入院と来れば、その形は色々あるがいつかは退院しなくてはならない。
お年寄りの場合は入院日より、退院日の決定権は殆どないと言って良い。
「センセ。Pさんなんですけどオ、帰りたいって」
「ワシの担当じゃないしイ、今日はお休みで。主治医のセンセもいないし」
「顔だけでも見てあげてもらえませんか?」
「顔をじっと見つめて帰っちゃイヤーん、なんて言えばエエわけ?」
「センセがそれ言ったら、みんな帰っちゃでしょッ!」
「ものは言いよう、アホは使いようって。ご先祖さんだって、言ってるでしょッ!」
「あんたのご先祖って、オラウータンの?」
「私の場合は、卑弥呼でしょ。美白、ほっそり面長の」
「どっか途中で、突然変異したか?無い物ねだりの妄想か?」
「まんまですッ!そんなことどっちでも良いから、Pさん、Pさん」
「ラジャッ!」で病棟へ行けば、何やら話し声が聞こえる。
ステーションの椅子に座ってるPさんを、取り囲んだスタッフは腕組み。
「もうこんな所にゃ居れん、帰るッ!」
「んでも、息子さん東京やろ?今から来て貰っても、真夜中じゃけど」
「ワシ一人で帰るッ、タクシー呼んでおくれ」
住み慣れた環境から隔離されて始める入院生活は、お年寄りにとって異国生活に近い。
骨折して手術を受けやっと歩ける程度でも、自分一人で何とか出来ると思いたいようで。
リハビリの意味が理解出来ない(実感として感じたくない?)ことが多い。
家族が近くにいて毎日お見舞いがあり、そのうち退院の可能性があっても。
ちょと油断するとお見舞いの回数が減って、3ヶ月もすると帰る場所が無くなってしまう。
その頃には患者さんは帰る気が失せ始め、入院生活の中で楽しみを見出す努力が始まる。
女性患者さんだと、それぞれがお気に入りのイケメン若者を決めて。
写真を飾るやら、そのスタッフが休みだとミョーな言い訳してリハビリを休んだり。
いつまで経っても女性というのは色気があるんだなと思いつつ、つい参加したくなって。
「ワシは?」
「センセはどうでもエエ、関係ない」
そんなことを言われると、イケメンスタッフにムラムラと競争心が湧いてくる私。
言っておきますが、それは色気とは全く関係ない次元の問題ですから。念のため。
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