「あー、エかった。おろ?センセが止めてくれたんか」
「一応さ、車いすの背中に押さないでって書いてあるから。押す気はなかったけど」
「そうなんですわ、せっかく頑張って自分で車いすを動かしてるのに押されるとねー」
「んでも、今のは押したんとはちゃうやろ?」
「坂も緩やかじゃったら、自分で上がれるけど。今日は手が滑って、あらーとか思って。
焦ったら直ぐに止まったんで、驚いた驚いた」
「ナンでも自分でやるのもエエけど、危なそうなら声をかけてもエエかも知れんなー」
隣の施設の住人が病院の売店に来る時は、ちょっと違った環境に戸惑うことがあり。
時折見かけるこういった光景に、目配りをしなくちゃならないなと思いつつラウンド。
「Pさん、ちょっと待ってエね」
「もう待てん、ナンでも自分で出来るッ」
「あーらら、やっぱそうなっちゃってエ」
「命中しとろうが?」
「左右に的が外れて、床がオシッコでビシャビシャやん」
「おっかしいなー、尿瓶のど真ん中に命中したと思ったのに」
「ナンでも自分でするのも良いけど、ちょっと待って貰ってエかったかも」
「最初は命中したけど、始まった途端に手がプルプル震えたんがイカンじゃったか」
「老いては子に従えって言うけど、何でもナースに従えって言うワケじゃないんよ」
「そらそうじゃ、ナースに従ってばっか居たらロクなことがないかもオ」
「コラコラ、カーテンの向こうから要らんことを言うのはMIHIセンセじゃね」
「おお、センセか。センセじゃったら、ナンでも自分のことは自分で出来ようが?」
「そらそ、ワシってナンでも出来るスーパーマンって。病院の町内会じゃ有名やで。
注射は看護婦さんに指示するし。薬は印刷機に書かせるし、会議じゃ皆を黙らせるし」
「そらセンセ、他人にバッかやらせてないかい?」
「自分のことは自分でするし、やる気せん時や出来んことは人にやらせるだけエ」
「MIHIセンセは、人にやらせるのが多くない(語尾上げで)」鋭いナースの突っ込み。
自分をわきまえることの難しさを実感した、午後。
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「おっはよー。あじいねー、汗かくねー」
「・・・」
「元気じゃった?ウンウン、皮膚の乾燥もまあまあ。胸の音も良いねー、じゃあ次Pさん」
「もうじきお盆だね-、その前に梅雨明けか。しかしPさん、肌の色つやがエエよー」
「・・・」
「お腹を押さえても痛くないね?やっぱね、表情変わらんモンねー。んじゃ、Rさんね」
「おろ?目やにが着いてるね、拭いちゃおうかね。泣くようなことが有った?あ、無い」
「・・・」
「この間、70歳くらいの人が来とったんは、ご主人ね?イケメンじゃねー。んじゃ、また」
「Sさん、おっはよ!元気じゃろ、顔色エエで」
「・・・」
「こないだの糖尿の検査、すんごくエかったから。安心してエエよ、んーでBさんは」
「胸がちょっとはだけて、寒くない?エアコンが効いてるから、肌布団を掛けようねー」
「・・・」
「皮膚良ーし、胸の音良ーし、足の腫れ無ーし。絶好調じゃね。さて隣の部屋か」
「おお、Dさん。もう栄養注入終わって、お茶してるわけね」
「・・・」
「そうそう、この間お孫さんが来とったね。あ、ひ孫さんか。可愛いね-。
ワシにも孫が産まれたんよ、メチャメチャ可愛いんよねー。実際。んじゃ、Gさん」
「来週の金曜日に、ここを退院してZ(老人施設)に行くらしいで。寂しくなるね-」
「・・・。ヒクッ」
「えー、ナニ?Gさんも寂しいんかね?またどっかで会おうね」
40人中1/3の患者さんがこんな具合で、患者さんの沈黙の中を回診が進む。
看取ることがあると、霊安室で患者さんと二人きりで最後の回診。
「お疲れさんじゃったねー。もう痛いことも苦しいこともないから、安心してエエよ」
「・・・」(返事をされても困るけど)
「んじゃ、先に行って待っててね。もう暫く、こっちで仕事をしてから行くから」
回診の沈黙は1人せいぜい5分だが、こんな時はちょっとだけ長くなる。
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「おろ?お手せんでエエんね。ワシがジジイと思って、気を使ってんね、ワフッ」
「哲ちゃんも年取ったなー、お手したら3本足じゃまともに立っておられんやんか」
「そうなんよ、お手してると足がプルプルしてよろけるんよ。ヘッ、人間でもあるんね。
ナニナニ、パーキンソニズムって。こういう時にショック療法でチョコとか。3,4個?
