何の病気でも、治ってそこそこ元気になるか最後を迎えるかどちらかしかないのだが。
入院患者さんの平均年齢が80才に近いと、闘う病気も複数が入り交じっている。
一度ことが起こると、行き着くところまで行くことも多いのも事実だ。
入院患者さんの殆どが、何処かの病院や施設からの紹介なので。
入院の申し込みはまずご家族で、義理にしろ実にしろ娘さんか息子さんが来られる。
お話を聞いて今後予想されることから、DNRに話が進む。
99%の方々が、「無理な延命はしないで、こちらで出来ることだけで結構です」。
残りの1%も話が進むうちに、「そこまでは・・・、やはり・・・」で同じ意見に落ち着く。
患者さん第一を中心に、ここで出来ることを全てお話しをしておよそ20分程度。
この時、私の最後の台詞は決まっていて。
「痛くなく、苦しくなく、可能な限り安楽な気持ちが続けられると言うことで。
静かな看取りで最後を迎えると言う考えで、ホントによろしいですか?」
了承された頷きと安堵の表情を見せ、ベッドが空くまで待っていただくことになる。
お帰りになってから30分、転院されてきた時のチェックポイントをお復習いし。
この時に気になる部分の検査を追加し、必要最小限の投薬を考える。
転院されてくると、初めの1週間は静かな格闘になる。
「紹介状の診断は合ってんやろか?イラン薬を出してないんやろか?」
他の医者の診断と治療を端から信じないのは、意地悪な気持ちからではなく。
あくまでも患者さんのためと言うことで、指先も鼓膜も全身をアンテナとして診察。
不足する脳みその回転は、帰宅してジャズと言う油をさしまくり。
時に焼酎、しょっちゅうビール、思い出してはウイスキーと止まるところを知らず。
ほろ酔いの時に出るアイディアはメモを忘れず、翌日見直せば真実を突いてるかも?
納得行く診断、納得行く治療が決まれば、これから本当の戦いが始まるボク的DNR。
注;DNR(do not resuscitate)とは一般的に 「蘇生するな」。
死を覚悟した患者や家族のみ、この決定権がある。
容態が急変し心停止に至っても、心肺蘇生法を行わず。
静かに看取って欲しいという、意思表示と言える。
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「やっぱ12月の外来BGMは、ジャックルーシェトリオのクリスマスソングか。
はたまた北島のサブちゃんの赤鼻のトナカイじゃろなー、何と言っても」
「演歌のクリスマスソングって。サンタが木を切るウー、ヘイヘイホーみたいな?」
「そこんとこ、ちょっと如何なものかと。兄弟ソリだよー、エンヤトットなんてな」
「こらこら、お馬鹿なこと言わずに。外来が終わったんですから、とっととラウンド!」
「ふあーい。ジングルベー、鐘が鳴るウー。ゴーンってか」
「センセ。もしかして、酔っぱらってない(語尾上げで)」
「んなお馬鹿な。朝から酔ってんのは、土日と祝日だけエ」
「確かに、酔っぱらったらこんなモンじゃ済まないわね」
「じゃあ、ラウンドしてくるぞよ」
「帰ってこなくて結構ですよオー、お達者でエー」
何事もなくラウンドを終えて、昼休みで静寂満帆のステーション。
「おろ、センセ。飯は未だかい?」廊下を通りかかる気配から声がかかる。
「おお、Pさんのご主人。元気かね?」
「ワシは大腸癌で、肝臓に散ってるのを知っとるやろ。最近、飲めんようになったで」
「イカンなー、そう言うこっちゃ。今度、屋台で飲もうな」
「コラコラ、ダメですよ。医者と患者の会話とは思えんでしょッ!」
いきなり会話二人の参入した婦長さん。
「んでも、センセ。ワシが飲めんようになったら、あの世が近いっちゅーこと」
「そらワシも。んで、今度ワシ、サンタやるんよ。レクで、バッちゃんも参加するんよ」
「ワシは八百万の神じゃから、サンタは関係ないで」
「まあ、そう言わんと。その日だけ目えつぶって、キリストさんと仲良くすりゃあエエが」
「そう言うモンかのオ」
「そらそうじゃろ、ナンでも許してくれる八百万の神さんじゃから。エエんちゃう?」
「センセがサンタになるんか?」
「そうなんよ。あ、知っとった?ワシの先祖はサンタさんじゃって」
「Pさん。MIHIセンセまだ酔っぱらってないのよ、ホントに」
「でも、顔が赤いような」
「サンタの赤い服に、顔の色を合わせる練習中なんよ」
「あ、センセ。さ来週の月と金の14時、着ぐるみスタンバイOKでエーす」
「ほオー、そんなことまで医者がするんかの。世の中変わったモンじゃ」」
Pさんのブツブツを聞きながら、「ほんじゃ、ジングルベーっと」で撤収する昼下がり。
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休日の朝一番にする事は、新聞の天気予報チェック。
