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朝、懲りずに7時半に病棟へ行った。またもや誰もいなかった。
「どうしよう???」
私はもともとかなりの恥ずかしがりやだ。
知らない人は苦手。そのかわり、良く知り合えば馬鹿がつくほど親切だったりする。
そんな私にとって、この環境は劣悪だ。
日本の医学会ではヒエラルキーがものすごくて、気軽に教授になんか電話できない(人にもよるが。)私にとってのキーパーソンはやはり教授で、ここは厭でも教授に連絡をしなければと思った。
傍にいる看護士さんに外線電話の掛け方を聞いて、勇気をふりしぼって教授に電話する。
教授は車の中で、やはりご機嫌はそんなに良さそうではない。でも、仕方ないので今日は何をしたら良いか聞いた。そうしたら逆にお前は何をしたいのかと聞かれ絶句した。スケジュールも知らない私には何といったらよいのかわからなかった。しかも、彼の話すスウエーデン語はやたらに速くて聞き取りにくい。とにかくそれでも最後に「あと10分でつくから」ということであった。
その間に他のメンバーを発見したので、なんとなく紛れ込み、最終的に皆で病棟の休憩室でコーヒーを飲んでいたら教授が登場し二人で話すことになった。
とにかく業務に慣れるまでは最低、面倒を見てくれる人が必要で、複数の疾患チームを回るように、若い先生にコンピュータや病棟業務などの手ほどきをしてほしいということをお願いした。教授も毎朝私の電話を受けるのはかなわぬと、なんとか対策を立ててもらえる雰囲気になった。
今日は朝からdaVinciと呼ばれるロボットによる膀胱全摘、studer法での自己排尿型新膀胱造設である。これは膀胱を摘出しなければならないが尿道を切除する必要のない場合、小腸で新膀胱を作り、それを尿道に吻合するという比較的新しい手術である。開腹で行っても5-6時間はかかる手術で、それをロボットでやろうというのだから、どのくらいかかるのだろうか、、、。教授はこのロボットによる前立腺全摘ではヨーロッパ一の症例数を持っている。昨日は4件の前立腺全摘があった。驚異的な数である。
マッテインというスコンスカ(スコーネ地方の訛りのあるスウエーデン語)を話す可愛らしい若い先生が一緒にオペ室まで行ってくれた。途中、lost in translationの話をしたりして盛り上がった。
着替えてオペ室に入ると、看護師さんが既に術野の消毒、ドレーピングまで済ませている。すごい。日本ではありえない。そしてマッテインが手洗いをして、どんどんポートを立て始める。あっという間に臍上から内視鏡が入れられ、合計7つのポートが立った。教授と上級医が登場。当然のようにマスクをしていた私に教授が、「手洗い以外はマスクはしないことになっている」という話。マスクをした方が不潔なんだそうだ。周りを見ると皆マスクをしていない。その反面、リングや時計は禁止である。
尿管の同定、クリッピング、切除。膀胱の剥離。膀胱の外側はリガシュアーでどんどん切断されて、精嚢が露出。精管切除、あっという間にデノビエ筋膜が切開され両側勃起神経を温存、dvcが結紮なしに切開される。切開した後に連続縫合するが、殆ど出血しない。尿管は一刀両断に後壁まで切開され、膀胱と前立腺が切除された。この検体は腹腔内に転がして(?)おき、最後に摘出する。S状結腸の両側、背側を剥離し、左尿管をS状結腸の後ろを通して右側に出しておく。
次は新膀胱。小腸を手繰って虫垂を確認し、口側と肛門側の切断部を決定。回腸を約50cm切除。ここで11時半。いっせいに手を下ろしてランチタイムとなった。これにもびっくりした。日本ではどんなに長い手術でも飲まず食わずで行う。当然効率は落ちるのだが、途中でランチなんてあり得ない。
しかもスウエーデン、オペ室にジュースやお菓子を持ち込んで、術者でもマスクの横からストローで飲ませてもらったりチョコレートを口に入れてもらったりする。これも驚きである。でも、血糖値は低いより高い方が良いに決まっていると思う。
ランチの直前にロボットを覗いてみたら、モニターでは2次元にしか見えないものが見事に3次元に見える。すごい機械だ。
ランチ後、小腸小腸吻合を行い、新膀胱を作成。回腸を大部分脱管腔化して、新しく袋状に縫い直す。糸は全てモノクリルのBiosynの2-0から4-0までを使い分ける。新膀胱の縫合は1重の連続縫合である。新膀胱の縫合に先立ち新膀胱ー尿道吻合を済ませバルーンを通しておく。新膀胱の縫合の終了後両側尿管をワレス法で吻合。この際、両側尿管カテーテルを通しておく。膀胱瘻はおかない。
ざっとこんな感じであるが、手術終了は夜の9時近くであった。
教授が、「スウエーデンでは疲れたから帰っていいんだよ。」と言われたので、「日本人だから。」と答えておいた。
オペが終了したら皆雲の子を散らすようにいなくなり、、、術後管理は誰がするんだろうかと不思議だった。日本では麻酔覚醒から病棟へ戻すまで担当医はその場を離れないのが普通であるのだが、、、。
マッテインが「最後までもったね。」というので、「これが日本流なのよ。」と言ったら笑っていた。
それでも疲労には勝てず、ふらふら帰宅。再び食欲のないままベッドに倒れこんだ。
日本にいるのかスウエーデンにいるのか定かではないような遠ざかる意識の中で意識を失った。
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