毒が毒を制するって言うやろ?あ、ダメ。んじゃ、せいぜい哲ジジイに気を使ってネ」
「んじゃ、良しッと」
「しかしナンだね-、介護保険。今朝の遠吠えニュースで言ってたけど、酷いモンだねー。
年寄りに気を使ってないねー。一次判定ソフトを、初めに経費節約ありきで改悪して。
勝手にいじくり廻したじゃろ?んで、怒って介護審査委員を辞めたよね。MIHIセンセは」
「そうなんよ、端から文句が出るのが分かってって動いたんだからタチが悪りイやね」
「まあ、現場を知らんヤツがいじくり廻すとろくなことがないね。誰でも歳を取るしイ。
歳を取って異常に元気になったら、オカシイやろ。ワフーう」
「医学部の学生と研修医だけじゃなくて、厚生労働省に入った役人は必須じゃね。
半年間でエエから、施設実習でお年寄りのお世話をして欲しいモンだね。
ワシらのスタッフみたいに、笑顔でオムツを替えてみろってんだ。ワシ自信ないけど」
「ヤダねー。あー、ヤダヤダ。MIHIセンセは、研修医とか医学生さんの実習とかで言うよね。
人生の大先輩にどうやって恩返しが出来るか?よーく考えて、この経験を心に刻んでねって。
言い得てミョー、言わなきゃワカランってとこじゃね」
「しかし、哲も年取ったね-。ヨボヨボじゃん」
「還暦迎えたMIHIセンセだけには、言われたくないね」
「まあ、お互い。ジジイ同士で労りながら、気を使おうや」
「盆と正月は、チョコもエエよ。ワフッ。んじゃ、ラウンドへ行っておいで。ワシ、寝る」
「んじゃねー。哲、ホレ見てみて。スイスイ、あらよッと」
ヨロつきながら小屋へ撤収する哲に、しつこくスキップしてみせるMIHIセンセ。
MIHIジジイには、哲ジジイがお似合いかも?の午後。
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生き物はいつか死ぬわけで、世の中から消えて10年もすれば記憶からも消えるのが常道。
その点、音楽家は素晴らしい作品を残せば何時の世になっても瞬時に蘇り。
演奏という形で人々の心を揺さぶり続けるから、音を聞く度に新しい記憶として刻まれる。
つい最近、2ヶ月前に予約していた我が心の師匠の6枚組CDがやっと手に入った。
恐らく100枚を超すエバンスコレクションに、真打ちとしてラックに並ぶことになる。
生誕80年記念と言うことで、1960年ライブハウスで録音されたものを復刻させた。
ライナーノーツを見ていると、6枚目の最後の曲は尻切れトンボで終わっているらしい。
熱狂渦巻く中での長時間録音の故に、テープが足りなくなってしまったのが原因だそうで。
この週末に音を出すまで、ひたすら待つことさえも楽しみになってしまう。
エバンス死して素敵な演奏を残したのを、有り難いと思う。
子供の頃はシュバイツアーと並んで心の師匠だった野口英世センセ。
最近になって知ったのだが、アヤシイ論文を書きつつ偉人伝の人になった。
ひたすら苦労人だったことが幸いして、検証された論文の誤りは少しずつ薄れて行き。
幾度となく恩師から借金した金で、遊び呆けても偉人としての輝きに錆びを付けない。
虎は死して皮を残すように、今のところは野口センセは忘れ去られることはないだろう。
昨日の午後、代休を利用して臨床研究データを考察するための文献をやっつけた。
医局の机に座って文献を読むのは、何だか落ち着かなくてうまくないことが多い。
そうでなくても集中力がない上に、周りに色んなモノがありすぎて気を散らす。
「それしか出来ない」と言う状況に自分を追い込んで、40分くらいなら集中が可能だ。
デパートの地下、ひっそり置いてあるテーブルは絶好の場所だ。
集中力が増してくるとどんなBGMも耳に届かなくなり、山深き山中の修行僧の風。
辛抱が足りないからもって40分、最大でも60分が終了すると一汗かいた気分。
確証バイアス的に文献を自分の論証につなぎ合わせ、自画自賛の仕上げが待っている。
虎は死して皮を残すと言うが、こんなんじゃMIHI死して恥を残すになりかねない。
残したのが、「よくもまあ、こんなアホなことを研究したモンだ」の驚きでも良いかも?