1日晴れが続く事を確認すれば、オーニングを出すのがその日の仕事始めと決めている。
その時に窓の外でかすかに聞こえるのは、ジャズピアノも同じ定番だ。
決めていると言えば、12月になると外来のBGMを月の前半はクリスマスソング。
後半は今年の最後月の追い込みを意識して、ベートーベンの第九で盛り上げる。
外来を終えラウンドしながら、さほど多くないお正月外泊OK患者さんを考える。
関わらせて貰っているおよそ40名の方々のうち、年末を自宅で過ごせるのは1,2名。
自宅がかなり遠く離れていて、もしもの時を心配されるからその準備も怠らない。
自宅からおよそ100Kmを越えるTさん、家と病院の間には2つの救急病院が控えている。
急変した時に自宅から我々の所へ来るより、救急病院直行の方が良いに決まっているから。
たった1,2日の外泊ではあるが、A4で3ページの紹介状がお守り代わりになる。
入院患者さん用の定期処方は、年末とお正月明けの2回分。
書くのは文句も言わずにプリンターだから、ラウンド前にセットすれば。
医局に帰ってくる前にはき出されていて、日時をかき込めば定期処方は仕事納め。
外来が無くゆっくりラウンドしても、1時間ほど空き時間を手に入れる事が出来る。
こうなると側の窓を開け広げ、白衣を脱いで雑巾を絞り先ずは棚の整理。
2編の論文を書き散らしたので、直に来る別冊を袋に入れて立てかけるスペース確保。
ここまでやると、机周りは30分で埃が拭き取られツルツルになる。
ミニコンポのスピーカーは、椅子に座って聞く時にマッチする様にちょいと動かし。
仕上げは当直の夜、大音響でぶちかますジャピアノのシャワーまでお預け。
まだし残した事は2つあり、1つは、今年の反省と来年の展望に思いを馳せる事。
もう1つは毎年書いてきたのだが、クリスマスにちなんだ物語を書く事。
きっかけは、気まぐれに買った「クリスマスキャロル」だった。
第1作は、学生時代に通った一杯飲み屋のママさんであるさっちゃんをテーマに。
卒業数年後、ほろ酔い気分で悪友と肩を並べて横町の路地を曲がった時。
真っ赤なドレスを着たさっちゃんを見て始まる、「さっちゃんのジングルべー」。
ここがスタートで、森の動物・戦国自衛隊・サンタの夏休み。
調子に乗って、西部開拓時代・サスペンス・老人施設と。
色んな設定で書き散らしてきたけど、今年の設定は何にしようかと思う間が楽しい。
楽しみは2週間だけで書き始めだけが苦痛、加速が着けばあっという間のお気楽仕上げ。
推敲が1週間で、自分のホームページに掲載するのだが。
誰かが読んでいるのであろう、カウンターが増えた数字で教えてくれる。
12月26日の夜はボクのホームページから消えるので、目に留めた方は10人前後か?
このボクだけの密かな自己満足は、年末の定番であり8年目に入った。
脳みそにあるのは「踊るサンタ人形」なのだが、ストーリー展開は・・・。
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小学校以来、休日の早起きはほぼ50年物。
先ずは回すビルエバンスピアノ、メールチェックをしていると奥様登場。
フルーツとコーヒーで朝食が始まると同時に、次も回すビルのCD。
CDが2枚目になる頃、家中の燃えるゴミをかき集め焼きいもの準備にかかる。
焼却炉を掃除して芋を焼いて、今回は3度目だから蒸し焼き用の灰はたっぷり。
ご近所の方からいただいた芋は、洗ってアルミフォイルに包まれ着火。
仕上がるまでの小一時間、作成済みの年賀状に待ったがかかり。
2枚ほどイラストを描いて、うち1枚がパスする奥様チェック。
「遊びすぎじゃない?」から、「ほのぼのしてる」に変わった。
こうして休日が始まり、昼食は真っ黄色に焼けた熱々のお芋。
具合の悪い事にビールを切らした冷蔵庫から、氷を出して焼酎の水割り。
焼きいもには芋焼酎でしょ!と言う事で、グラス一杯でホロホロしたりして。
その後は読書三昧、グータラし放題。
久しぶりにのんびりと休日を過ごし、来週は本格的に臨床研究に取り組まなければ!と。
来年の大阪での学会が楽しみな、まったりした休日。
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道具を使わない限り、人間の行動範囲は足の赴くままであるが。
車とかエスカレーターやガラス鉢風エレベーターは、外が見えるから未だ良い方で。
ビルの鉄の壁で囲まれたエレベーターに乗ると、ドアが開いた時ちょいと不安になる。
差し込んできた陽光の向こうに、見知らぬ世界が展開され。
恐々ドアを出てみると、すっかり時代も世界も変わっていて。
行き交う人の姿形の変化に驚き、理解出来ない言葉に足がすくんでしまう。
振り返ればエレベーターは消えていて、野原に呆然と立つ自分が居る。
移動中に外が見えない乗り物を利用する時に、そんなことを思うのは私だけか?
