党政権による継続的な医療制度改革の成果の上になりたっている。 …(以降、たっぷりとつづく)

----------(引用おわり)

手に取って、読んで頂ければと思います。

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:ご近所の公園

医療政策の話しをしていると、「イギリスの医療は待ち時間が長くて直ぐに医師にみてもらうことができない。日本の方が、平均寿命も長いし新生児死亡率も低い。かつフリーアクセスでWHOの評価では世界一じゃないか。イギリスの制度を日本に導入する必要はない。」という反発をよく頂く。

こういう反発を聞く時にいつも、うちのクリスマス前の会話を思い出す。

何気なく家族が「おとなりのお父さん、クリスマスのディナーを毎年料理するんだって!ターキーの準備をもうしているらしいのよ!」なんて言った時に、なんだかうちのお父さんとしては居心地わるくなって、「なんだうちも私が料理しろってことか」と勘ぐってみたり、「いつも皿洗いとゴミ捨てしてるじゃないか、お隣はしていない」、と強がってみたりしたくなった私。うちの家族としては、「そういうひともいるんだ」くらいの日常的な報告だったかもしれないのに、なんだか的外れな指標を引き合いに出して、自己防衛を図ろうとする。

ちょっと冷静に考えてみたら、お隣のおとうさんは料理人だったり、小さい頃から(なんらかの理由で)家庭でお母さんと料理をしていたりする、かもしれないなんて、お父さんの背景が違うかもしれない。もしくは、おとなりはお母さんが年末商戦のデパートの仕事で忙しく、泣く泣くお父さんが準備しているという家庭環境なのかもしれない。こういう背景や環境・歴史などが全く分からないじゃないか。もしかしたら、そのターキーはあまり美味しくなくて、料理好きのお父さんに家族はつきあっているだけかもしれない。

先の反発の最後の部分、「 イギリスの制度を日本に導入する必要はない。」には全く同感である。制度の盲目的「輸入」は馬鹿げている。

しかし一方で、だれも今の日本の医療制度や医療政策がうまくいっているとは思っていない、とも思う。じゃあ、どうするかという時に、日本と似たような国で、精力的に行われている医療政策とその評価を利用し、日本の医療の問題点を解決する方法を探る実証として採用することは、筋が通っていると思う。他国の成功例を分析し参考にし、失敗を冷静に眺めて同じ轍を踏まない。私達が考え抜くべきことは、他の国の医療政策の試みとその結果を踏まえながら、日本の現実にある医療問題についての解決法を賢明に探ることなのだ。

----------

うちのお父さんとして、「じゃあお隣で、そのターキー食べさせてもらおう!」という対応がよかったのか悪かったのかの結論は、まだでていませんが…。

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2009.01.04 00:10 |  開業 / 病院経営  |  医療制度 / 行政  |  海外留学  |  tarogo  | 推薦数 : 0

フリーランチと救急医療

         

氷点下ながらも青空の続くエジンバラでのお正月は、キリリッと身が引き締まり、年の初めには最高です。早速、Holyrood parkを家族で一周。高台から見下ろす世界遺産の街はしっとりと落ち着いていました。

家に帰ってくると、友人一家が新年の挨拶に来てくれて、早速お茶する。私がNHKのDVDを観ていたのをネタに医療の話しをする。一般の医学や医療制度・政策の知識のすくない利用者からみた英国医療と日本の医療。 特に「カネ」と責任にまつわる話し。そのなかで、ちょっと関係ないのだが、日本で給食費を払わない親の話しになる。結構たくさんいるのですね、そういう親。本当にいるの?と信じ難い。西原理恵子の『この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ) 』に書いてあったよ、と。

でも、理解できる。大きなシステムの一部として、みんなに提供されることになっているものに対する金銭的負担は、こっそりお金を払わずに頂いちゃってもまあそんなに誰の腹も痛まないのであれば、そうしたくなるもの。家庭の財政状況が理由で、払わない可能性もあるけれど、そんなこととは関係なく、フリーランチが目の前に転がっていたら、だれでも食べてしまって知らん顔もできるでしょ(最悪ですけどね、そういうの)。

