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不安視されていた【北京五輪】も無事?に終わりました。中国だけでなく日本選手団にも様々な問題が今後噴出しそうですが、またもや散々な結果に終わった「マラソン」の話をしましょう。
閉会式最中の「男子マラソン」の表彰式・・・アテネからだそうですが、馬術競技を好むものとしては『いつの間に・・?』って少々不満が残ります。マラソンを特別視するのは少々問題かと感じます。
さて、僕が普通に「マラソン」の話をしようとしても出来ません。栄光のメタボ中年ですから、3kmも書かないうちに脱水でリタイアしそうなので、本日は医師として【福島事件・裁判】と絡めて書こうと思います。
『はて? 両者にどんな関連があるのか?』 少し誤解されるかもしれませんが、今宵は僕の感じるところを書いてみます。裁判結果の「良し悪し、無罪・有罪」の話は抜きです・・・
【2時間6分32秒】・・・炎天下の北京五輪で優勝したケニアのワンジル選手の五輪新記録タイムです。
【2時間6分 程度】・・・大野病院の産科医が帝王切開で子宮を摘出するまでに要した時間です。この約30分後に心室細動が起こって、不幸なことに妊婦は死亡されてしまいました。
しかし、14時24分に始まった帝王切開は、難しい前置胎盤であっても 本来なら「30分以内」で終了するハズでした・・・想定外の「強い癒着胎盤」で無かったならば・・・
その不幸な医療事故が起こり、一昨年にTVカメラの前で産科医が逮捕され、8月20日に一審の「無罪」判決までは足掛け4年でした。事故はアテネ五輪の年に起こったものでした。そして、ご家族も 産科医も 関係者も 医療従事者も みんな長い長い時間を裁判をとおして共有してきたのです。
たった2時間余りの出来事を、14回の公判、一年以上の時間をかけて議論して「真実」を捜し求めてきたのです。でも、「真実」はなかなか共有はされませんでした。2時間の間に起こったこと一年以上裁判所で考えても答えは出ない、それならば、【大野病院の一人産科医長が2時間余りの間に感じていたこと】を考えてみたらどうだろうか?と僕は思っています。
さて、男子「1万m走」の世界記録は「約26分」のようです。女子でも30分程度でしょう。「通常の前置胎盤の帝王切開」は、ちょうど「1万m競技」の時間に相当します。
特定の選手の名前を出して恐縮ですが、北京の代表となった陽気な福士加代子選手は、今年の春 マラソンに挑戦しました。途中までは持ち前のスピードで独走状態でしたが、終盤に急速に脱落していきました。笑顔でゴールしたことが不思議な状態でした。

両者は、距離にして「4倍」、時間にして「5倍」の差がある全く別の競技です。両方とも得意な選手も確かにいますが、両方でメダルをもらえる選手は非常に限られてきます。ましてや、1万m走の速度で 42kmのマラソンを走りきることは完全に不可能です。
専門ではないので断定的なことは言えませんが、「強い癒着の無い通常の前置胎盤の帝王切開の手術」に臨む時、産科医は「1万m競技で メダルを取れる立派な仕事をしたい」との気持ちで準備し病気に立ち向かうのが普通ではないでしょうか?