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「MIHIちゃん。ナンたら言うとこから、この間書いた論文の別冊請求が来てたやろ?」
「ハイ、スエーデンでしたっけ。生意気に書いてあるんですよ、英語の論文送れって。
ジョーダンじゃないですよねー、ナニ甘えてんだか。ったくもー、日本語で読めって」
「君イ、ナニ言ってんの。日本語を英語にして、論文を書けばエエんじゃないの」
「そらま論文も短いしイ、足は長いけど。論文中身は90%日本語で、抄録だけやっと英語。
ボクの中身はコテコテ日本人、あだ名だけやっとアメリカ風のジミーやけど」
「君イ、関係ないこと言わなくて良いの。高校時代は、英語の成績良かったって」
「大学に入って、学年が進むと同時に加速がついて英語力低下ですねー。実際。
そもそも英語は、ボクの体質とかDNAに合わんような気がします」
「まあ、強いて言えば学問が体質に合ってないような気が」
「まあ、そういう言い方も出来ますねー。ヘッヘ」
「体質と先祖の遺言に合ってるのは、酒だけみたいな。んで、その請求の葉書は?」
「切手が珍しいから切り取って、後は証拠隠滅でゴミ箱へポイッ。
捨てたことを研究所が知って、スエーデンと戦争にでもなったらどうしょ?
一億火の玉、竹槍を持てエーみたいな」
「君イ、オーベンのワシより年上か?縄文人みたいな感覚やね-」
「英文を読むのは速いんですけど、走るのと英文書くのは遅いんです。何ででしょ?」
「そら、足とニューロンが短いんじゃ?」
「世をはかなんで、酒飲みたくなったような。豆大福を、腹一杯食べたくなったような。
トマト缶ジュースと皿うどんと英語を見ると、胸と腹がいっぱいになるんですウ。
カロリンスカのトラウマって言うヤツ(語尾上げで)。カリントウならエかったのに」
こうしてMIHIセンセは、かりんとうフリークになったのだ(ワケワカランッ!)。
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「ハイ、新規2名様ご案内。ポンポコリーン」
「いらっしゃいませエ-、ポンポコリーン」
「ミョーな店やね、帰ろうか?」
「大丈夫でしょ、タブン」
「ここってお好み焼き屋だよね、怪しい演芸場じゃないよね?スタッフはタヌキじゃ?」
「人間でしょ、フツーの」
「でも、あそこのヤツ。腹は出てるし、鼻が低いし。皮は茶色」
「元々の体型があんなで、茶色いのは皮じゃなくて制服でしょ?」
「おつりを貰って帰ったら、葉っぱになったりして」
「んな分けないでしょ、タブン」
「きつねうどん頼んだら、たぬきうどんになってたりして」
「そら聞き違いでしょ?」
「何か、中途半端やな-。いっそ全員が、タヌキの着ぐるみなら納得するけど」
「そこまでやったら、勤める人がいないでしょ?」
「タヌキに成りきってないのが、不満だナー」
「回線モンジャ3人前、入りました。ポンポコリーン」
「有り難うございました、ポンポコリーン」
「あいつだけは、ぜったいタヌキやで」
新装開店した、タヌキがトレードマークのお好み焼き屋でMIHIセンセ夫婦の会話。
かく言う私も成りきってないモノが沢山あって、悩むわけですが。
内科医というのは正解(診断)を出すために、培った経験と知識を駆使して仕事をする。
師匠の教えは、「先ずフツーの病気を考えて、出来れば診断名は単数が良い」。
そのためには先ずは教科書的判断で、合わないところがあれば文献に相談することに。
それを地でいってるTVドラマがあって、毎週末に勝負をしているのだが。
研修医を指導する師匠がメチャクチャ破天荒な人で、ちょっと間違うと毎週被告人に。
教科書的謎解き(それでもマニアック)研修医に、ぶっ飛んだ指示を出すが最初は外れて。
病状は進行する中でのカンファレンスで、ますますマニアックな討論がなされる。
けんか腰の師匠にけんか腰の研修医と、私はこんな師弟関係には成りきれない。
サスペンストリックと犯人(診断と治療結果)は更に一ひねり、私は探偵に成りきれない。
私は根っからの悪人ではないが、もう1つ成りきれないモノは完全無欠の善人。
口に出さずに心の中で大文句は言うし、声に出さずに怒鳴り上げるし。
人の幸せに嫉妬だって少しはするし、他人の不幸は蜜の味ってのも知っている。
還暦を迎えるともう弾ける年でもないし、善人修行僧に成りきれるかな?と思う。
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団塊のTV