あっ、救急医療もそうだよね、と友人に。 救急医療は金銭的には報われない医療だ。人件費や診療費用などがかかる割にはその診療によって得られる診療報酬や補助はそう多くない(要確認)。そうすると儲けが少ない分、普通の医療機関はすすんでやりたくなるような診療科ではないから、公立の税金をより多く使った医療機関が提供することになる。地域の救急診療を安定して提供するために。もしくは町や市、県が資源を投入して救急診療体制を整備する。その市民は安心だ。そうするとね、隣の町の住民も安心だ。       なぜ?隣町や隣の市の充実した救急を利用すれば良いから。そうすると負のインセンティブが働く。

その隣の町や市、県の行政は救急医療に資源を投入する気がおきない、かもしれない。

放置してだまっておけば、市民が医療のフリーアクセスをフルに生かし、隣の町に行ってくれる。その浮いた分の予算を教育や福祉や景気回復対策に投入できる(ならいいけど)。結局、日本のようにある意味、民間解放されている医療提供者環境では、儲けにならずかつ地域で必要とされる医療は公的医療機関がまかなわざるを得ず、そこにフリーランチを頂きにくる関係者が発生するのは避けられないことなのだ。じゃあ、どおするの、と友人。

さあ、どうするのだろう。理論的には、市町村をこえ、都道府県をこえた、全てをまとめた国が地方自治体と協力して資源を投入し行なうことは、効果が期待できる。しかし、現在のように地域のこころある民間医療機関が頑張っているので”機能している”ように見える、また一部の地方自治体で頑張って”機能している”ように見える救急医療の状況だと、国もさっき話したようなまやかしの負のインセンティブに動かされ、そっとしておく可能性がある、かな。一方で、急に国が頑張ったりすると、「地域で頑張っているのに(介入してきて)邪魔しないでくれ!」なんて声が現場からあがってきたりして、難しい。

ああ、ここまでくると思い切った政治的判断かな、と思う。完全な合意の形成にいたる道は長くて遠い。

追加:そういえば、このときの話しで、救急車が隣の町や県に搬送する、いわゆる”越境”がおきている話しを聞いた。本当に?私が働いていた北海道・室蘭では、救急車は近隣の伊達や登別、洞爺町などには越境搬送できなかったはず。記憶違いか、なにかかわったのか、はたまた見て見ぬ振りか。

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以前から、丹念に取材されているのを知っていました番組がついに放送されるようです。

医療再建
医師の偏在 どう解決するか
 

12月21日(日) 午後9時00分~10時48分 NHK総合テレビ
http://www.nhk.or.jp/special/onair/081221.html

日本の現状はもちろん、ヨーロッパ、特にイギリスの医療政策と実情も詳細に大きな労力を割いて取材されています。番組をつくっていらっしゃる方の、医療政策に関する知識・見識はとても深く、私も勉強させて頂きました。どのような報道になるのか、注目です。

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2008.12.07 12:50 |  開業 / 病院経営  |  医療制度 / 行政  |  海外留学  |  tarogo  | 推薦数 : 1

医師の偏在

今回も素朴疑問の備忘メモです。

医師の偏在…って、おかしな表現だと以前から思っていたのですが、未だにしっくりきません。

対になるのは、まあ、まさか、いつも国民皆保険の話しの枕にでてくる「平等」な配置、ではないですよね。適正”配置”あたりが、妥当な線でしょうか。 いや、医師の自律的な職場選択を意識して、「適正分布」の方がしっくりきますね。

偏在か不足か、というdichotomyも間違った問いのように感じています。 偏在は常にある、でしょうし。私が診療していました、北海道の地方では医師の不足に悩まされなかった時期はない、と思いますし、離島はいつでもその危機に晒されているでしょう。診療する人口自体が偏在していますし、その地域によって疾患の分布も異なる可能性があります。そうするとそこで必要とされる家庭医・専門医数や施設数とその設備も異なるでしょうし。

一方で、どの診療科を専門とするか、という医師のキャリア選択は、多分に地域で必要とされる’適正’な分布と一致しない可能性が高く、そのふたつが現在のところ全く関係がないことは、日本では明らかでしょうし。何がoptimalなのかが今、医師数とその分布に関して議論されている内容ですが、この定義のはっきりしない「偏在」という言葉をつかう時には、もどかしさがあります。

ちょっと英国のworkforce planningをみていて感じた、覚え書きでした。 

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以前から疑問に思っていて、私のアタマの悪さからか、全く筋道が見えないことについての覚え書き。たまにこういう主張がされていると感じて。

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医療費の公的負担を増加して、医師の給与・待遇・労働環境の改善を!