運転免許を取って中古車を手に入れ、悪友と2人で初ドライブ。
その興奮は未だに脳みその何処かにあって、何かの拍子に突然現れて密かな笑いを誘う。
「あらら、Rさん。行き過ぎ、食堂は後ろよ」
「まあ、そうかの。これに乗ると、嬉しくなってイケン」
88才のRさんが転んで足の骨を折るまでは、畑を耕し孫の世話まで活躍していた。
野菜で満杯になった箱を持ち上げた途端に、バランスを崩してお決まりの転倒骨折。
手術は順調でリハビリを目的に、急性期の病院から転院してきた。
車の運転はもちろん自転車にも乗らないRさん、しばし車いすのお世話になる。
農作業で鍛えた両腕の力は、年齢より25才は若くパワフルだから。
手術後の安静が解けて、車いす移動の許可が下り初めて乗った車いす。
自分の意志で気の向くまま、車いすの向くまま。何故か前進あるのみ、バックは苦手。
車いすを前進させる度に興奮するから、何処だろうと誰が居ようと所かまわず速度全開。
目にはいるのは左右ではなく前方のみは、悲鳴に近いスタッフの声で修整される。
Rさんの車いす初体験以後の興奮は、転院して来てから1ヶ月経っても持続している。
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そらあんた、ポチャーッとした手でワシのしわくちゃな手を握りしめて。
「スマン、ちょっとだけ我慢してくれんね。この通り、お願いッ。頼むッ」なんてな。
イヤとも言えんし、暴れるわけにも行かんわな。それが、一宿一飯の恩義ちゅーもんじゃろ。
看護婦さんはそんな処置をしたら、ワシが嫌がって暴れて大騒ぎするって思うてたらしい。
確かにそれは当たっとるけど、まさかあそこまでMIHIセンセに拝み倒されるとはのー。
あ、申し遅れたが。ワシは、COPDとか言う病気を貰ってかれこれ20年になるんじゃ。
2ヶ月前に、ちいと動いても息が苦しゅうなってMIHIセンセにお世話になったワケじゃ。
よる年波には勝てずお見舞いのモンが「元気出して」言うけど、そらあんた無理。
飯を食う気も起こらんから、しばらく点滴のお世話になってると。
人間っちゃ不思議なことに、89年も飲んできた水をどうやって飲み込むのか忘れるモンじゃ。
こらイカンって、MIHIセンセが言語聴覚士のセンセに頼んでくれて。
若いべっぴんさんが、アイスマッサージとか色んなことをやってくれるんじゃ。
その甲斐もなくやたら咽せるモンで、5回目でお手上げの報告をしたそうな。
そんなこんなで、今日を迎えたわけよ。
太ももの根本から管を入れる前に、ワシの膀胱に管を入れようとしたんじゃけど。
男にしかない前立腺っちゅーもんが邪魔をする、ぐぐっと突っ込むと痛い。
「ワシは忘れられんくらい痛い」って言うたら、看護婦さんが気の毒がって。
側に座っていたMIHIセンセがいきなり立ち上がって、言うんじゃ。
「千崎さん。2つ痛いのより、1つ気持ちが悪い方がましやろ?」って。
「そらそうには違いないが、どっちもイヤじゃ」言うたら、「男はどっちか」じゃと。
仕方がないから1つの方を選んで、看護婦さんが恐る恐る始めたんじゃ。
「クーッ」とか言うたらMIHIセンセが、「スマン、ワシが悪いんじゃ」言うから。
手を握り替えしてな。あんた、こともあろうに作り笑いしてもたがね。
ワシの人生の中であれほど気分の悪い時に笑ったのは、最初で最後じゃろて。
入らなくて突っつき廻された点滴も卒業したし、咽せながらゼリーを食べんでエエし。
さっき来た娘にICとか言う病状説明をしたそうで、4,5枚説明の紙を持っとった。
帰り際に言うことがエエ、ゼッタイ鼻の管を抜いちゃイカンよって。
当たり前じゃ、また入れ直されるかと思ったらぞっとするで。
これくらいの我慢は、戦争中の苦労を思えば大したことはないで。
MIHIセンセがちょっと前に来て、しばらく我慢してねって言うとった。
一体、何時まで我慢すればエエんじゃろ?リハビリの予定を考えてるらしいけどな。
