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『史上最悪のウイルス』は、2002年末から2004年始めにかけて中国で猛威を振るった新型コロナウイルスによるSARS禍の詳細なるドキュメントである。あたかもフィクションの様に生き生きとした描写や内容は、当時の香港でタイムのアジア版編集長だった筆者達の取材力の賜物であろう。
500ページの医療物。もしミステリー小説なら3日で充分だが、今回はノンフィクションで内容が内容だけに慎重に読み進め、約10日を要してしまった。読了して感じる事は、・・日本人はもっとSARSに学ぶべき、という事だ。
我々がSARSを実際より軽く考えるには大きなわけがあった。
ちょうど、アメリカがイラクを攻撃開始した時期と、SARSが中国や香港を攻撃した時期が完全に重なっているのだ。バグダット攻撃の映像を見ない人は居ないが、同じ時期の中国の病院内の映像を見た人はいない。イラクの脅威は過大評価され、SARSの脅威は過小評価されていたようだ。
宮崎や岡山で発生が続く鳥インフルエンザ。人から人への感染拡大も時間の問題なのか、政府の19日の対策ガイドラインは「火葬が間に合わなければ土葬を許可する」という生々しい内容を含んでいたが、たった一人のSARS感染台湾人医師観光客に翻弄された当時の日本のことを忘れてはいけない。
この本はChina Syndromeが原題で、2005年に既に欧米で発売されたようだ。欧米か?・・などと言わずに是非すぐにでも読んで欲しい。SARSで真っ先に死の恐怖に晒されたのは病院関係者だった。新型インフルエンザはSARSどころではなさそうだ。
政治家、行政官、医療関係者、警察官、マスコミ関係者・・・新型インフルエンザのワクチン接種を優先的に受けることになる人々は、敵を良く知り対策を現実に即して考えておくべきだと思う。この本は、そんな関係者に必読の名著だと思う。医師、看護師のみなさん、かりてでもいいから絶対読んで欲しい。
Are You Ready ?
読んでくれてどうもありがとう。
56章 2003年4月10日 北京
「この建物にいる私達は一人残らずSARS患者よ」張という名の看護師が彼に言った。張も感染者だった。患者達は汚れたシーツの上に横たわり、緊張しきり、懸命に生きようと戦っている。看護師は続けた。「ここには少なくとも百人の患者が居る。数百人かもね。境遇はひどいものよ。私達は部屋を出ることは許されない。大小の用足しも、食事もこの部屋でだよ。ここの患者の少なくとも半数は他の病院の医師と看護師」
63章 4月17日 北京
極秘の救急車の車内には、患者からSARSをもらった31人の病院職員たちがいた。せきをし、ぶるぶる震える彼らに同乗している付き添い看護師は、患者が危険な息を吐き出すたびにあとずさった。白いバンの救急車が北京市内をゆっくりと巡っているとき。WHO専門家チームは中日友好医院に入った。SARS禍の規模を正確につかむのが狙いだったが、聞かされたのは作り話の明るいニユースだった。とりわけ、ウイルスに感染した医療従事者が一人も確認されなかったのは勇気付けられる話だった。だが、実は訪問の情報を聞きつけた院長の命令で、その間も救急車は市内をうろついていたのだ。
68章 5月1日 山西省
山西省の事態は中国全土のSARS作戦の縮図だった。総力戦体制へ向けて動員が行われ、疫病は独裁体制下でなければできないような手段で抑えこまれた。「中国は人的資源と人材とを民主国家ではとうてい不可能なレベルで活用出来た。伝染病が発生した時、公衆衛生当局にとって最難関の一つは、強制隔離の実施とか憲法上厳密な意味で市民的自由に抵触しかねない質問をする事だ。中国にはそのような問題がなかった。」WHO感染対策部長が後に語った。
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