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2007.07.31 20:14 |  開業 / 病院経営  |  murajun  | 推薦数 : 4

10年の月日を経て・・・

先日、ある講演会の座長をした。地元医師会での小さな講演会だった。演者は僕と同じ医局にいた同じ年齢の優秀なA先生、某大学循環器内科の准教授である。

A先生と僕は年齢が同じで似たような研究内容で同じ論文にも何度か名前を連ねた仲である。卒業大学は二人とも勤務先の大学ではなく云わば外様同士だったが、それなりに期待もされていたようだ。留学先は夫々違うが時期はほぼ同じだった。妻同士も大学同窓の仲であり、ライバルというのはA先生に失礼だろうが、何かと「似たもの同志」だったかもしれない。

大学医局と言うところは似たもの同志だと並び立ちにくい。前にも書いたが、僕は自分なりにA先生との競争に勝てる自信がなくなり、将来を考えて静かに大学を離れた。それからもう10年にもなる。

僕は公立病院の科長を経て今は診療所を開業しているが、優秀なA先生は順調に昇進して講師・助教授・筆頭准教授となって全国を舞台に活躍している。今では現教授が教授就任をした年齢となり、まさに教授適齢期である。まだ現教授の任期末が先なため、このまま残って教授になるか他大学に早めに出るかを非常に悩む年齢だと思う。

 

大学組織も時代の波に翻弄され苦悩しているため、医学部教授であるから必ずしも幸福といえる時代ではなくなっている。しかし、研究マインドを持ち続けるドクターの目指すポジションはやはり臨床医局の教授だと思う。学生や若い医師の指導、最先端の研究をやりながら最先端の医療を続けていけるのは有力大学の有力医局の教授しかないであろう。現在の大学の頂点が極めて少数の者のみにしか許されていないのは残念だと思う。もっとアメリカのように複数のトップの形態・ポジションがあっても良いのではないかと思う。ただ、現在流行のお飾り的な「臨床教授」の肩書きを量産するのは姑息に過ぎると感じる。

話を戻そう・・・・

A先生は極めて優秀、人柄も良い。ただ、インパクトのある流行の先端を走る研究業績が全国の有力な候補者に比べると必ずしも強くはない。教授選挙は多分に時の運が絡むものである。タイミングと研究の旬が、研究者の能力や資格を凌駕してしまう不条理な世界でもある。噂ではA先生も一度他大学の教授選に出て負けた事があるという。今も「色んな考え」が胸中を騒がせている事であろう。

「准教授」というポジションはなかなか難しい。最先端の研究をドンドン進めながら、教授に代わって医局の実務も取り仕切り、対外的なアピールも自身と医局の将来の為に休まず続けなければならない。給与も決して恵まれていない、というより安すぎる。留学時のマイナスが永く負担になっているハズである。教授候補としての【旬】は恐らくあと数年しかないであろう。それを過ぎると、運命に見放される事も少なくない。毎年のように全国から次々に若い優秀な候補が現れるハズである。

普通、【教授候補】の多くは全国での講演会活動が急激に増加してくる。全国的に自身の業績をアピールしていく事は教授選を有利に運ぶには必須であろう。勢い僕の地元の様な僻地にも講演会をしに来てくれる。開業医としてはありがたいが・・・色んな事を考えさせられる。

 

僕らは10年前は同じ医局の似たもの同志だった。講演会ではA先生は講演者の准教授、僕はシガナイ無報酬の座長役としてA先生を紹介して質問をする。紹介は出来るだけ有難く、質問は出来るだけ答えやすいように・・・ 僕なりに工夫して努力して、A先生が居心地良いように講演会の座長を務めた。でも、なにか素直になれない自分がいた・・・

あれから10年、もしも僕が研究を続けていたら・・・

僕も教授選への準備に苦しんでいただろうか? あるいは一つ年下の義弟のように早々と教授の座に座っていただろうか? あるいは途中で大学以外の臨床の場で勤務医を続けていただろうか? そして、「そんな僕」は今頃幸せだっただろうか?

僕は開業して10年目に入ったが、経済的にはA先生より相当恵まれてるだろう。数年前に有名大学の教授になった義弟よりも遥かに僕の生活は経済的には豊かである。でも、全く休みも取れず家族旅行にもいけない僕が幸せかというと必ずしも幸せとは感じていない・・・ 准教授も忙しいが、研究者として世界中を飛びまわれる幸福も味わえるだろう。

 

いま10年の月日を経て、A先生と僕は全く違った立場でお互いに苦労を重ねている。どちらが幸せかは恐らく人生を終える時まで分からないのであろう。

小さな講演会の座長をして発表をするA先生を見ながら、僕は色んな事を考えていた。

A先生には早く夢を実現させて欲しいと僕は願っている。

 

読んでくれてどうもありがとう。

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