啜った時にクシャミをして、うどんが鼻に引っかかっても気分が悪いのに。
あんな管を何度も鼻の穴に突っ込まれて、たまるもんかッ!意地でも我慢じゃッ。
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人生50年だった時代は遙か昔、いまや男性の寿命は70才を超えた。
健康寿命ではないのが残念だが、それは置いておこう。
来年還暦を迎える年になり、定年まで5年となってみると。
医師としての生活は、リタイア後に雇ってくれるところがあればプラス5年。
医者生活も、残りは長くて10年か?思えばしつこくやってきたモンだ。
当初のもくろみ通り、可能であっても70才で医者は辞めようと思う。
その後が問題で、ボケ防止に母校の聴講生を夢見ているがどうなる事やら。
大学生の数が減った分、団塊の世代の年寄りは増える一方だから。
ひとたび学生を募集すれば、年齢制限さえなければ溢れるジジイ軍団。
ヒマを持て余し、粗大ゴミ扱いから脱するチャンスを狙う我ら団塊の男達。
競争する必要もないのに、順位を付けられたり確認証なんか貰えれば加速度的に燃える。
こうしてカルチャーセンター、市民講座、大学の聴講生はジジババで溢れるはず。
過ぎ去る10年の後、彼らの行き着く先に入浴介護中心のデイサービスが待ち受け。
成長期に盛られた中性洗剤・人工着色料・保存薬の我らは、長生き出来るはずがない。
大量ジジババの波は5,6年でカタが付き、少しすれば私らのざわめきを懐かしむはず。
こうして人工ピラミッドの逆三角形は崩れて、激やせ型になる。
我が国の人口は20年で半分になって、大都会だけに人が住むようになり。
交通機関は自動操縦のものばかりとなったおかげで、今よりは事故は減るかも。
医学概論の講義を終えて、窓の外をボーッと眺めこんな白昼夢。
いきなり鳴り出す電話に現実に引き戻されて、見つめるチラシ1枚。
5年前に無謀な1ヶ年計画で読破しようとして1年後、120頁で止まったままの内科書。
新版発売の知らせを受けて、定年までに読破なら何とかなるかも・・・と。
大枚¥12、390の使い道を内科書だが、麹仕込み米焼酎なら12本はかたいと悩みつつ。
3424頁なら、5ヶ年計画ならどうやろか?案外・・・と強気になった午後。
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武士の最も嫌うのは、人前で恥をかかされた時だそうで。武士の子女も同様。
朝起きた時に他人に裾の乱れを見られるのを恥と、寝る時に両足を縛って寝たとか。
葉隠れ武士道を信奉する私も、当直の時は寝る前に身辺整理をする習慣が身についた。
高じて机周りの模様替えが趣味になり、同時に行う拭き掃除はすこぶる当然の成り行き。
見た目が変わっただけでなく、汚れ具合も変わってみると意外に気分が良い。
こんな事が数回繰り返されれば、単純な脳みそにすり込まれる掃除ハイ状態。
一旦汚れを発見すると掃除のアイディアが浮かび、頭の中でシミュレーション。
1日脳みその中で熟成させ、行動は一気にハイになって進むからスピードは最速モード。
周囲の音は耳に届かなくなり、自分だけの世界に浸って作業音は出し放題。
背後になにやら気配を感じ振り向けば、お隣のセンセが回覧板を持って立つ。
受け取って確認印を押すのももどかしくも、背伸びをして鈍痛回避のストレッチ。
次のセンセへ回す頃には、明らかな変化に感動を覚えるのをエンジョイしまくり。
こうなった大元は、武士道本を読んだこと。
「もし明朝この世のモノでなかったら、その姿を見られて恥をかきたくない」
脱ぎ捨てた衣類が散乱し、机周りの整理整頓されていないだらしない有様は恥。
この「もし」の与える影響は、私にとってはとても大きかった。
大掃除が済んで浮かぶのは、「これでいつ死んでも良い」ではなく。
「まだし残した掃除があるはず、このままじゃみっともない。
武士として(何時から武士になったんじゃッ!)死ねない」だ。