これらがどう関係するのかが全く見えてこない。

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なんらかの理由で、病院や診療所、医療法人などの収入・利益が増えた結果、果たして結果として医師の給与・待遇・労働環境は改善していくのだろうか。

医療機関の収入・利益増は公的負担の増加以外でも起こりうる。

病院や診療所、医療法人の経営戦略(より利益になる医療内容の提供や自費診療の提供拡大:富裕層対象、などやコストダウン:事務のアウトソーシングほか)や多様な診療形態のグループ運営(病院、診療所、福祉施設ほかのグループ運営、ほか)などで、現在でも十分な利益を享受しているところは多くあると考えられる。その利益もしくは収入が増加すると、医師の給与・待遇・労働環境が改善するのだろうか。私が勤務していた経験からいうと、さまざまな理由があり難しく感じる。例えば収入が増えたとしても、将来の収入の不確実性を理由(来年はどうなるか分からない:リスク回避型)に利益の保持を訴え、その利益の還元を保留できる、もしくはその利益を投資(機器購入や他の医療機関運営・買収ほか)に回すことができる。未来はいつも不確実だから、その理由はいつも正しい。さあ、どういうきっかけで医師の給与・待遇・労働環境が改善していくのだろうか。

一方で公的負担が増加したとして、それが診療報酬の増額改定だったとして、どうなるのだろう。政治マターで決まっていく診療報酬の変化額が増える方向にいったとして、その報酬方法が出来高払いだとしたら、上がった単価分をまた働くために、引き続き同じだけの診療を繰り返すことになるはず(仮に診療量が減るのであれば、それは医師が診療の量をコントロールしていることになり(SID)、ちょっときわどい内容のような…)。そうすると多少の収入増はあるかもしれないが、果たしてそれがいまここにある医師の給与・待遇・労働環境の改善に貢献すると期待できるのだろうか。

私が働いていたときは雇用契約内容というものを見たことがなかった。年俸制と名うった収入がどれくらいでどうなっていくのかもよく分からず、まあ生活するには十分であったし、年度替わりに一喜一憂する程度で、医療法人がその年度始めに決めていたものを受け入れるだけだった。その曖昧さは諸刃の剣で、一方で医師が集団で退職するとなると、特に雇用契約内容に規程がある訳でなし、それを拒むすべがなく受け入れるしかない。古くからあった医局と病院との”信頼関係”の証が、”水臭い”明示的な雇用契約を排除していたのかもしれない。いずれにしても結局、医師の給与・待遇・労働環境の改善というのは、国との関係ではなく、個々の医療機関のポリシーによるのは、全く明らかだと思うのだ。

医師を分類して「経営者」医師と「雇われ」医師の2つに分けて考える必要があるかもしれない。

医療費を増やしていくことは、必要な医療を提供していくのに必ず必要だが、さてどう増やしていくのか、と医師の給与・待遇・労働環境の改善がとても遠い関係に今も感じている。

追加:社会保険の在り方、公的医療機関と私的医療機関の混在下での国家の医療提供の責任と私的医療機関のcream skimming…とまでいかなくても境界の曖昧さ、contracting再考、も今後の課題です。

 

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すっかり早朝の体感気温は氷点下ですが、天候が許せば家から3分のところにあるHolyrood parkでジョギング。ロンドンマラソンのballotがはずれたのでくさっていましたが、まあ古傷の足底筋膜炎が疼くので…と自分を納得させて公園を一周。気持ちいい。

英国では病院を評価しその星取り表(リーグテーブル)を発表することや、 施設の清潔さや院内感染の情報を公開するなどの、医療機関の「質」に関する情報公開が(試行錯誤で)試みられていましたが、今度は患者参加型”グルメガイドスタイル:ザガットスタイル”医療機関利用ガイドを提供することが計画されていると報道されていました。

(以下、引用です) 

'Zagat-style' guide will rate hospitals

By Jeremy Laurance, health editor
Monday, 27 October 2008: The Independent

Ministers are planning the first "Zagat-style" user's guide to the NHS, which will rate hospitals and GP practices on the basis of comments from patients.