悪友達と暗くなるまで外で遊ぶか本を読む以外に、娯楽はラジオの時代だった団塊。
皇太子(現在の天皇陛下)結婚の節目に、突如出現したモノクロTV。
息を殺して聞き込んでいたのが、「笛吹童子」ラジオ放送だったのに。
見ない時は薄い緞帳みたいなのが被せられ、チャンネルはガチャガチャ廻し。
小さい画面を大きく見せようと、渦巻きを刻んだプラスチックの板が取り付けられ。
チャンネルの接触が良くないのか、ヘンになったら筐体を叩く癖。
いまだにパソコンでも、同じ行為を繰り返すのは団塊くらいだろう。
「ラッシー(コリー犬)」とか「スーパーマン」で、外人の日常に触れた。
「名犬リンチンチン(シェパード犬)」が人気になる頃には、大型犬はお金持ちの構図に。
それと同時に、TVヒーローが僕たちの話題の中心になった。
子供週刊誌やメンコには、力士や野球選手と共にヒーロー達が表を飾った。
メンコの他には、お正月だけではなく普通のコマやベーゴマが遊び道具だった。
スポンサーとヒーローは、強く結びついていていまだに忘れない。
武田薬品なら「月光仮面」・「隠密剣士」。カバヤ製菓は、「7色仮面」。
仁丹は「怪傑ハリマオ」、ナショナルは「ナショナルキッド」。
藤沢薬品(現アステラス製薬)は「伊賀のフジ丸」と言った具合だ。
グリコは「鉄人28号」、丸美屋は「8マン」、森永(タブン)は「鉄腕アトム」と来る。
スポンサーが思い出せないのもあって。
「行くぞ、シェーン!(シェパード犬)」で、スクーターにまたがる少年探偵。
プルプルプルとのどかに走り去る「スーパージェッター」の後を、ワンワン吠えて追う。
当時は「子供なのに運転免許は?」なんて、少しも考えも及ばなかった。
もう1つダメなのが「まぼろし探偵」で、これも子供ながら空飛ぶ車を運転する凄さ。
ヤツを真似て、黄色い風呂敷を首に巻いて走った子供が多かった。
東京オリンピックとともに、カラーTVが我が家のモノクロTVを追いやって。
プロレスを見ていたお年寄りが、ショック死したことが報道されたのを思いだす。
今までは真っ赤に染まったマットは、黒くなるだけで実感が湧がなかったのに。
いきなり本物に近い真っ赤に血に染まったレスラーを見れば、動揺すると思う。
昨今のサスペンスは、いかに血に染まったように見えるか工夫しているようだが。
それを見て失神したりショック死したことが、報道されるのを聞いたことがない。
感性が鈍ったのか、血くらいじゃ驚かないもっと悲惨なことが多すぎるのか。
携帯電話でTVを見ることが出来るようになって、我が家のTVは大きく様変わりした。
29インチブラウン管TVは液晶50インチ超となり、画面もくっきりはっきり毛穴まで。
子供時代は画面から目を離すことはなかったのに、大人になるといつも「ながらTV」。
これだけは受験勉強時代に培った「ながら(ラジオを聞きながら)族」は、健在だ。
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「センセ、主人が言うんです。長い間世話になったな、って」
「そらまた、ご丁寧な」
「そうじゃなくて、身の回りのモノを整理してどんどん捨てるんですよ」
「整理整頓が好きな、几帳面な性格じゃねー」
「そうじゃなくて、もう先がないから要らんって。ウウ・・・」
「どらどら。おろ、この皮膚は・・・脱水症じゃね-。完全に」
「シッコが近くなるから、お茶も水も飲まんって。ウウ・・・」
「暑くなってきて、汗をかいて水分取らなきゃイカン。ミイラになるデ」
「もう半分なってます。ウウ・・・」
「点滴せねば。最近、エライって言わんかった?」
「昨日から、エライエライって。あたしが口に含ませた時しか、飲んでくれないんで」
「愛は足りてるけど、水分が足らんから。ハイ、入院ね。退院したら3倍優しくしてね」
「じゃあ、Qさーん」
「センセ。主人がハンストなんです」
「痔民党が後期高齢者って言ったのが気に入らんとか?酒を増やせとか?」
「センセじゃないんだから」
「んじゃ、ナニ?」
「デイケアに行かないって、ご飯も食べんしお茶も飲まんし」
「根性有るなー、98にもなって」
「今日で2日目なんですけど、口も聞いてくれないし。眠そうで、ボーッとしてるし」
「ちょ、ちょっと待ってね。ホントに眠いんじゃろか?」
「ハイ。なんも飲んでないから、シッコもしないからオムツも変えんでエエし」
「ちょ、ちょっと待ってね。奥さんに隠れて、ナンか食べたり飲んだりしてないよね?
