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いつまでも書き続けたいとの誘惑に負けず、今回をゲーテシリーズの最後としよう・・・
今年はゲーテが【ファウスト】の「第一部」を出版してからちょうど200年になるそうだ。ファウスト伝承は古くからあり、第一部はゲーテで無くとも書ける人はいたかもしれないが、死の直前まで80年の人生を賭して書き上げた第二部はゲーテ以外には絶対にかけなかっただろうといわれる。
今回読み直してみて確かにそう思う。そして、ゲーテの【ファウスト】が人類の宝の様に言われるのも何となく理解できた気がする。
最後のライムライトを観ないとチャップリンが理解できないように、最後のファウストを読まないとゲーテも理解出来ないように思う。天才達を「理解する」・・・とは不遜な言葉で恥ずかしいのだが。
引越しを繰り返しても僕の書棚に残ったたった一冊のゲーテ本・・・ 【ゲーテ全集 第2巻 ファウスト 人文書院版 大山定一決定訳 全12巻】 実に活字ポイントが小さく、紙も焼けてしまっていたが、昔を懐かしく思い出した。
その最後のページには懐かしい僕の字で「昭和51年 春」と書き込んであった。ちょうど文系進学を目指していた高校生の頃だった。他の11巻がどこに行ったのか忘れた・・・もしかすると全巻は購入しなかったかもしれない。あの頃の僕はゲーテが大好きだった。ただ、「ファウスト」には苦しんだのも覚えている。
胸はこがれ 思いはつのる。
あのやすらぎは もう けっして もどってこない。
そのひとの見えぬところは すべて墓。
世はおしなべて にがく くるしい。
うつろなこころ つきぬあこがれ。
何しろ当時の高校生・・・女性との性行為の経験どころか知識すら乏しく、とにかく純粋無垢・・・ファウストとグレートヒェンやヘレナとの関係も絶対に理解できるわけが無い。オマケにギリシャ神話もキリスト教も知らず、ファウストと悪魔メフィストとの二人三脚がどんな雰囲気かも分からない。若返るファウスト・・・「老い」に対する理解も全く不充分な高校生だった。
「老い」は礼儀をわきまえた来訪者、二度も三度もノックする、
だが誰も「おはいり」とは言わないので
扉のそとに立ちん坊はご免というわけ、自分で取っ手を回してはいってくる、
その足取りがあんまり早いので そこでこうなる、
「老いは礼儀知らずの無作法者」と。
ところが「ファウスト」・・・人造人間「ホムンクルス」なんて現代の幹細胞分化の姿。貨幣や干拓事業・・・何もかもが凄すぎる。30年以上の時を経て、僕は再びゲーテの虜になった。
今回、僕自身が歳をとり、女性を幾ばくか知り、医学を少しだけ知り、人生を僅かばかり知ったことが【ファウスト】を理解しやすくなった理由だとも思うが、やはり一番は池内紀さん著、山本容子さん画による新訳【ファウスト】の読みやすさだったことは間違いなかろう。とにかく散文体で読みやすい。そして、絵が作品の理解をとっても助けてくれた。
その上で書棚の古い大山定一訳ファウストを読み返すと・・・実はこちらも素晴らしく活き活きとした翻訳だった。だから高校生の僕がファウストに苦労したのは訳のせいではなく、単に僕の人生経験の少なさゆえだったのだ。
同じくゲーテが最晩年に書き上げた【詩と真実】などは青春期のゲーテ像であって僕の様な恋に恋する高校生にもすんなり受け止めやすかったが、さすがに【ファウスト】は中年以降に読むのが良いかもしれない。
詩人はだまりこくっているのを好まない、
みんなに自分を見せたがる、
賞賛も非難も覚悟のまえ。
真正面からの懺悔には二の足踏むが、
ミューズの静かな森でなら
ときどきこっそりそれをやる。
わたしの迷い わたしの励み
悩みやたのしみの数々も
ここでは花束に編みこまれた花々だ、
老いの日も 若い日も
徳も 不徳も
歌としなれば めでたいすがただ。
このようにゲーテの作品を振り返ることはゲーテの人生を振り返ることに等しく、我々読者が何歳になろうと、その時に相応しいゲーテ作品が見つかる・・と言う点で、ゲーテほど幅広く、末永く愛好される作家は世界中に僅かしかいないのであろう。
あれだけ自分の人生を露わに出来る作家なんて未来永劫でてこないだろう。人生の全てが文学作品・・・それが「ゲーテ」だったと思う。
最後に、ゲーテの作品を読めば読むほど、「女性」という性に導かれて僕も生きている気がしてくるから人生とは何とも不思議である・・・
病に苦しんで後、しばしの間「ケーテとの再会」を楽しめて本当に良かった。久しぶりの病にも少々感謝の意を述べたい・・・
楽しい生活したいなら
過ぎた事にくよくよせぬこと、
めったなことに腹立てるな。
いつも現在をたのしみ味わい
ことには人を憎まぬこと。
そして未来は神にまかしておけ。
読んでくれてどうもありがとう