Star ratings could be given to the most popular NHS establishments in the same way as guides to eating out rank restaurants on the number of positive responses they receive.

More than 6,000 comments from patients on individual NHS trusts have been recorded on the NHS Choices website. The scheme is due to go live next year with a TV campaign and dedicated website that patients will be encouraged to use to rate the service they received.

Lord Darzi, Health minister and a practising surgeon, said the move was a part of the drive to improve quality in the NHS, set out in his "next stage" review, published last summer.

In the US, the international restaurant rating company Zagat, has teamed up with WellPoint, an American health insurance company, to allow consumers to rate their doctors.

Lord Darzi said: "We will have a Zagat-style guide here. We plan to do that as part of the NHS, providing a guide to hospitals and GP practices. In my hospital [St Mary's in London] there could be a Zagat rating for the colorectal service, in which I work."

(原文更につづく…)

 ザガットは日本語版もあるレストランガイドですが、利用した人の口コミ(アンケート・レーティング等)で評価をする、今はよく見られるガイド形式のハシリ。アメリカではこのザガットガイド自体が医師個人個人の口コミ・評価を提供するサービスも始まっているようですが、さて、英国はいかに。

対象となっているのは病院と家庭医診療所(GP)で、医師個人ではないようですが、 印象的なのははっきりとHealth Minister(現役の外科医でもあります)が患者の病院・診療所での主観的な医療経験を重要な医療の「質」の指標だと言って、それを明確にし、個々について公表しようとしている点。

こういうのはどの内容に対してだれがだれをどうやって情報提供して、その結果を公表するのかしないかなど、つめるところ沢山だが、公表すると決意し、国をあげて患者の医療経験指標をあげにいくのだから、恐れ入る。医療費削減・増大などの金銭的評価や健康指標の改善、人員不足の解消等を越えて、医療の国民への貢献を追求する価値観は、さて結構チャレンジングだがどう受け入れられ活用されるか。日本だと「そんなことにお金を使わずに、○○につかってくれ」という横やり必死ですか…。 

参考に、既にいくつかの病院はNHS Choiceというサイトで、患者さんのコメントを受付公開しています。こんな感じで。

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2008.06.03 04:02 |  開業 / 病院経営  |  医療制度 / 行政  |  海外留学  |  tarogo  | 推薦数 : 1

ならず者は沈黙を守る

医師の辞職が問題になる報道は、必ずといっていいほど給料の話題になる。医師が給料が低いことを理由に辞職している、というものだ。

「医者をなめないでほしい」

そういった声が医師から聞こえる。正直私も同じ気持ちだ。そういう報道をされる方の内にある、monetary valueを優先した価値観が透けて見える。すこし寂しい。

しかし一方で、医師の中にもさまざまな方法で金銭的などの自己の利益を優先し追求している人がいる可能性は否定できない。 いつだってそうなんだ、そういった少数の人たちの特徴で大きな集団が判断されてしまう。しかしそれが”少数”なのだと、誰がいえよう。統計で求めた数字では説得力に欠ける。

 英国でも少数の医師の質の低い診療や犯罪が注目され、医師と患者・社会との不信感が拡大してしまった。このことと、英国家庭医の教育について、日本医事新報に時論を書かせて頂きました。

以下、引用です。 

 ーーーーー

週刊日本医事新報No. 4388(2008年5月31日号)