トイレも自分で歩いて行ってないよね?」
「そらセンセ、23年寝たきりに近いから。出来るモンなら、して欲しいくらいだわ。
ベッドまで食べ物を持って行っても、手も付けんし。挙げ句に、あたしのこと娘だと」
「そらQさん、完全に脱水症じゃ。せん妄まででとるから、ハイ入院。連れておいで」
「ホントにそうなんですウ、甘えてんじゃ?」
「甘え過ぎ以上じゃ、そら。最初はハンストじゃったかも知れんが、いまは立派な脱水症。
このままじゃミイラやで、今は奥さんの溢れる愛よりたっぷり溢れるシッコがエエ」
「イヤですよ愛なんて、とっくの昔にどっかへ行っちゃったワ」
特にお年寄りは水分を蓄える細胞の数が減って、この季節は直ぐに脱水になる。
連れあいの愛も良いけど、その前に夏は水分が大事。
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「フンフンフンッ、タコの糞っと」
「ご機嫌じゃないですか、いつになく。昨日の7倍ハタ迷惑」
「まあね、絶好調でスマンね。ウー、痒イーい」
「あらま、その手」
「何処から指か腕か、ワカランってか?それとも豚足と区別がつかんってか?」
「それはそれで言い得てミョーですけど、その赤いの」
「あ、これね。まあ、アルマジロ肌のあんたには縁がないけど」
「誰が、アラ真っ白肌ですか。確かに美白で、みんなに申し訳ないほど美しすぎて」
「妄想はそのくらいにしてネ。これって、庭作業中にタブン毛虫」
「良かったじゃないですか、毛虫だけでも気に入ってもらって」
「気に入って刺してくれたわけね。んでも、痒イー」
「ピンク針で痒いところをブチブチ刺したら、痒いのはぶっ飛びますけど」
「ぶっ飛んだんと入れ替わりに、イテーのが来るやろ。ソートー」
「そう言う人も居る」
「それしかないッ!」
「ブルー針なら、ゼンゼン痛くないでしょ。あたしはいっこうに構いませんけど」
「構いたいのはワシの方じゃッ!」
「まあまあ、堅いこと言わずに」
「ユルユルで結構ッ!注射、大ッ嫌い」
「でもセンセ、何事もやって見なきゃワカランでしょ。案外、痛くなかったりして。
高々4、5回刺すだけですから、あたしは気にしません」
「ワシは気にするッ」
「そんなことを気にしたら、刺した毛虫に笑われますわよ」
「笑う毛虫を、見せてみろッ。フンッ!」
「ワキをコチョコチョしたら、ブフッとか言って毛虫が笑ったりして」
「うー、気分悪りイ。ラウンドでもして、気を紛らわして来ようっと」
ポリポリしながら、病棟を徘徊する午後。
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大雨にたたられて晴れ渡った翌朝の11時少し前、窓の外が暗くなってきて。
「あらま、天気予報は晴だったのに」と思いつつ仕事をしていたら。
「センセ、始まってますよ」
「Pちゃんの先祖がえりが?」
「ハイ、オラウータンでオネガイします。んじゃなくて、日食」
と言うことで、使用済みレントゲンフィルムの端っこを使って撮影しました。
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