ところが、今回の場合には 終盤の 8kmほど走った所で「想定外の極めて稀な強い癒着」が見つかり、10kmを超えても同じペースで(あるいは、ペースを上げて)走り続ける必要が出てきました。
このまま 15km走るのか、20km走るのか、大野病院の産科医は一人で思い悩んだに違いありません。ペースを落とさずに20km走っても全くゴールは見えず、更に30kmまで走ることが必要のようです。実際のマラソンの様に「途中棄権」は、どんなに苦しくても痛くてもできません。周りを見渡しても、福島県の大野には代わりをしてくれる選手も見つかりません。泣き叫んでも、『もういい、やめろ・・』と声をかけるコーチはいません。
必死に頑張って35kmまで走った時、どうしても出血が止められず、術前に聞いた「家族の希望」に反して子宮を摘出する決心をしますが、途方に暮れる気持ちを抱いたまま倒れこむように42kmのゴールラインを産科医は一人で走りきりました。
「10km競技」の準備を万端にして走り出し、そのままのペースで死に物狂いで「マラソン競技」を走りきったわけです。しかし、フラフラしながら走り終わっても「競技」は終わっていませんでした。産科医が足を止め倒れこめば、目の前の患者が死ぬ状況でした・・・
周りには誰もいません、「一人医長」でしたから・・・ 午前中の外来も一人で担当し、病棟の10名を超える入院患者に何かがあれば彼が対応しなければならない「一人医長」でした。大野が僻地かどうか行ったこと無いので知りませんが、走り出してから「応援」は呼べませんでした。
産科医はマラソンの42km地点のゴールを過ぎてフラフラになりながらも「妊婦の命を助けるために」必死に走り続けたことでしょう。しかし、神様が「タイムオーバー」を非情にも宣告してしまったのです。
『なぜ、産科医は 途中から「マラソン」を走ってもメダルが取れるような万全の準備をして1万m競技に出なかったのか? 何があるか分からないだろ? 命がかかっているんだよ・・ もし1%の可能性があれば、10kmでも 42kmでも メダルを取れるようにするのが医者だろ?』という批判もあるでしょう。確かに、そうあれば素晴らしいと思います。でも、実際には福士加代子選手の例をみても、それが簡単ではないことは判ると思います。彼女は42kmの準備をして臨みましたが、42kmを倒れながらゴールするのがやっとでした。
優勝した ワンジル選手、マラソンはこれがまだ3回目らしいです。僕は彼がマラソンを走るのを実際に傍で見たことがあります。彼は駅伝やハーフマラソンからマラソンに転向しています。
【2時間 0分】・・・日本男子の駅伝チームが42kmで出した記録です。マラソンの世界王者には歯が立たない日本人も、駅伝で「チーム」で闘えば、ワンジル選手より断然速く走れます。
一人の「天才ランナー」だと、途中で60km走れと言われたら対応できませんが、「駅伝チーム」なら 恐らく70kmでも立派に完走するでしょう・・・ でも大野病院の産婦人科には、優秀であっても「一人医長」がいただけでした・・・
『タスキを繋ぎ、バトンを託す』・・・ 日本人男子400mリレーは幸運もあったとはいえ、銅メダルを獲得する快挙を果しました。昔から朝原選手は大好きでしたが、彼が栄光を手にしたことを大変嬉しく思います。100m決勝には進めませんでしたが、400mリレーでのメダルの方が100倍嬉しいでしょう。
【癒着した前置胎盤の帝王切開】は術前に気付けば別の病院へ転院させたことでしょう。でも、今回は不幸にも途中で気付いてしまいました。そして、大野病院には「駅伝チーム」はおらず、簡単に「応援」が届く場所でもなかったようです。
【チーム医療・集約化】・・・これも確かに有効な方法でしょう。ただ、どんな過酷な場面でも体調を万全にして金メダルを取ることは容易いことではなく、メダルを取れなかった選手を「強制労働させる北朝鮮」と ここ「日本の医療現場」が同じ環境だと気付いて、僕は大変恐い気持ちになっています。
(以上の文、少し事実関係が不確かかもしれませんが、宜しくご高配下さい)
読んでくれてどうもありがとう
コメント
コメント一覧
ところで、ブログ『ある産婦人科医のひとりごと』にマラソンの準備をしながら、やはりマラソンに勝てなかった症例のことが紹介されていました。
私も大野病院のことについて書こうと思いつつ、まとめきらずにいます。どうにもマスコミの報道に許せないものが多々あるのですが・・・
@@便乗コメント失礼します by murajun@@
大野病院の裁判は、「判決文」の明快さに比べ、その捉え方に関してのギャップの大きさが失望となって今われわれに余震のような揺れを感じさせているのではないでしょうか? ちょっと喜べない・・というのが僕の感想です。
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