【時論】プライマリ・ケア再考 ─英国家庭医制度から学ぶ(2)
 家庭医の役割・倫理教育と規制 ─特に医師免許更新制度を巡って  

富塚太郎、葛西龍樹 

はじめに

英国家庭医の自律的な診療の質追求への努力と実績、pay-for-performanceの功罪を紹介した前回(葛西ほか 2008)に引き続き、今回は異なる側面における英国家庭医の質追求への試みと政府による規制について言及したい。日本を含めたさまざまな国で、医師は、よく訓練された知識・技術を個々の患者に最大限提供する専門職として期待されていると同時に、公共の利益、特に医師法第一条にて述べられているような「公衆衛生に寄与する」ことが期待されている(医師法)。しかし、この二つは時に相反する。例えば十分な診療の行える最大数の患者を受け入れた救急外来が、現在進行中の患者への診療の質を保つ為にさらなる救急患者の搬入を断った場合、ほかに救急を受け入れる医療機関へのアクセスが確保されていなければ、その地域での救急救命率が下がる可能性がある、という具合である。
また、医師側の診療姿勢も二つの相反する側面がある。Brewer(2000)が指摘しているように、医師は職務において公共の利益にかなうよう行動するといった公共精神が養われ備わっている一方で、やはり医師個人の効用を最大化する理性的経済的個人としての志向や嗜好があることは否定できない(Lightほか 1988)。英国では1990年代より、家庭医を含めた医師という専門職が内包するこういった相反する価値や倫理観を前提としながらも、大いなる職業的自律を得ながら診療していることに対する市民・患者・行政による不信が問題となっていた(Irvine 1997)。特に1997年に明らかになったBristol Royal Infirmaryでの小児心臓外科手術の高死亡率に対する追及や1998年に明らかになったHarold Shipman医師による連続殺人などのごく一部の医師による犯罪をきっかけに、英国社会の中で医師の資質に対する不透明性・不信が決定的なものになってしまっていた(Welshe 2003)。それに対し、英国家庭医療学会を含む専門医学会や英国医師会、患者団体や行政が協力し、信頼・自律回復と同時に継続的な医療の質向上に向かっている過程は、医療というものが構造的に持つ問題とその解決策を知る為に参考になる。
本論文では、はじめに英国家庭医療制度と医師-患者関係の構造から医師の役割を読み解き、専門職として医師に期待される役割とその内容に言及する。さらに、専門職集団の責任行動の一つとして英国家庭医の倫理教育に焦点を当て解説し、一方で構造的に必要とされる規制について、特に英国における医師免許更新について述べた後、日本の医療への示唆を示したい。
 (以下、文章つづく)

ーーーーー

 この中で、医師の中にあるKnights(騎士)としての行動規範・価値観とKnaves(ならず者)としての行動規範・価値観に触れています。ならず者は必ず存在する、それをどう扱うか…、を医師自ら問うことは大きな苦痛を伴うかもしれません。自らの沈黙を守っているならず者に光を当て認める、その自覚が大きな集団でのならず者の存在に対する対処・対策への必要な一歩かも知れません。

二項対立では決してない。敵は自らの中にある。

日本医事新報の本文も読んで頂けると嬉しいです。 

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最終試験の準備期間にも関わらず、友人が英国家庭医学会の国際会員のワークショップに誘ってくれたので参加してきました。

主に英国家庭医学会と協力して各国のプライマリケア専門医養成を行っているヨーロッパ、南アジアや中東・アフリカのシニアレベルの家庭医が集まり、 専門医認定に関わる評価の方法や内容、統計的検定にまつわるレクチャーとグループワークがみっちり。各国で姿勢や進行状況にばらつきがありますが、特にEUに参加する国では専門医養成過程と認定を確立することが必須であり(医師免許はEU域内で有効となるため)、必死に質の高い医師を養成するプログラムと専門医認定を確立しようとする学会の様子が印象的でした。こういった場に行くといつも感じますが、ほんとうに参加している医師は皆integrityに溢れた人たちばかり。どうしてか?という疑問を正直に夕食で横に座ったスリランカの家庭医学会長にぶつけると、「そうじゃない人は医学部に入れないでしょ」とさらっと。どんな入試してるのか…、興味あるところです。

英国の医療制度は医療費が公費の一般財源から拠出される税方式であることもあって、政治が医療制度を大きく決めていることから、制度の硬直化、官僚化や医療従事者の士気低下などがいわれますが、いやいやそんなっということがありました。先のワークショップで知り合ったイングランド南部の家庭医は、私が医療政策を学んでいることを話すと、「ちょっと、どう思うかなあ」と自分のしている試みを話してくれました。家庭医はおおよそ3人や6人など複数人数で共同してひとつのクリニックを運営し診療を行っているのですが、その彼のクリニックでは地域の病院と共同して、そのクリニックが管理する病棟を確保、入院患者の診療も始めたというもの。