こうして「もし」から、掃除ハイになるのが楽しみになった。
休日の前夜、焼酎ロックで回転がスムースになった脳みそが始動する。
翌日の掃除の段取りをしながら、3分で暗闇に落ちて行く。
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「あのさ、腹に巻くヤツ1ヶ頼めん?」
「あー、あたしが使ってるベルトでしょ?」
「ちゃうちゃう、誰がヘビー級のチャンピオンベルトなんか欲しがるかいッ」
「誰がヘビー級ですか、じゃあナンの格闘技と仰るんですウ?」
「ケツ相撲とか、米俵ぶっ飛ばし競技とか、フン転がし決定戦とかの」
「んもー。ほんで、サイズは?」
「スカートのサイズなら、63,4cmって」
「キャー、センセ。コスプレ趣味イ」
「キャー、誰がセーラー服専門」
「結局、奥様のでしょッ」
「そう言うことオ。んで、サイズはSか?」
「あたしでSだから、ウエストも同じくらいじゃし」
「あんた、着太りするタイプか?」
「ハイ、中身はSSなのにまるで外目はSみたいな」
「うっそー、あんたはLでしょ。白衣だってあたしと同じLなのに、ベルトだけSう?」
「あのさ、息を全部吐き出して。ゲップも屁も出し切った時だけ、ぎりぎりSとか?
どれか1つしなかったら、ゼッタイLやろ。やっぱ」
「センセ。それってセクハラか、パワハラみたいな」
「ワシなんか、ウソと坊主のチョンマゲはゆうたこと無いで」
「ゆうた事がないんはホントのことと、MIHIセンセのチョンマゲでしょッ!」
「んで、フツーのベルトはなんぼ?」
「センセだけスペシャルで、¥2200になりますけどオ」
「メタボ腹に巻かれたら如何ですウ、ラップダイエットみたいな」
「あれは効果がなかったッ!」
「あー、やっぱ。試してはみたんだ、確かに効果無し」
「汗を逆に吸収して、ふやけて2cm大きくなったみたいな」
リバウンドしたメタボ腹をスリスリしながら、撤収する午後。
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奥様が腰を痛めたので、偶然帰省した下の娘と買い物に行き。
私に「夕食はナニが食べたい?」なら、「牛の肉」と応えるのは聞く前に想定済み。
すき焼きと決めれば、目をつぶっても材料は買いそろえられるほど男の料理。
買い物から帰ってしばらくまったりしていたが、突然立ち上がり仕込みを始める。
大きめのお盆に投入する野菜を積み上げて、使った道具も同時に洗ってスピーディ始末。
30分少々で肉以外がテーブルの上にスタンバイすれば、独り作戦会議。
台所に殆ど立たなかったボクのオヤジが、唯一取り仕切るのがすき焼きだった。
作り方は熱した鉄鍋に牛脂を塗りたくってから、おもむろに肉を乗せ。
直ぐに砂糖を振りかけ、その上からまんべんなく一気にジューッと言わせる。
その作り方が当たり前と思っていたら、野菜を敷き詰めて割り下を予定量の1/2を注ぎ。
野菜から湯気が出始めた頃に、肉を並べてトッピングして残りの割り下を注ぐ。
フタを乗せて煮込みが始まり、肉の赤みが消えたらハイッかかれエー。
その方が安い肉でも軟らかく、いつもの方法なら肉汁が野菜に染みこんだのを楽しめる。
肉の良し悪しに明らかな差が分かる、肉焼き優先すき焼き調理システム。
けっこう良い肉を買ったけど、たまには気分を変えた作り方で行こうとなった次第。
恐らく他所のお家では出番がない食材が、高野豆腐。
野菜から出る水分が割り下を薄めるのを防ぎ、つゆだくの高野豆腐は仕上げにいただく。
途中で食べてはならないのは、噛んだ時に表面とは段違いに熱い汁の攻撃があるから。
こいつは冷えても、甘辛いジューシーな食感をエンジョイできる楽しみがある。
などと思いつつ帰りの新幹線に気をとられて、高野豆腐を入れるのを忘れたドジな私です。
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