「ほら、よくいるじゃない、数皮節にわたる帯状疱疹とか併存症のない肺炎とか紹介の微妙な例。だけど家庭医が病棟で管理できるし、必要だったら病院で専門医にコンサルトできるし。待ち時間もないし、いいでしょ。」

グループ診療のメリットも最大限にいかして、病棟管理を分担している。患者さんにもすこぶる評判だとか。「でも、多くの患者さんは選択肢を示すと入院したがらないんだよねー、家がいいんだよ。」という。南部ののんびりしたところなのかなー、と想像しながら、夏に見学に行く約束をしたのを今から楽しみにしている。 かわいい息子ちゃんの好きなスシ、もっていこ。

一方で日本でも新しい試みがある。以前一緒に働いていた北海道家庭医療学センターの同僚たちが新たな船出から、新規事業を始めている。家庭医3人の派遣を希望する地方自治体を 公募するというものだ。彼らが本気で行う新事業。それを求め共同する地方自治体とがっちりタッグを組んで、必ずやその地域の人に役立つものを提供するに違いないと確信している。

参考記事:家庭医派遣しますーあるセンターの試み(日経メディカル)

参考記事:地域医療に新発想(どさんこワイド180:動画ニュースあり)

参考サイト:北海道家庭医療学センター 

自分が北海道で働いていた時、さまざまな事が上手く行かず、自分の成長も地域への貢献も見えない時、先輩が言ってくれた言葉:「tarogoくん、今はよく自分の成長が見えないかもしれない。でも私には見える。きみが地域の人々の役に立っている姿が。現在の日本の家庭医療の状況もそうだ。でもね、諦めちゃいけない。下からレボルーション、やればできる。そうだろ。」

イギリスでも日本でも着実に起こっている、フロントラインからの地道なレボルーションが実を結ぶと信じている。

 

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2008.05.03 08:57 |  開業 / 病院経営  |  医療制度 / 行政  |  海外留学  |  tarogo  | 推薦数 : 1

リスクの負い方・負わせ方

日本からいらっしゃった先生と年上の英国人の友人とで連れ立って夕食に行ってきました。

”根っこ:racine”と名付けられたフレンチビストロで、メニューを吟味し…、ウサギを食べてみました。「フランス人はすべての部分を食べるんだよ」という友人の話しに続いて、美しく並べられた料理(腎臓・肝臓含む)が来る。実際、かなり美味しい。「待ちぼうけ♬待ちぼうけ…」と昔聞いた陽気な歌が口をついたので不思議に思っていると、ああ、この歌はうさぎが木の根っこにひっかかって転がる歌ですね…。

後期高齢者医療保険制度についてすこし知人と話す機会がありました。この新制度の「導入に際する不手際・準備不十分」があり対象の方々や医療機関が混乱。その感覚を引きづりながら、制度自体への不満も衰えない。

そのなかでも今回は、「後期高齢者診療料」についてすこしだけ考えたい。 患者の同意を得た上で、計画的に診療を行った場合、月1回600点算定できる、という診療料。 点数の多少や登録・主病・主治医うんぬんは、ほかに山盛り書いてあるので割愛。

仮にこの診療料が高齢者医療費抑制を目的としているのであれば、疑問が残る。だって医療機関が自由に患者を選んで「後期高齢者診療料」算定をお勧めできる制度のようですから、リスクの低い月1回〜2ヶ月1回受診の併存疾患の少ない方を選んでおススメするのが道理。もちろん他の方には、今まで通りの出来高払いをお薦めして、全体として診療報酬を増やすことが可能だ。

と、甘く考えていると罠があるかもしれない。それはリスクの負い方。対象が75才以上の後期高齢者だけなのを忘れてはいけない。この年齢は急性慢性軽症致命傷問わず病気にかかる頻度が高く、医療費がいくらかかるかは直近であっても不確実。そのリスクを「後期高齢者診療料」を算定したクリニックが負うことになる。もしくは無意識に負わされることになる。定額支払いのサガ、包括項目(検査・画像診断・処置など)への抑制インセンティブがかかった状態で、すべての医師がフツーに必要な検査や治療が行えるよう祈っています…。

国民の健康への安心を提供する医療保険制度も、国民が被るであろうリスクを他のメンバーに付け替えることに終始してはいけない、のではないだろうか。

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